目指すは全国大会?
県大会、まだまだ!
翌日も将士と哲男は同じルーティンで朝を過ごす。朝早くに2人でロードワークを行い、将士の家でシャワーを浴びて将士の母親から弁当を受け取って試合会場に向かう。
会場に向かう電車の中、
「中台、昨日は緊張しなかったのか?」
「特には……」
「凄ぇよな……どうしたら緊張しないんだ?」
「どうしたらって……喜多さんとやるより、大分気楽だよ?」
「……成る程……手塚さんが相手じゃないから、殺される事はないな」
「そうそう、あの2人よりも怖い選手はなかなか居ないからね……でも、手塚さんに少し失礼じゃない?」
「でもさ~……あの顔だぜ?」
「それは納得だけど、物騒だから辞めておこうよ」
何故か手塚の顔が怖いとの話で話が終わった。万国共通、手塚の顔は凶器に決定という所だろうか。
試合会場に着いた将士と哲男、本日も天川会長と橋本トレーナーがサポート役である。
「「お願いします!」」
「今日も頑張ろうね」
「明日に進むからな!」
「「はい!」」
挨拶すると、将士と哲男はすぐに計量室に向かった。
本日の計量も将士と哲男は1発クリアし、昨日と同じで早めに将士の母親が作った弁当を食べていた。
食事が終わり少しすると、将士も哲男もアップを始めた。本日も2人共に青コーナーである。
試合が進み、将士の試合となった。将士は既に準備万端であり、天川会長と試合について打ち合わせをしていた。係員から声が掛かり、将士と天川会長はリングに向かった。
「中台君、いつも通りだからね」
「はい」
将士は天川会長の声に返事をしてからリングに上がり、リングを確かめる様に何度か足を強く踏み込んだ後、リング中央に歩いて行った。リング中央には、本日の対戦相手である石川西高校の澤木が気合いの入った表情で将士を睨んでいた。
(しかし……中台君は冷静だね~、初めてだと思えないよ……)
天川会長が感心するくらい、将士は相手の表情に戸惑う事はなかった。全く意に返さず、寧ろニコニコしていた。もしかしたら、かなりの大物かもしれない。
レフェリーからの注意事項の説明があり、一旦各コーナーに別れると、試合開始のゴングが鳴った。
1ラウンド…………
将士は1回戦と変わらず、左ジャブを出しながら頭を振って前に出て行く。変わらない立ち上がりである。
対する澤木だが、こちらは榊と同じ様に左ジャブを放ちながら将士と距離を取って行く。1回戦の将士の戦いを見て、接近戦を避けようと考えた様である。
立ち上がり30秒程は静かだったが、澤木の左ジャブを将士が踏み込みのスピードを上げて沈む様にかわし、澤木の懐に飛び込むと一気に試合は動く。距離を取りたい澤木は将士にショートのアッパーを放つが、将士はこれをしっかりガードし澤木のボディに左右の拳を叩き付ける。澤木は何とか将士を離そうとショートのパンチを打ち込むが、将士はこれを喰らってもボディ打ちを辞めない。
澤木がボディを嫌がり、ガードを下げた所に将士の左フックが澤木の顔面に飛び込む。澤木は2·3歩後退すると、将士は一気に詰め寄って澤木をコーナーに追い込んだ。そのままラッシュする将士、少しするとレフェリーが割って入って来た。
「ダウン、ニュートラルコーナー!」
スタンディングダウンを取ったレフェリー、将士はゆっくりとニュートラルコーナーに向かって歩く。
「ワーン、ツー……」
カウントが進むが、澤木はファイティングポーズを取っている。しかし表情は少し冴えなく、明らかにに同様している。
「ファイト!」
レフェリーは両腕を交差し、試合再開をした。
ここで、澤木は不運に見舞われる。残り時間が1分以上も有る上にファイター型の将士が相手、確実に逃げ切る事は難しい。更に、将士はボクシングを始めたばかりの為、多少のフェイントを入れた所で意図が読み取れない。結果、試合再開から数秒後には澤木は将士に捕まっていた。
将士は距離が近付くと一気にラッシュをする。澤木も対抗するのだが、将士に対抗し切れない。だんだんとパンチが出なくなる澤木を将士は一方的に殴りコーナーに追い詰める。レフェリーが割って入ると、澤木は崩れる様に腰を落とした。
1ラウンド2分2秒、RSCにて将士は準決勝に勝利した。
勝ち名乗りを受け、澤木と澤木のセコンドに頭を下げた将士、そのままリングに一礼して天川会長と控え室に向かった。
「やったね、中台君!」
「ありがとうございます」
「目指せ全国大会だね?」
「……実感無いんですよね……」
「今年は東京らしいから、全国大会に行って喜多君に挨拶すればいいよ」
「……出られたら……ですね」
そんな話をしながら控え室に入った将士と天川会長、
「中台、やったな!」
「ありがとうございます」
「後は……こっちの……」
「菅原君だね……」
「だ、大丈夫っすよ!」
「うんうん、いつも通りだね」
「中台、どうすればいい?」
「どうすればって……菅原君、負けたら手塚さんを召喚するね!」
「はぁ?何で手塚さん?」
「手塚さんなら、キツ~イ練習を考えてくれるから!」
「な、お前……」
「いいアイデアだね、中台君!」
「決定だな!」
思わぬ事を言われた哲男だが、準決勝を見事に1ラウンドRSCで勝利した。どうやら、将士の活躍に発奮されているらしい。
「橋本君、明日も勝ちそうだね?」
「はい、勝って貰いましょう!」
天川会長も橋本トレーナーも、将士と哲男に期待している様である。
優勝まで後一歩!