激しい戦い!
白熱の試合!
2ラウンド……
将士は変わらず前に出て行く。頭を振り、左ジャブを出して哲男に向かっていく。
対する哲男だが、こちらはしっかりと足を使い距離を取っていく。将士を中心に左に周り、自身の距離を崩さない。
この戦いは、2人のこれまでをよく表していた。2人が何に拘り、どうボクシングに向き合って来たのかが実に良く分かる。
将士は出来る事を目一杯に伸ばした。ボクサーファイターと呼ばれる万能型のボクサーが主流の現在に置いてインファイトしか出来ない生粋のファイター型の将士。だからこそ、ファイター型として前に出るスピードやタイミング、頭を振って的を絞らせない等の技術等の基本を徹底的に鍛えている。世界ランカーの哲男のジャブを難なくかわして懐に飛び込んでいく、これが将士の成長の証であり将士が拘った戦いのスタイルだろう。
一方の哲男だが、こちらはボクサー型寄りのボクサーファイターである。距離を取ってしっかりと足を使うボクシングスタイルであり、いつでも冷静に次の一手を模索する。必要に応じてインファイトも行い、常に自身が不利にならない戦い方をしている。哲男の修練の成果もしっかりと感じる。
お互いが自身の1番自信のあるスタイルで合間見え、クリーンヒットを許さない展開ながらその試合の激闘が見て取れる。希に見る素晴らしい試合である。
追う将士と距離を取る哲男その構図は変わらないのだが駆け引きやスピード、何よりお互いの意地のぶつかり合い等が垣間見えており白熱となっている。
将士が哲男の懐に飛び込み、フェイントからの左ボディを放った。このフェイントに見事に引っ掛かった哲男はボディを貰いながら左フックを将士のテンプルに当てる。ここで終了のゴングが鳴った。
青コーナー……
「まだまだこれから、気を抜くなよ」
「はい!」
「低く速く入る、いいな?」
「はい!」
「焦りは禁物だよ。いいね?」
「はい!」
(これからだよ、哲男君)
将士の口元は心成しか緩んでいる。
赤コーナー……
「速い左でリズムを作れ。同じ所に居るな。打ち終わったらすぐに動け」
「はい!」
「哲男、目の前には間違いなく最強のライバルが居る。楽しんで来い」
「はい!」
(将士、やっぱり楽しいね)
哲男の口元も少し緩んでいる。
3ラウンド……
このラウンドも立ち上がりに変わりは無い。
距離を取りたい哲男、しっかりとサークリングしながら将士と一定の距離を保っていく。
将士は哲男に近付いてからが勝負の為、こちらは頭を振って前に出て行く。同じ展開が序盤は続く。
1分を過ぎた頃、試合が動き出す。
将士が哲男のジャブを上手く掻い潜る様になって来た。元々上手く避けていたのだが、懐に難なく入る様になってきた。懐に入ってすぐに左ボディを放つが哲男はそれをブロックする。すぐに離れた哲男のジャブをすぐに掻い潜って再び哲男の懐に潜り込む将士。将士が先にリズムを作ったかに見えた。
将士が懐に潜った瞬間、哲男は将士に抱きついた。クリンチである。しかしながら、それで流れが変わるとは誰もが思っていなかった。
レフェリーが割って入り、試合が再開された。
「スパン」
切れの良い音と共に将士の頭が跳ね上がる。続け様に哲男は左ジャブを放ちながら、流れる様に動いている。哲男の左手は腰の辺りでL字になっており左右にゆっくりと揺れている。ヒットマンスタイルになっている。そこにフェイントを交えながら、哲男は将士に左ジャブを放っていく。
「パァン、パパァン」
将士の頭は何度も跳ね上がる。
「フリッカーかよ」
「あの野郎……」
喜多と手塚が呟く。
将士はいつの間にか哲男から距離を取られていた。そこから哲男はフリッカーを打ち込む。
このフリッカーだが、なかなか厄介である。余り使い手が居ない事も去る事ながら、左ジャブである為に喰らわないという事は無い。しなる鞭の様なパンチの為に貰い続けるとダメージではなく腫れが出てくる。目の付近に貰えば視覚が奪われる。これだけでも厄介な上に独特の軌道の為に避け辛い。なかなか攻略するのには大変である。
将士はガードをしっかりと上げ、直撃をしっかりと防いだ。その上で何度か前に出て行くのだが、そのアタックは悉く跳ねかえされる。哲男のフリッカーが将士を的確に捉え、将士の前進を止める。左で止まらない時は哲男はガードの上からでも右を打ち付ける。将士の前進は何度も止められる。
それでも前に出る将士、哲男のフリッカーを上手く掻い潜った。そのまま左ボディを打とうとした瞬間、
「ズドン」
哲男のチョッピングライトが将士を捉えた。
フリッカーはその性質上、パンチ自体は浮き上がりやすい。そこを見事に将士は突いたのだが、待っていた先は哲男の右の打ち下ろしである。哲男もまた、将士の先の先を見据えていたのである。
踏ん張る将士だが、右手がゆっくりとキャンバスに着いた。ダウンかと思われたが既にゴングが鳴っており、ラウンド終了となった。
青コーナー……
「やられた……」
「ここに来てフリッカーかよ……」
「いや、哲男君は流石です。でも……」
「うん、相手を認めた上で打開しよう。先は長いんだ、ここからだよ」
「はい!」
篠原会長、流石である。
赤コーナー……
「いいんだが……」
「ダウンは取っておきたかった……」
「大丈夫、まだまだこれから。しっかりやって来ますよ」
哲男はしっかりと将士を警戒していた。
まだまだこれから!