合宿という名の地獄!
合宿はスタートしてます!
ロードワークから約30分後、物凄い勢いで池本が帰って来た。そのすぐ後に徳井が続く。
「はぁ、はぁ、やるな徳井……」
「はぁ、はぁ、池本さんも……」
2人が言葉を交わしたすぐ後、喜多と手塚が雪崩れ込んで来た。すぐに将士と哲男も入って来る。
「はぁ、はぁ、化け物め……」
「はぁ、はぁ、くそ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ、言葉が…はぁ、はぁ、出ない……」
将士も哲男も肩で息をし、着いて行くだけで精一杯だった事がよく分かる。
「ぼやぼやすんな、ジムワークに移んぞ!」
池本の言葉に、将士も哲男も重い身体を動かす。いきなり、合宿の厳しさを教えられた様である。
将士と哲男はロープスキッピングに移る。
「しかし……いきなりで着いて来るとは、なかなか見込み有りだな?」
「走り込んでますよね。喜多と手塚、危なかったし……」
「おい、俺は余裕だったぞ!悪人手塚と一緒にするな!」
「うるせぇスケコマシ!口ばっか!」
「言い争いしたら、お前等もう1回ロードワークな!」
「「ぐぬ……」」
「やらねぇよな?俺達仲いいもんな?」
「おう、仲良しタケちゃんカッちゃんだよな~?」
喜多と手塚は肩を組んで、池本にアピールしている。
「……西田の馬鹿が感染したな……」
「俺もそう思います!俺は気を付けないと……」
「「おい!」」
「あっはっはっは、池本君が入ると楽しいね!」
何だかんだと楽しそうではある。
将士と哲男だが、ロープが終わるとシャドーボクシングに移った。3ラウンドのシャドーが終わると、
「喜多と手塚は身体を温めとけ!徳井、ミット持つぞ!」
「はい」
「分かりました」
「一丁やりますかね!」
喜多と手塚は身体を動かし始め、池本と徳井はミットを着けてリングに上がった。
「お前、名前は?」
「中台将士です」
「そうか、マー君か。俺とミットだ!そっちは……」
「菅原哲男です!」
「手塚と被りそうだな~……よし、オマル!」
「それは嫌ですよ~!おかしいでしょ!」
「おかしいか、徳井?」
「池本さん、フォロー出来ませんよ……テッちゃんでいいじゃないすか?」
「そうか?じゃあテッちゃん、お前は徳井とミットな」
「「はい!」」
合宿初日、将士も哲男も元世界チャンピオンにミットを持って貰う事になった。
哲男だが、徳井のミットに振り回されている。徳井は現在、甲斐拳人のチーフトレーナーでありミットなんかもやっている。哲男では着いて行くのもやっとである。
「遅い遅い、当たらないよ!」
「やる気有るの?」
「ガード!」
徳井から容赦の無い激が飛んでいる。
「サンドバッグ打って、出直しだね」
4ラウンドのミット打ちが終わると、哲男は徳井からダメ出しをされた。
一方の将士だが、こちらはかなり熱量が上がっている。
「どうした、足りねぇぞ?」
「楽をするな!」
「諦めるんじゃねぇ!」
池本からの激に将士は必死に応える様に、池本の持つミットに一心不乱でパンチを打ち込んで行く。1ラウンド2ラウンドと続くうち、いつしか将士から雑念が消え、池本のミットしか見えていない様であった。
8ラウンド終了のゴングが鳴る寸前、
「ここに来い!」
池本の左のミットが、身体を左に捻った将士の斜め上に差し出される。
「パァン!」
目の覚める様な炸裂音がした。スリークウォーターから、将士は左拳を池本の構えるミット目掛けて打ち抜いた。
「よし、ナイスパンチ!…喜多と手塚、スパーリングの準備な」
「「はい」」
「マー君とテッちゃん、準備」
「「はい!」」
何と次はスパーリングとの事、まだまだ午前中である。
最初にスパーリングをしたのは哲男、相手は手塚である。天川ジムで手合わせしてはいるが、手塚が手を抜いていたのは一目瞭然であった。
このスパーリングだが、哲男は意地を見せる。確かに手塚に好きに打たれてはいるのだが、要所要所で手塚にパンチを当てている。ほんの少し見ないうちに、哲男も素晴らしく成長している。
続く将士だが、こちらは喜多が最初からエンジンを掛けており、パンチは空を切るばかりである。経験や実力からすれば至極当然なのだが、将士は項垂れる事なく喜多に向かって行く。いつしか喜多からも余裕の表情が消え、将士の善戦が分かる様になった。
どちらのスパーリングも、結局は元世界チャンピオンに圧倒される。哲男は2回、将士は3回ダウンする事となる。それでも2人は立ち上がり、相手に向かって行った。池本も徳井も、口元が緩んでいる。
スパーリングが終わり、午前中の練習が終わった。
「午後は3時からだからね。それまで休憩、昼食べて戻って来てね。泊まる所はここの2階、喜多君と手塚君も泊まるからね」
「「はい!……昼は何処で?」」
「今迎えが来るよ」
「すいませ~ん、遅くなりました!」
拳王ジムのドアを開けたのは、佐伯昴である。元フェザー級の世界チャンピオンで芸能人、更には甲斐拳人のもう1人のトレーナーでもある。甲斐は現役であり、西田拳闘会で徳井と佐伯から指導を受けている。
「「佐伯……」」
「おいおい、せめて[さん]付けしてよ」
「「さん……」」
「……喜多さんが教えただけ有るわ……」
「文句が有るのか?」
「文句しかねぇですよ!……よし、昼はカレーだ。行くぞ」
「「はい!」」
佐伯の案内で、将士と哲男は昼を食べに出掛けた。
「しかし池本さん……将士のスマッシュ、よく分かりましたね?」
「ああ、何となくな」
「でもさ……なかなかの切れだったよな?そうだろ、徳井?」
「確かに!威力なら池本さんだけど、切れとシャープさならマー君かもね」
「2人共やるよね!……喜多君、経験はどのくらい?」
「哲男は去年の4月からで、将士は……10月……」
「2人共に2年以内か、やるね!」
「手塚程度なら、来年KOだろうな!」
「納得!」
「池本さんも徳井も酷ぇよ!」
「楽しみだね!」
「違います……将士は今年の10月から……」
『はぁ?』
「おいおい、半年経ってねぇぞ?」
「荒削りだけど、凄かったよ?」
「……俺の血と汗は、半年いかない奴にやられたのか……」
「珍しいな、池本君が大ダメージだよ!これは愉快愉快、あっはっはっは!」
拳王ジムでは、色々と盛り上がっている。
一方の将士と哲男だが、佐伯に連れられ西田拳闘会の隣のカレー屋に案内されていた。経営者は西田会長である。
「う、旨い!」
「凄ぇ!旨過ぎる!」
「だろ?俺の特製[拳カレー]だからな!」
「最近、西田さんは作ってないんでしょ?」
「それでも、レシピを作ったのは俺だ!」
まさかのタイミングで、西田会長と出会った将士と哲男であった。
まだ午前中……