学生の本分!
中間テスト……哲男には、かなりの強敵……
将士と哲男の1日は、哲男の勉強で終わる様になった。ジムは日曜日が休みの為、土曜日に将士の家に哲男が泊まる事になり、将士の家で哲男は勉強をしていた。日曜日は、朝のロードワークの後から勉強をし、お昼の後に2人でボクシングのビデオを見てから改めて勉強、哲男は夕飯を食べてから帰宅となった。
「しかし……この手塚さんの左は、なかなか怖ぇよな?」
「それより、この相手のジャブが見事だよ~!……これを避ける手塚さんも凄いね?」
「喜多さんのこの右ストレート、恐ろしく的確だよな?」
「その前の駆け引きも凄いよ……必ずこの右ストレートが当たるもんね?」
「徳井さんは……強いしかないな……」
「見事だね~……強いしか確かにないよ」
喜多達のビデオを見ながら、将士と哲男は盛り上がっている。どうやら、ボクシングを見る事で勉強のモチベーションも保っている様である。
「2人共、本当にボクシングが好きね?」
将士の母親はお菓子を持って来ながら、2人に声を掛けた。
「いや~、中台がこんなにボクシングを好きになってくれるとは思わなかったですよ!」
「僕は、喜多さんに運良く出会えたから……それより、菅原君は本当にボクシングが好きだよね?試合もよく覚えてるし」
「俺は……ボクシングくらいしか、熱くなる物が無いからさ……」
「彼女でも作ったら?すぐに出来るんじゃないの?」
「……彼女ね~……まぁ、そのうちかな?……中台は作らないのか?」
「僕は……作らないんじゃなくて、作れないんだよ」
「そうか?今なら大丈夫じゃないか?」
「そうかな~……」
「何だか、2人はずっと昔からの親友みたいだね?」
こんな風に、将士と哲男の仲はいつの間にか深くなっていた。お互いにいい影響を与え、時に刺激し合う大切な存在となっている様である。
そんな毎日が続き、中間テストとなる。将士も哲男もやるだけやった。後はどんな結果となるかである。
「中台、俺心配だよ……」
「珍しいね?…なる様にしかならないよ?」
「でもさ~……これだけ中台や中台のお母さんに迷惑掛けて、これで赤点だったら……」
「大丈夫だよ、赤点多かったら僕も一緒に謝るからさ!」
「いや、そうじゃなくて……」
「何だよ、らしくないな~……とりあえずはさ、頑張るしかないんだよ?その後のボクシングがしっかり出来る様に、テストにも全力投球だからね!」
「分かったよ~……お互い、頑張ろうぜ」
「うん、そうだね!」
2人はそれぞれの教室に入って行った。
中間テストは3日間で行われる。テストが終われば、その日の学校は終わりとなる。将士と哲男は、ジムにいつもより早くに顔を出し、しっかりと練習していた。
「中台君、今日はバイトはいいから、菅原君の勉強を見て上げてね!……菅原君、赤点取ったら暫く練習禁止だからね!」
天川会長の計らいで、テストが終わるまでは練習が終わると将士と哲男は将士の家に直行となった。
「……何となく分かった様な……でも心配……」
「大丈夫だよ、この辺も出来てるし……何で赤点だったの?」
「いや、ほら……誰にも聞けなくて……」
「先生に聞けば?」
「俺にはイメージが有るだろ?……簡単に先生という訳にも……」
「……良く分からないけど、何だか損してるよね?」
「そうか?」
「そうだよ!……とりあえず勉強勉強!天川会長に怒られちゃうよ!」
「おう、そうだな!」
こんな感じで中間テストは過ぎて行った。
中間テストも終わり、将士と哲男にいつもの日常が戻って来た。
「中台~、やっぱりテストが無いと学校はいいな!」
「テストが有っても、僕はいいと思うよ?」
「そうか?……まぁ、お前は頭がいいからな~……」
「違うよ、僕は菅原君が居るからね!……だから、絶対留年は許さないからね?」
「お、おう、分かった……まぁ、頑張ろうぜ!」
「そうだね、ボクシングも頑張るよ!……寧ろ、ボクシングを頑張るね!」
何となく、楽しそうな会話である。
勿論それは、天川ジムでも同じである。
「ロードワーク行って来ます!菅原君、行こう!」
「おう、今日も徹底的にやるぞ!」
2人は気合いが入っており、練習の姿勢も一段と良くなっていた。これは、最近のスパーリングで2人共に手応えが有ったからである。4回戦とはいえ、プロボクサー相手にスパーリングをしていい所が随所に見られた。日頃の練習の成果ではあるのだが、若い2人にはその成果が早く現れているのかもしれない。とても良い傾向である。
そんな日常の中、中間テストが返される日となった。この学校は順位を張り出すのだが、一応学年50位までが対象となる。
「……中台、俺が48位だよ!」
「やっぱり!…菅原君は、やれば出来ると思ってたんだ」
「ありがとう!……これで、天川会長にもでかい顔が出来る!」
「それはダメだよ。元々、赤点で心配掛ける方が問題だよ」
「しかしさ~……少しくらいは……」
「絶対ダメ!……やったら、もう勉強教えないからね?」
「はい、分かりました!俺は謙虚に生きます!」
「そう、それがいいよ」
朝から賑やかである。ちなみに将士だが、こちらは学年10位と素晴らしい結果であった。元々頭は悪くなく、勉強も苦にしていない将士であったが、5人の生徒に絡まれており勉強の邪魔をされていた事が大きかった。今はボクシングと勉強をやるのに邪魔は居ない。将士にとってはいい環境である。
昼休み、将士は屋上に行こうとしたのだが、
「中台君、ちょっと時間有る?」
「え?……まぁ、少しなら……」
呼び止めたのは、同じクラスの雨谷真琴である。席替えをして将士の隣になった女子である。
「あのさ、数学のこの問題、教えて欲しいんだけど……」
「ああ、これね……これはね……」
「お~い中台、飯食いに行こうぜ!」
「菅原君、先に行ってて!はい、お弁当……僕のは食べないでよ?」
「はいはい、考えておきますよ!しかし、女子と楽しそうだな?」
「楽しいだなんて……」
「菅原君、茶化さないの!」
「はいはい、先、行ってるな!」
「うん、よろしく!……でね、この問題なんだけど、これはこの公式を使ってね、こうしてやるとさ……」
ちょっとした学校生活の変化である。将士に声を掛ける者が少しずつ増えている事は間違いない。また、元々口調が優しく面倒見がいい将士、いつの間にか女子からも声を掛けられる様になっていた。
将士が屋上に行くと、
「ねぇ菅原君、私と付き合おうよ?」
「それは無い!……今は忙しいの!」
「何でよ~?」
「忙しいって言ってんだろ?……将士!飯にしようぜ!……じゃあ、そういう事で」
哲男は将士の方に走って来る。
「菅原君、モテるね?」
「お前だって、女子に話掛けられてたじゃねぇか?」
「僕は数学を聞かれてただけ……菅原君、告白じゃないか?」
「……今は付き合う気はねぇんだよな~……」
「嫌だからね、僕までホモだと思われるの!」
「おい、俺は普通に女が好きだぞ?」
「でもさ~……女子を振って僕の所に走って来るんだもん……勘違いされたら、しっかりと誤解を解いといてよね?」
「そうなったら、しょうがないんじゃねぇの?」
「そうなったら、お弁当は無しね!」
「おう?……何とかします……」
とても楽しい学校生活である。
放課後になり、将士と哲男は天川ジムに走って行った。
「「お願いします!」」
「おう、2人共来たね!……テストはどうだった?」
「中台は学年10位、凄いでしょ!」
「他人の事はいいから」
「俺は学年48位、赤点無しです!」
「やったじゃないか!……中台君に感謝だね!」
「はい、感謝です」
「菅原君、頑張りましたから……菅原君、着替えてロードワークだね?」
「おう、今日もやるぞ!」
将士と哲男は急いで着替えると、ジムから出て行った。
「色々と、楽しくなって来たな」
天川会長は呟きながら頭を掻いた。その口元は少し綻んでおり、何となくだが満足そうな表情である。
学生の本分は勉強ですが、ボクシングは是非に頑張って欲しい所!