暴かれた密室
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『密室』。
ここまでギャグやコメディー続きでしたのでシリアスに挑戦です。
よろしくお願いいたします。
「ふーむ、確かに密室ですなぁ」
探偵と名乗った男は、部屋の中を歩きながらちらちらと私を見る。
「さて、問題は密室が中から作られたのか、外から作られたのか、ですが……」
探偵は私の肩に手を置いた。
親指の爪が首筋に当たり、その冷たさに心臓が跳ねる。
「君、なんでしょう? 密室を作ったのは」
貼り付けたような笑顔が、視界の端から現れた。
その三日月のような目が、私の内面を覗き込んでくる……!
怖い……! 身震いが止まらない……!
「君の密室は実に見事でした。しかし綻んでいる事に、君ももう気付いているのでしょう?」
「何を、言っているんですか……?」
声が震える……!
駄目だ……、バレたら私は……!
「君には同じ音楽の道を志す友人がいますね? しかし彼女は自分よりも先に栄光を掴んでしまった。嫉妬しない方がおかしいですよねぇ?」
「そんな事ありません! 私は祝福して……!」
「ここに来ての悪あがきは無駄です。素直に認めてください。それに……」
探偵の声が重さを増す……!
「人一人死ぬところだったんです。このままにはしておけません」
「そんな事……!」
「あなたがどう思おうと、これは事実です。だから私が呼ばれたのですよ」
もう駄目だ……! こうなったら……!
「自殺、なんて選択は許されません」
「!」
「あなたは全てを話すしかないんですよ」
「……ぃや……、嫌ぁ!」
「このままでは何も解決しません。いつまでも怯えて生きるおつもりですか?」
「……でも、でも……!」
「君には心の闇に打ち勝つ力があります。さぁ勇気を出して」
「……!」
かちり、と何かが外れる音が聞こえた気がした。
「……私は嫉妬してました」
「それは何故?」
「……私の方が上手いし、賞に選ばれる資格があると思ったから……」
「そうでしたか」
「でも、あの子が認められた事は嬉しかったの……! 頑張りは知っていたから……!」
「その複雑な思いが、密室を作らせたわけですね」
ふっと肩の力が抜けた。
もうこれでおしまいだ……。
皆に話されたら、私は……。
「はい。では今後は冗談めかしてでもいいですから、言葉にする事。『悔しいなぁ。でも次は負けないよっ』くらいのノリでいいですから」
「え? あの、罰は……?」
「自分の感情を心の密室に閉じ込めた事を罰する法はありませんよ。あなたがこのままでは死に至りかねないストレスを抱えるから解放しに来たんですよ」
そう言うと、探偵はにこっと笑った。
「僕は心の密室を暴く探偵ですから」
読了ありがとうございます。
密室殺人だと思った? 残念! 心のお話でした!
単に嫉妬の気持ちを覆い隠していた子を、言語化する事で解放してストレスから救ったというお話でした。
夜中に一人泣いているのを家族に気付かれ、でも日常では感情を閉じ込めて平気な顔をするので、探偵の登場と相成りました。
……カウンセラーで良くない、ですって?
探偵にしないと皆さんを引っ掛けられないじゃないですか。
性格が悪い? 褒め言葉です!
次回キーワードは『お菓子』。
これまたなかなかの強敵……。
キーワードコンプまで後二話!
よろしくお願いいたします。