喜多は東京に、約束は厳しく!
喜多の出張も終わり……
将士は気付くと、ウェートトレーニングをして練習を上がった。勿論、哲男も将士と一緒である。その後に、将士はいつも通りにアルバイトとなった。
本日の練習は、こちらもいつも通りとなっていた。喜多と手塚が大橋とスパーリングをし、将士は片付けや掃除等をしていた。哲男も手伝っている。戸締まりも終わると、本日の営業は終了となった。
「さて、喜多君は今日までだね……ありがとう、はい報酬」
「ありがとうございます!いや~、嬉しいな~……将士、お母さんに連絡して飯でも食おうぜ!」
「母さんに?……ご飯作っちゃったと思いますよ?」
「大丈夫、今朝に話してあるから!」
「それじゃあ、哲男と一緒にゴチ!」
「俺もいいんですか、手塚さん?」
「苦しゅうない!」
「俺の金だぞ?」
「うむ、苦しゅうない!」
「……喜多さん、手塚さんはいつもこうなんですか?」
「いつもこうだ、この馬鹿!」
「将士、喜多さんも変わらないぞ!」
「あ~、確かに!」
「「おい!」」
「はっはっは、楽しそうで何よりだね」
将士達はこのまま、近くの焼き肉屋で将士の母親と合流してから向かった。
焼き肉屋に入った一行、ここは食べ放題が有り喜多としては有難い所である。
「好きなだけ食べようぜ!」
「私もいいんですか?」
「構いませんよ、喜多の金だし!」
「おい、お前が答えるな!…お世話になりましたから、気にせず食べて下さい。特に食べ放題だから、遠慮されると困ります」
「ちょっと、カルビの上10人前まだ?」
「お前は遠慮しろ、哲男!」
「遠慮したら、一生後悔します!な、中台?」
「うん!僕は上ロース10人前!」
「俺は~……上ハラミと……この上タン10人前ずつな!」
「……頼まなくても、嫌という程食べれそうだ……」
「あっはっは、楽しいですね?久しぶりに賑やかな夕食!」
焼き肉屋はとても騒がしくなっていた。
「時に喜多さん、出張は終わりですか?」
「おう、今日までだ。明日帰るよ」
「明日か……」
「将士、見送りしなさい」
「学校が……」
「たまにはサボりなさい」
「話が分かる親だな~……よし、俺も学校サボるかな!」
「菅原君はダメだよ!赤点ばっかりなんだから!」
「ぐぬ……」
「何だ哲男?そんなに馬鹿なのか?」
「いや……勉強が肌に合わなくて……」
「いいか哲男、手塚みたいになっちまうぞ?」
「おい、どういう事だ?」
「馬鹿で悪人面って事だよ!」
「この野郎!」
「だってさ~……将士は親子で……」
「わ~、手塚さん、ごめんなさい!」
「本当に……でも、いきなりあんな顔を出されたら……」
「あの~、それ以上は……一応俺も傷付くんですけど……」
「ああ、ごめんなさい!つい本音が……」
「おふっ……」
終始、楽しい食事会となった様である。
食事が終わると、それぞれ帰路に着いた。喜多と手塚は将士達親子を送り、哲男を送ってからホテルに戻った。ホテルのラウンジで、喜多と手塚はペットボトルの水を飲みながら話していた。
「しかし……お前も大人気ねぇよな?」
「何がだよ?」
「将士にさ、最後本気の一撃を入れてただろう?」
「……見事にやられたからな……」
「あれ……スマッシュだよな?」
「ああ……将士の奴、俺とやる為に必死で考えたんだろうな~……スマッシュって知らねぇで放ったと思うぜ」
「だろうな……見事なパンチだったよ」
「おう……だからこそ、もう少し見たいんだよな~……」
「確かに……哲男もそうだけど、なかなかな素材だよな?」
「ああ……」
どうやら、将士と哲男は喜多と手塚から見て、なかなか素質が有る様である。
翌日の朝、4人はいつも通りにロードワークを行った。将士と哲男もしっかりと付いて行ける様になっており、朝から気合いの入った走り込みとなっていた。
朝食を食べた後、哲男は学校に将士は喜多と手塚を見送りに行った。
「私も行きたいんだけど、お店があるから……これ、後で食べてね!」
将士の母親は、喜多と手塚に弁当を手渡した。
喜多と手塚と歩く将士、他愛の無い話をしていたのだが、不意に手塚が昨日のスパーリングの話をした。
「将士、なかなか見事だったぞ!」
「でも……最後は記憶が無くて……」
「……俺とやって、記憶が残るくらいに出来ると思ってたのか?……手塚だったら、KO勝ち出来たかもな?」
「おい、俺とやったらもっと早くKOだ!……しかし、喜多のパンチをあれだけ貰って、よく平気だったな?」
「……僕は目がいいから……」
「将士、俺のパンチが見えてたのか?」
「はい」
「将士、怖くなかったのか?」
「ほら、僕は殴られ慣れてるから!……しっかり最後まで見てパンチを貰わないと、変な所に入ると痛いし苦しいんですよ」
「ほう……それで、俺のパンチも急所を捉え切れなかったのか……」
「……喜多のパンチを最後までしっかり……普通に怖いぞ?」
「怖いよりも痛い事や苦しい事の方が嫌ですからね!」
「……将士、高校卒業したら東京に来ないか?」
「そうだよ、俺達のジムに来いよ!」
「でも……天川ジムに……」
「大丈夫、天川会長は話が分かる男だよ」
「東京に来て、目一杯ボクシングやろうぜ!」
「……高校在籍中に、プロボクサーになる事が出来たら……その時は……」
「よし、約束だからな!そして、必ずプロボクサーになれよな!約束だぞ!」
「はい、頑張ります!」
「いいか将士、口に出したら飲み込めねぇんだからな!」
「はい!」
「おうおう、喜多は格好いいね~……池本さんの受け売りなのに!」
「おい、それは言うなよ!」
「あの~……池本さんて?」
「……そのうち会うさ」
「覚悟しとけよ、喜多と比べ物にならないくらいにおかしな人だからな!」
「お前に言われたかねぇよ!」
「……強いんですか?」
「「それは保証する!」」
「じゃあな、将士!絶対東京に来いよ!」
「はい、その時はお願いします!」
「将士、喜多の阿呆が染るなよ!」
「お前のが馬鹿だろ、西田2世!」
「おい、だから酷ぇって言ってんだろ!」
喜多と手塚は言い合いをしながら、新幹線乗り場に行ってしまった。最後まで賑やかな2人であったが、将士ははっきりとプロボクサーになり東京へ行くと言った。将士の強い思いと、確かに変わって来ている事が感じられる。これからの将士に期待したい所である。
将士の目指す所、見えて来た様に思います。