世界を取れ!
将士、やる気充分!
将士の世界タイトルマッチが決まり、拳王ジムはいつにも増して活気が出ている。それもこれも、
「まだまだ~!喜多さん、ミット延長お願いします!」
世界タイトルマッチを行う張本人の将士の気合いが物凄い為である。自然と周りもそれに吊られている。
将士の練習はというと、スパーリングを行ってはいるのだが、その他は特に変わりはない。いつでも試合に備える、そんな拳王ジムの考えが将士に根付いているからである。
試合は5ヵ月後、将士はそこに照準を合わせている様である。
そんなある日、本日も将士は喜多と手塚とスパーリングをし、いつも通りの練習も終わった。その後で篠原会長に呼び止められた。
「将士君、リゴンドーの試合のビデオでも一緒に見ようか?」
「はい、お願いします!」
「俺達も見る事にしようぜ」
「そうだな。俺達にも必要だからな」
結局、喜多と手塚も含めた4人でリゴンドーの試合のビデオを見た。
リゴンドーだが、なかなか良いボクサーである。右のオーソドックスであり、アウトボクシングもインファイトも出来る。その上で、そのどちらもなかなかレベルが高い。
「なかなかやるな?」
「ああ、難敵だ」
喜多と手塚が話していると、とある2人が会長室に入って来た。
「失礼しますよ」
「………………」
「やぁ、佐伯君に甲斐君。待ってたよ」
「お久しぶりです!」
「おう、久しぶりだな?」
「甲斐に佐伯、元気にやってるか?」
「俺は元気ですよ……ほら」
「ああ、えっと……まぁ、それなりに……」
「甲斐君、今日はありがとうね」
「いや…………池本さんが最後に教えたボクサーですよ。俺が協力しないで、誰がするんですか?」
「俺達がするさ」
「任せとけ!」
「……ダメな2人じゃ、中台君が可哀想ですよ」
「「何たと?」」
「辞めなよ。君達は、本当に困った人だよ……さて、じゃあみんなに質問だけど……リゴンドーをどう倒す?」
「俺は……自分の距離をしっかり保って、駆け引きとスピードで勝負ですね」
「喜多らしいよな~、面倒そうだ……俺なら、真っ直ぐ突っ込んで一気に勝負だな!」
「単細胞金髪小僧め」
「うるさいわ、エセイケメン!」
「これだよ……佐伯君は?」
「俺は、徹底的にスピードで翻弄して、最後は焦れた所にカウンターをズドンですね」
「……別に、相手にやりたい事をやらせればいいんじゃないですか?その上で、全部上いけば勝手に折れるでしょ」
「将士君、どう?」
「……それぞれが凄すぎて……」
「違うよ。それだけ、リゴンドーには付け入る隙が有るって事だよ。そして、攻略は可能って事さ……ねぇ、甲斐君?」
「そうですね。世界チャンピオンなんだから、強いのは当たり前。どう攻略するか、それは各々だけど、時には強引な事も必要だし内面から折る事も必要ですね」
「さて、なかなか良い言葉を聞いた後だけど……みんなはどんなボクサーがやり辛いかな?」
「俺は……リズムも何も関係なく、ガンガン来る奴ですね。この金髪坊主みたいに」
「俺は、試合しながら計算出来る喜多みたいな奴は嫌です」
「得意な事を正面から超えてくるボクサーは嫌ですよ~」
「俺は……池本さんかな~……最後、レフェリーが止めるかゴングが鳴るまで、絶対に勝つ事に最善を尽くす……詰まる所、池本イズムを持ってる奴はかなり神経質になりますね」
「「「同感」」」
「分かった?将士君?つまり、君はこの元世界チャンピオン達から嫌なボクサーだと思われてるんだよ。だから、この元達に実力を見せてやろう」
「成る程~……つまり、世界チャンピオンになって、この4人に自慢すればいいんですね?」
「オフコース!」
「「「オフコースじゃない!」」」
「篠原会長、酷くねっすか?」
「俺達を何だと思ってるんですか?」
「中台君、篠原会長おかしくなったの?」
「……いや、篠原会長の言う通りさ。現役で、栄光を掴む可能性も挫折を味わう可能性もある。そんな中を必死に生きる事が出来る……中台君、君は俺達から見て羨ましいんだ。出来る事なら、しっかり勝って自慢してくれ」
「はい、しっかり自慢します!」
「お-おー、将士はいい気になってるね~」
「明日から、今以上の地獄を見せるとしましょうかね、喜多殿?」
「手塚殿、お主も悪よの~」
「この2人は気にしないで。それより、勝つ為の最善を尽くす為にも、甘さを残さない様にね」
「はい!」
「池本さんがさ、俺に昔言ったんだ。[世界チャンピオンになるなら、世界チャンピオンより強くなればいいだけの事さ。それだけ、単純だろ?]ってね。その単純な理論だから、あの人は勝っても負けても自分が背負ってた。負けなかったけどね……そんな背中に、俺達は憧れたのさ……全てを背負って、みんなを引っ張った背中にね」
「そうだよな~……あの背中、いつも見てたもんな~……それを、徳井さん達3人が引き継いで、その後を拳人が引き継いで……」
「昴だって、しっかり引き継いでただろ?」
「そうかな~?俺は、そうなりたかっただけ……どうだったろうな~……」
「ああ!?」
「「どうしたんすか、篠原会長?」」
「ビックリするじゃないですか?」
「何ですか?」
「……1人、呼ぶのを忘れてた……」
「「「「…………あ~…………」」」」
「……徳井さん、忘れてたんですね……」
将士がどうリゴンドーと対峙するのか、どう戦うかが見えて来た矢先に思わぬ篠原会長の失態である。
「ファックション!!……風邪かな?」
「叔父さん、大丈夫?」
「ジムではトレーナーと呼びなさい」
思いっきりくしゃみをする徳井であった。
篠原会長、思わぬ失態……
まぁ、篠原会長も人間ですからね。