思わぬ強敵?
将士と哲男、ボクシングだけでは収まらないみたい……
喜多と手塚は東京に戻ったのだが、将士と哲男の生活はそれ程変わりはない。朝は2人でロードワークをし、将士の家で朝食を食べてから2人で学校に行く。変わりがないというより、既に日課となっている様だ。将士の母親もこの2人の関係に笑顔の様である。
月日は10月となっており、2学期も中盤となっていた。
「え~、来週から中間テストとなるに当たり……」
朝のホームルームで、各クラス中間テストについての話を担任からされた。学校生活としては、テストは当たり前ではあるのだが、
「菅原、後で職員室に来る様に!」
哲男は担任から職員室に来る様に言われ、休み時間に職員室に向かった。
「菅原、お前はたまには勉強を頑張らんか?」
「頑張ってますよ~、肌に合わないだけです!」
「何故にそんなに強気なんだ?……お前、留年も有り得るぞ?」
「留年か~……1年には、可愛い子が多いですよね?」
「真面目に聞いてるのか?」
危機感が無いというかおおらかというか、哲男は余り気にしていない様子である。そんな話をしている時、タイミング良く将士が職員室に入って来た。
「菅原君、何かしたんですか?」
「おお中台、菅原が赤点ばっかりでな……」
「先生、ほんの少しですよ!」
「ほんの少しって……7科目で赤点だろ?……残りだって、ギリギリ30点くらいじゃないか」
「まぁ、際どい勝負ばかりでしたね!」
「7科目って……9科目しかないのに?」
「何だよ中台、合計で300点くらいだぜ!なかなか頑張っただろ?」
「これだよ……中台、何とかならんか?」
「菅原君、これじゃダメだよ!喜多さんも言ってただろ?手塚さんみたいになるって!」
「手塚さんみたい?」
「違った、馬鹿になるだった……」
「中台~、少し酷いぞ?」
「手塚さんには内緒ね!」
「仲が良いな~……よし、中台が面倒見る様に!」
「え~、俺は1年と同級生でも~……」
「ダメだよ、喜多さんに全部言うからね!……分かりました、頑張ります!」
どうやら、本格的に将士は哲男の勉強を見る事になった様だ。
その日の放課後、将士と哲男はいつも通りに天川ジムに走って向かった。
「「お願いしま~す!」」
「やぁ、今日もよろしくね」
迎えてくれたのは天川会長である。
「喜多さんに手塚さん、東京でも頑張ってますかね?」
「あの2人は変わらないよ。ただし、向こうでそれに付いて行ける人が居るかは知らないけどね」
「中台、俺達も負けない様にだな?」
「そうだね!……あの、天川会長……」
「どうしたの?」
「実は……菅原君が赤点多くて……」
「馬鹿、関係ないだろ?」
「ほ~う、菅原君は赤点が多いのか~……よし、練習終わったら会長室で勉強しなさい!」
「は?」
「分からない所をまとめて、中台君のバイト終わりに聞きなさい!」
「天川会長、ありがとうございます!」
「何で礼を言ってんだよ?俺はやりたくねぇぞ?」
「「黙ってやる!」」
「うっ……すいません……」
2人の迫力に、哲男も流石に素直に従うしかなかった様である。
ジムでの練習だが、将士も哲男も変わりはなかった。ロードワークに始まり、喜多と手塚が居なくなったが他のトレーナーがミットを持っていた。将士については、天川会長直々にミットを行っていた。
「おい中町、スパーリングの用意だ!菅原君に中台君、スパーリングやるからね。気合い入れてね」
「「はい!」」
将士と哲男は、天川ジムの4回戦のボクサーと2ラウンドずつスパーリングをする事になった。このスパーリングだが、天川会長から見ても2人の成長が見て取れる物となっていた。
哲男は、自分の距離をしっかりと把握し、その上でしっかりとボクシングをしていた。喜多が参考となっており、喜多から色々と学んだ様である。4回戦とはいえ、プロボクサーとのスパーリングでも引けは取っていなかった。
将士のスパーリングだが、こちらは更に驚く事となる。喜多とのスパーリングの時もそうだったが、将士は何処で学んだのか頭の振りがスムーズである。その上で左ジャブを出し、試合を組み立て様としている。確かにまだまだ狙い打ちはされるのだが、それでも前進は止めずに常に攻撃をして行く。驚くくらいの成長である。
ここで、意外な2人の戦い方に気付く。常に好戦的で物怖じしない哲男がアウト寄りのボクサーファイター型であり、他人に優しく争い事を好まない将士がファイター型のボクサーとなっている。
(う~ん、この2人は本当に面白いな~……)
天川会長は、この2人の成長が楽しみの様である。
練習が終わり、将士はバイトに移った。
「菅原君、はい勉強」
「……本気だったんすね……」
「残念だね、俺は冗談は嫌いなんだ」
「菅原君、頑張ってよね!僕はバイトしてるから!」
「分かったよ~……はぁ……」
哲男は渋々会長室に入り、鞄から数学の教科書を出して勉強を始めた。
「中台君、菅原君はそんなに酷いの?」
「赤点が7科目も有るみたいです」
「7科目!?……確か……」
「全部で9科目です」
「か~……馬鹿に拍車が掛かってるな~……」
「いやいや、きっとやれば大丈夫だと思いますよ?」
「そうか?」
「だって、ボクシングの試合とか細かい所まですっごく覚えてますもん!」
「……やる気の問題かな?」
「所で、喜多さんと手塚さんが言ってた西田さんて誰ですか?……余り頭がいいとは思えない扱いでしたけど?」
「ああ、西田君ね!西田拳闘会の会長……確かに頭は良くないよね!ボクサー達が可哀想だよ……徳井君がトレーナーで良かったけどね」
「でも……そのジムには甲斐っていう凄いボクサーが在籍してますよね?」
「そうだけどさ~……あれは西田君の手柄じゃないよね、彼は運も味方してるんだよ……いや、運が味方し過ぎかな?……気になるの?」
「少しですけど……現役の世界チャンピオンのジムですし……」
「まぁ、そのうち見に行けばいいさ。プロになって、上京するんだろ?」
「何でそれを?」
「見てれば分かるさ。喜多君と手塚君なら、多分連れて行ってくれるよ……まずはプロにならないとね?」
「はい、頑張ります!」
将士は少しずつ、自分の未来を考え始めていた。どうやら、将士は喜多と手塚のジムに行くつもりの様である。将士は何処を目標とし、どう成長していくのか、非常に楽しみである。
「はぁ~…………俺は目一杯頑張ったよ……」
「どれ?……菅原君、全然ダメ……こっちの問題やってみて」
「はい?これからやるの?」
「当たり前!」
「うっ……中台、目が怖ぇぞ……」
哲男は、現在強敵と戦闘中の様である。
頑張れ哲男!