新たにスタート!
県大会は、見事な結果!
県大会を見事に優勝した将士の翌日、朝早くから哲男とロードワークをしていた。少しだけいつもと違った事は、大会後という事もあり将士も哲男もいつもより10分程遅かった事である。
ロードワークの帰り道、不意に将士は声を掛けられる。
「中台君おはよう!早いね!」
「あれ?雨谷さん?……どうしてこんなに早く?」
「私はいつも通りだよ?」
「……朝から熱いね~、程々にね!」
「そ、そんな……」
「哲男君、からかわないの!」
「それより顔……どうかしたの?」
「ああ、ボクシングの試合が有ってね」
「出たの?」
「一応……ごめん、後は学校でね」
将士が走り出すと、急いで哲男は付いて行った。
いつもより少し遅めの登校となった将士と哲男、
「余り朝から熱々は辞めろよな~」
「熱々って……あのね」
「おはよ~、中台君!」
「うわぁ……顔、痛そうだね……」
「ああ、おはよう……特には大丈夫だけど……」
「おい、俺には無いのか?」
「あれ?菅原君?」
「居たの?」
「最初からな!…俺の顔には触れないのか?」
「何か有るの?」
「整ったとか?」
「おい!」
昨日の女子2人である。どうやら、この2人は将士に興味深々の様である。
「あ、あの……僕、用事が有るから……ごめんね」
将士はクラスの中に走って入ってしまった。
「あ~あ……将士、行っちゃったよ……」
「菅原君が悪いんでしょ?」
「そうだよ!」
「え、何で?」
朝からとばっちりな哲男である。
教室に入った将士、席に着くとすぐにチャイムが鳴る。本日は朝礼の日、朝から放送で校長先生が話をしている。誰もが面倒臭い様な感じで話を聞いていたが、
『え~最後に、先週の金·土·日でボクシングの県大会が有りました。本校の生徒も参加し、フライ級の中台君とライト級の菅原君が見事に優勝、2月の東北大会に出場します。おめでとうございます。本日は以上になります』
この放送の後、将士のクラスは賑やかになっていた。
「中台、ボクシングやってたの?」
「優勝って、凄くない?」
「そんなに強かったの?」
将士は質問攻めに合い、苦笑いをしていた。
「はいはい、授業を始めるぞ」
担任の言葉で、この話題は一時的に収まった。
授業が終わると、将士はまたも話題の中心となる。クラスのみならず、隣のクラスからもやって来る始末。将士は休み時間になると、それとなく姿を消していた。
昼休み、将士は誰にも絡まれない様に、急いで屋上に行った。
「将士、大変だな?」
「笑い事じゃないよ!……静かに生活したいのに……」
どうやら、将士は結構迷惑している様である。しかし、哲男と昼食を食べていると平和な事に気が付いた。
「……静かだね?」
「そうだな」
「助かるけど、どうしてかな?」
「どうしてだろうな?」
「そんなの~、菅原君が居るからに決まってるじゃ~ん!」
「菅原君、怖いからね~!」
昨日応援に来た2人の女子である。
「俺が原因なのか?」
「「勿論~!」」
「……そうか、哲男君と居れば静かなのか!」
「おい将士、物凄ぇ酷ぇぞ!」
「それより~、私は片瀬奈美!」
「高田佳子だよ!」
「「中台君よろしくね~!」」
「ああ、うん……哲男君、この2人は静かには……」
「ならねぇよ!諦めろ!」
「何それ~?」
「酷くな~い?」
「うっ……ごめんなさい……」
将士の学校生活は、暫くは賑やかになりそうである。
放課後、将士はホームルームが終わるとすぐにジムに向かって走って行ってしまった。
「待てよ将士~!」
哲男は将士を追い掛ける様に、こちらも走って天川ジムを目指した。
「「お願いしま~す」」
「おう、昨日はご苦労様……浮かれてないだろうね?」
「俺は大丈夫ですよ!…将士が少し……」
「ちょっと、僕は周りがうるさいだけだよ!」
「……2人共、あの程度で何を楽観視してる!着替えてロードワークに行って来い!橋本君、自転車で付き添い!」
「はい、分かりました。ほら、早く着替えて来い」
「「はい!」」
将士と哲男は着替えると、軽く準備運動をしてロードワークに出て行った。本日より橋本トレーナーが付き添いとなり、天川会長は基礎の部分から将士と哲男を鍛える様である。
本日からのロードワークだが、いつものコースだと公園の横を通る。本日より、その公園で橋本トレーナーによる基礎トレーニングが追加となった。
「よし、ここで色々とやるぞ」
「ここで?」
「何やるんですか?」
「とりあえずは、俺の指示に従え。この公園は1周600mくらいだ、今からダッシュ」
「「はい?」」
「3分以内に入らなかったら数えないからな!今日は手始めに4本!」
「は?どういう……」
「え?今から?」
「よし……スタート!」
「「わぁぁぁぁぁぁ!」」
将士と哲男は、慌てて走り出した。
1周回って来た2人、
「哲男2分34秒、中台2分43秒」
「はぁ、はぁ、俺の勝ち!」
「はぁ、はぁ、くそ……」
「ラスト5秒……3·2·1、スタート!」
「「もう?」」
再び走り出す将士と哲男、インターバルは1分である。
このダッシュの後、2人は橋本トレーナーの指示で基礎トレーニングを徹底的に行った。昨日の勝利の余韻は、既に頭の中から消えていた。
トレーニングを終えて戻った将士と哲男、だからといってジムワークが楽になる事はない。強いて言うなら、スパーリングが無いくらいである。
「はい、やる気を感じない!中台君、サンドバッグもう1ラウンド追加!菅原君、ミット1ラウンド追加!舐めてんじゃないの?」
天川会長の気合いが感じられる。
天川会長の指示を受け、将士と哲男は必死にボクシングに打ち込んでいる。それでも弱音を吐かない、なかなか2人は大した物である。
練習が終わると、将士はバイトに移る。本日の練習は厳しい為、バイトに入る時間が遅くなってしまった。
「菅原君は勉強!明日も2人は同じメニュー!」
「「はい!」」
天川会長、本当に覚悟を決めているみたいである。
ジムの戸締まりが終わり、将士と哲男は帰路に着いた。
「会長、やけに気合い入ってたな?」
「そうだね……でも、これくらいやらないと強くならないんじゃない?」
「確かにそうだけど……結構キツイぞ?」
「……喜多さんなら、笑いながらやっちゃうんじゃない?」
「……確かに……俺達はまだまだなんだな……」
「あっはっは、当たり前だよ!喜多さんは、元世界チャンピオンだからね!……でも、絶対に近付いてみせる!」
「……将士は喜多さん好きだよな~……男が好きとか無いよな?」
「無いよ~!僕はしっかりと女性が好きだよ!」
「……そうか、将士は助平なんだな?」
「哲男君よりはマシ!」
「俺はジェントルマンだぞ!」
「エロジェントルマンだろ!」
大分話題が変わってしまっている。しかし、2人は確かに上を目指すと決意している。特に将士にとって、喜多との出会いは物凄い影響だった様である。
「将士のがエロだろ!ムッツリ助平!」
「哲男君のが助平だ!変態エロ男爵!」
「俺は変態じゃないぞ!」
「いいや、絶対変態だ!」
何故かつまらない事で言い合いをしている2人であった。
強くなる為には、これからが大切!




