白熱の一戦!
まだまだ熱くなる試合!
4ラウンド……
将士は頭を振って前に出て行く。頭の振りを早くし、的を絞らせない様にしている。将士は詰まる所、接近してからでしか勝負出来ない。将士にとってはどうフリッカーを攻略するかである。
一方の哲男だが、こちらはフリッカーを放ちながら自身の距離をキープし始めている。将士がボクシングを始めた頃から一緒であり、将士の性格を含めて分かっている。そんな哲男だからこそ、将士のアタックにしっかりと対応している。
将士が詰めても哲男の左で離される。かわしたかと思えば、哲男の右が将士を捉える。将士が何度目かの哲男のフリッカーを掻い潜った時、哲男の右アッパーが将士を捉えた。頭をガードして飛び込んだ将士、これを待ち構えた哲男のアッパーである。将士の頭が縦に揺れた。
将士は右手をキャンバスに着いた。その事を確かめた哲男、すぐにニュートラルコーナーに歩いて行く。
「ダウン」
レフェリーがカウントを始める。将士は自分のダメージを確認し、カウント8でゆっくりと立ち上がった。
「ファイト」
レフェリーが両手を交差すると、哲男は将士のダメージを測るかの様にフリッカーを飛ばす。
将士はフリッカーを何度か避けるが、ガードの上からフリッカーを1発貰った。その時に将士が少し振ら付いた様に見えた。
次の瞬間、哲男は一気に将士に近付く。そのまま哲男は将士に攻撃を仕掛けていく。
将士がこの攻撃に飲み込まれるかと思われたのだが、何発かパンチを避けると返す身体の勢いを利用して将士は哲男に左フックを放つ。このフックが狙った様に哲男の左に被された。哲男は後ろに少し飛ぶ様に倒れた。
「ダウン、ニュートラルコーナー」
レフェリーに促された将士、自分の左手を見ながらニュートラルコーナーに歩いて行く。
レフェリーのカウントが始まるが、哲男はゆっくりと起き上がりファイティングポーズを取る。
「ファイト」
レフェリーが両手を交差し、将士が間合いを詰めて行くとゴングが鳴った。ラウンド終了である。
青コーナー……
「よく盛り返した」
「次のラウンド、行けるぞ」
将士は黙って左拳を見詰める。
「後ろに飛んでダメージを逃がしたね。五分五分といった所かな?」
「はい」
「分かってればいいよ。さて、ここから厳しくなるよ」
「はい」
篠原会長、よく分かっている。
赤コーナー……
「やりやがるな?」
「ええ……やり返します」
「おう、その粋だ。しかし、あそこでよくいなしたな?」
「あいつの事は俺が一番よく知ってますからね」
どうやら、まだまだ試合は熱くなりそうである。
5ラウンド……
将士は頭を振って前に出て行く。
哲男はフリッカーを放ちながら、将士から距離を取っていく。
構図は余り変わらない。確かに変わらないのだが、激しさは一層増している。いつの間にか将士は哲男のフリッカーを避けている。時に哲男の懐に見事に飛び込んでおり、哲男のチョッピングライトや右のショートアッパーもしっかりとブロックしている。将士もまた、哲男の事を性格から理解しているのだろう。
一方の哲男だが、こちらは将士の飛び込みに対して冷静に対処していた。右をブロックされてもさほど驚かず、当たり前の様に対応している。哲男にとって、将士はこの程度で終わる相手ではない様である。
将士が哲男のフリッカーに慣れた種明かしは、それ程ビックリする事ではない。徳井とのスパーリングの経験があり、フリッカーには出会っているのである。しかも、徳井は元世界チャンピオンである。哲男よりもフリッカーは堂にいっている。
追う将士と距離を置く哲男のその距離の駆け引きが激しくなり、段々とお互いのパンチが際どくなって来た。そして、
[パァン!]
お互いのパンチが相討ちとなり、2人の頭が同時に弾けた。その後から、2人はパンチを交錯していくうちにパンチを当てる事もある様になっていく。
哲男は将士のパンチを貰っても熱くならず、しっかりと距離を取ってパンチを返していく。
将士は哲男のパンチを貰っても前進を辞めない。前に前に、将士は圧力を掛けていく。
2人の右ブローがお互いの顔を捉え、お互いの頭が弾けた時にゴングが鳴った。ラウンド終了である。
青コーナー……
「これからだ。気持ちで負けるな」
「ガンガン行け」
「はい!」
喜多と手塚のアドバイスに、篠原会長は静かに頷いている。
赤コーナー……
「手強いな?」
「いや、楽しいですよ。これで、最後に勝つのは俺ですからね」
「その通りだ」
「哲男、気を引き締めてな。篠原が、このままとは思えんからな」
「喜多さん手塚さんに篠原会長……確かに何か有るんでしょうね」
川上会長と石谷トレーナーの言葉に、哲男は少し笑みを溢しながら答えた。
観客席……
徳井と藤沢が隣り合って座っている。
「徳井、どっちが勝つ?」
「どうだろ~?……どっちも確かに強いし、どっちもお互いを分かってるしね~……まだまだ激しくなる事だけは確かだね」
「成る程」
「何だよ?予想出来ない俺を馬鹿にしてるのか?」
「いや、そうじゃない。観客が熱くなる筈だと思ってな」
「確かにそうだね。なかなか、こんな試合は見れないかもね」
徳井と藤沢は、純粋にこの試合を楽しんでいる様である。
試合も中盤!
どうなる?