神様のくれたチャンス!
試合は終わりましたが、将士のボクシングは終わった訳じゃない!これからこれから!
試合に負けた将士、本来なら休養の筈なのだが、試合の翌日にはジムワークを再開させていた。
「将士、何処か行こうよ」
「私達と出掛けよう」
アリサを始め、将士を気晴らしに誘う女性は居るのだが、
「暇がないんだ。ここからが、僕の勝負だからね」
その一言で全員を黙らせてしまった。
「篠原会長、このままじゃ将士がボクシング馬鹿になっちゃうよ~……」
アリサは篠原会長に小言を言っているのだが、
「そんな時期が有ってもいいんじゃないの?周りが見えないくらいに没頭する事があって、人は成長するんだからね」
篠原会長はアリサを諭す様に話している。しかし、その顔は何処かにやけている。篠原会長、昔の自分と将士を重ねているのかもしれない。
そんな将士の練習を見ていた喜多、篠原会長と何やら話をしていた。話をして少し経つと、手塚も呼んで更に話を進めた。
将士の練習が終わると、喜多は将士に話し掛けた。
「将士、昨日は惜しかったな?」
「……勝ったのは僕です。あれは、ミスジャッジです!」
「……しかしな~、結果は出たんだし……」
「認めません!絶対に認めません!今度こそ、完全決着を着けます!」
「……熱くなってるね~……しかし、哲男も強くなるんじゃねぇの?」
「当たり前です。そして、僕はその上を行く!」
「……そうか、それなら……将士、来週から合宿に行くぞ。徹底的に下半身から強化する。いいな?」
「勿論です!今からでもいいですよ!」
「今はダメージ抜きながら動いとけ。来週までは無理は禁止だ」
「……分かりましたよ……」
納得のいかない表情の将士だが、どうやら来週より合宿の様である。
合宿の日はあっという間にやって来た。将士は喜多に連れられ、とあるペンションに行った。
「すいません、お借りします」
「そんなにかしこまらないでよ。しかし、喜多君もトレーナーをしっかりやってるんだね?」
「まぁ、それなりですね」
「池本君も、喜んでると思うよ」
「さて、どうですかね?あの人、厳しいっすからね」
「とりあえず、頑張りなよ。そっちの若いの、しっかりね」
「はい、ありがとうございます」
ペンションのオーナーは喜多に鍵を渡して帰って行った。
「さて、今日からやるぞ」
「はい、やりましょう!……僕の他は?」
「2人だけだ。当然、スパーリングも俺が相手だ」
「分かりました。喜多さんをやっつければいいんですね?」
「出来もしねぇくせに……よし、着替えてロードワーク行くぞ」
「はい!」
将士と喜多は着替えてロードワークに出掛けた。
この合宿だが、いつもの合宿よりも走る事が多くなっていた。喜多は将士を基本から鍛え直すつもりらしい。ロードワークこそ一瞬に走るのだが、ダッシュやスクワット等については喜多は管理し激励するだけである。その後でジムワークとなるのだが、将士は基本のパンチを徹底的に反復練習する。ミットも喜多が納得するまで何ラウンドも続ける。
ミットが終わると将士は喜多とスパーリングである。疲れている所に元世界チャンピオンとのスパーリング、将士の納得出来る物ではない。だから、将士は練習が終わると1人でロードワークに出掛ける。正にボクシング一色の生活である。そして、そんな合宿は1週間続いた。
合宿が終わると、将士はいつものジムワークに戻った。いつものジムワークではあるのだが、明らかに将士の気合いの乗りが違う。試合も決まっていないのに、その気迫は危機迫っている様にさえ感じる。その証拠に、将士がスパーリングをするとパートナーは大抵KOされてしまう。辛うじて立っていたとしても、将士に滅多打ちにされている。一応、流石と言っておこう。
そんな日々が1ヵ月程続いた。将士の身体に合宿のパワーが備わってきた。攻撃が前にも増して頼もしくなっている。
そんな時、不意に拳王ジムの電話が鳴った。
「はい、拳王ジムの篠原です」
篠原会長が電話に出たのだが、途中から英語混じりに話している。コレクトコールの様である。
「オーケー、イエス……」
電話を切った篠原会長、すぐに将士を呼ぶ。会長室に将士が入る。将士の後ろから喜多と手塚も入って来た。
「……将士君、君の試合が決まったよ」
「分かりました。必ず勝ちます!」
「誰が相手っすか?」
「英語しゃべってたから、海外選手ですよね?」
「……ジョナサン·リゴンドー……」
「はぁ?WBOのチャンピオンじゃねぇっすか?」
「復帰戦で世界タイトルですか?」
「……向こうからのご指名……勿論……」
「やりますよ!勝って、哲男君を指名すればいいんですよね?」
「しかし……将士の世界ランク……」
「それがね。あの試合は色々と意見があったみたいで……」
篠原会長はボクシング雑誌を開いて喜多に渡した。そのページを喜多と手塚が覗き込む。
「あれ?将士のランク、変わってねぇじゃん」
「本当だ……何で?」
「だからね、あの試合はいろんな意見があったんだよ……ジャッジのミスじゃないかとかね。だから、将士君の世界ランクはそのままなんだよね……そして、菅原君は右拳を骨折してるから長期離脱。チャンピオンとしては、あの試合で名前を上げた選手と試合をしたいという訳さ」
「「成る程」」
「さて、将士君はどう……ってあれ?」
「将士が居ねぇ!」
「あれ?将士?」
篠原会長と喜多と手塚、慌てて会長室から出て来た。
「中台さんなら、物凄い形相で走って行きましたよ。[絶対勝~つ!]て大声出しながら」
「……どうやら、準備万端みたいだね?」
「本人が気合い充分なら、俺達はサポートするだけっすからね」
「手塚、俺達もどうやら……」
「ああ、少しはトレーナーらしくなってきたって所だろうな」
「……そこで納得しない!勝ってから納得するように!」
「「イエッサー」」
どうやら、拳王ジム初めての世界タイトルマッチが決まった様である。将士のボクシングに、1つの答えが出そうである。きっとこれは、ひたむきに頑張っている将士への神様の贈り物なのだろう。
まさかの世界タイトルマッチ!?
無冠の将士、頑張れ!