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6_検問と妙案

南斗なんしゅ! 無事でしたか!」

「よかった! 遅いから心配したんだぜ!」


 葉室はむろたちの元から戻った南斗を見て、すばるとトンボが安堵の声を上げる。


「あたしの周りにはお人好ししかいないのか!」

「「はぁ?」」


「いや、こっちの話。それより髪の毛、もらってきたよ」

 そう言って南斗が差し出した麻袋の中身を見て、昴が驚きの声を上げる。


「こんなに綺麗に取っておいてくれるなんて!」

「さすが未央みお! これなら問題ないだろ」

 トンボの言葉に昴もうなずく。


「さぁ、では、最後の目的地、S-6086に向かいましょう!」

「「お~っ!」」


 意気込みも新たにスクーターが街道を走り出した。

と、ここまでは良かったのだが。

 

「えっ、そんな」

「まじかぁ」


 街道をひた走ること数日。

P地区とS地区の境界もあったのは標識だけ、何の問題もなく通過して、S-6086まであと少しというところ。

一つ手前の町、S‐9902で入った燃料屋の情報に昴とトンボが思わず声を上げていた。


「まぁ、ここまで何もなさすぎたのよね」

 一人、やっぱりね、といった顔をする南斗なんしゅを昴が睨む。

燃料屋が言うには次の町、S-6086、は一ヶ月程前から入り口に検問が敷かれているのと言うだ。


「そこまで厳しいものではないですが、商人以外で町の外の人間が入れるかというと難しいでしょうね」

 スクーターに燃料を入れながら、そう言う燃料屋に昴がたずねる。


「私は違いますが、彼女はS-6086の出身なんです。難しいでしょうか?」

「えっ、あぁ、なんだ、そういうことでしたか! 商人でもないのに旅をしているなんて言うから、何かと思いましたけど、そうなら、そうと言ってくださいよ! だったら大丈夫。検問でご両親の名前言えば連絡をとってくれるので、迎えにきてもらうといいですよ」


「あぁ、両親ねぇ」

 何を納得したのか明るく言う燃料屋に南斗が難しい顔をする。

その様子に今度は何を察したのか、燃料屋がすっと真面目な顔をして続ける。


「確かにお二人の若さでは不安はあるかもしれません。ご両親も最初は驚かれるでしょう。でも、親はいつだって娘の幸せを祈っているんです。大丈夫ですよ。お二人で誠心誠意お話をすればわかってくれるはずです」

「えぇっ?」

 うんうん、とうなずきながら話していて燃料屋は、昴のあげた驚きの声にキッと鋭い目を向ける。


「何が、えぇっ、ですか! 君がしっかりしなくてどうするんです! 私だって妻と結婚するためにどれだけ努力したか。特に彼女の父親は昔気質の職人で、最初は口もきいてくれませんでしたが、何度も彼女への気持ちを伝えるうちにだんだんと」


「南斗、まさかこれって」

「うん、多分」

 しっかり自分の世界に入り込んで話を続ける燃料屋を昴と南斗は遠い目で見つめる。


「おい、このまま誤解させといて、さっさとずらかろうぜ」

 そんな二人にトンボがフロントバスケットからこそこそと声をかける。

 

 その言葉に昴と南斗もうなずく。

本当の事情など説明できるはずもない。ならばこのまま誤解してもらったままの方がいいだろう。

……かなり不本意ではあるが。


「ありがとうございます。頑張ってみます!」

 なんとか話の隙間を見つけて昴が言葉をねじ込む。


「だから、そこで私は……って、あっ、そうですか。うん、頑張って。燃料代はいいですよ。ささやかながら、私からのご祝儀です」

「そんな、いただけません」

 慌てて言う昴に燃料屋が笑顔で首を横に振る。

そんな昴を、さっさと行くぞ、と南斗が隠れてつつく。


「若いうちは甘えておくものですよ。さぁ、頑張って行ってきなさい」

「あっ、ありがとうございます!」

 昴と南斗は揃って頭を下げると、そそくさと燃料屋を後にした。


 燃料屋に見つかるとややこしいことになりそうなので、S‐9902もさっさと後にして、S-6086の街道の途中。

人目につきずらそうな岩陰を見つけて、一旦スクーターを止める。


「さて、どうしましょうか」

 南斗はスラム育ちだ。S-6086に頼る両親はいない。

博士がすでにS-6086にいる可能性は高いが、昴とトンボには連絡する手段がない。

手元のスクーターのスピードでは、検問を突破したとしてもすぐに捕まるだろう。


「まずは俺だけでS-6086に入って博士を探すか?」

「検問が置かれているくらいです。町中にも役人がいる可能性は高い。見慣れないドローンがあれば捕まえるでしょう」

「そうだよなぁ」

 昴の言葉にトンボが項垂れる。

どうしたものかと考え込む昴とトンボに向かって、南斗がニヤリと笑って見せる。


「ねぇ、昴にトンボ、あんた達、町に入るためならなんでもする?」

「「えっ?」」

 気味の悪い笑顔を向けたままそうたずねる南斗に昴とトンボが息を飲む。


「あたしにいい案があるんだけど」


「絶対、悪い話だと思うぜ」

「私もそう思いますが、でも……」

 こそこそと言い合う昴とトンボに南斗が詰め寄る。


「ぶつぶつ言ってないで、どうするの? ここまで来て諦めるの?」


「昴……」

「仕方ありません。嫌な予感しかしませんが、ここは南斗の話に乗りましょう」


「わかったよ」「わかりました」

「なんでもしてやるよ」「しますよ」


「そうこなくっちゃ!」

 昴とトンボの返事に、南斗は嬉々として自分のリュックサックの中を探り始めた。

さぁ、南斗の思いついた妙案とは何でしょう?

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