12_再び旅の道連れと最後の旅
「本当にどうなっても知らねぇからな」
スクーターのフロントバスケットに入ったトンボが苛々した様子で少女に声をかける。
「大丈夫! 大丈夫!」
トンボの苛々を物ともせずに嬉々とした表情で南斗が返事をする。
その様子にスクーターを運転している昴はため息しかでてこない。
なんでこんなことになってしまったのか。
話は一時間ほど前に遡る。
「へぇ~、そんな話が隠れていたとは」
げんなりとした顔の昴とは対照的に羽白は感心の声を上げていた。
羽白の診療所で南斗に詰め寄られた昴とトンボはいつものごとく、面白そうだから見に行きたいんだ、と言う理由で切り抜けようとしたのだが。
「へぇ~、ふ~ん、そぉなんだ~。じゃあ、あたしも行こうかな。面白そうだし」
「駄目です!」「駄目だ!」
「なんで?」
南斗の方が一枚どころか百枚くらい上手だった。
これ以上、南斗を危険な目には合わせられないと、慌てて止めた昴とトンボの言葉に南斗の目がスッと細められる。
その後に続く重い沈黙。正に蛇に睨まれた蛙状態。
先に耐えきれなくなったのは昴の方だった。
「実は……」
結局、洗いざらい話す羽目になってしまった。
流れ星のことはもちろん、博士や自分たちの素性まで。
知るだけでも身に危険が迫りかねない情報だ。
せめて羽白には席を外してもらうようにお願いしたのだが、無駄だった。
「南斗が無事に目覚めてよかったよね」
にっこりと笑ってそう言う羽白に昴とトンボは白旗をあげた。
「多分だけど『太陽の神殿』のことじゃないかな?」
やっと話をする気になった南斗の口からでてきた言葉に昴とトンボが食いつく。
「あたしみたいなスラム育ちには縁のない場所だったから詳しくはしらないけど、S-6086にあんのよ。確かご神体は輝く石だって聞いた気が」
「「それだ!」」
揃って声を上げる昴とトンボを見て南斗がまたニヤリと笑う。
「駄目ですよ」
今度こそはと先手を打って言う昴を無視して南斗が続ける。
「あたしも行く!」
「駄目って言ってんだろ!」
トンボも怒鳴るが南斗は、ふふん、とドヤ顔で笑う。
「だったら、今聞いた話、全部管理局にぶちまけるよ」
「はぁ~? 南斗、お前!」
「困るでしょ? 困るよね? あたしも二人を困らせたくないんだよね~」
「てめぇ! 汚ねぇぞ!」
「聞こえませ~ん」
歌うように言う南斗の姿を見ていた昴のこめかみに青筋が浮かぶ。
「遊びではないんです!」
「あたしだって遊びじゃない!」
怒鳴りつけた昴と同じくらい、いや、それよりも更に大きな声で南斗が言い返す。
その顔にさっきまでのふざけた様子は微塵もない。
「昴とトンボが探している博士って人は管理局よりも偉い人なんでしょ? だったら、あたし一人くらい楽園に連れていけるかもしれないじゃん!」
「博士にそんな力があるかなんて、わかりませんよ」
南斗の勢いに押されたまま昴がおずおずと答える。
「わかってる。でも、少しでも可能性があるなら諦めるわけにはいかないの」
南斗の言葉にトンボが、ヒュッ、と息を飲む。
その言葉はかつて自分たちを止めた修理屋の倉鍵に対してトンボ自身が言った言葉だ。
「私たちがしようとしていることは、管理局や更にその上の組織に立てつくことなんです。それがどれだけ危険か」
どうにかして南斗を止めたい昴は、それでも、と食い下がる。
この少女をこれ以上危険な目には合わせたくなかった。
「危険なんてS-6086を出ると決めた時にとっくに覚悟した」
でも、そんな昴を意思の強そうな南斗の目が見つめ返す。
「南斗、君さえよければここでずっと私の手伝いをしてくれてもいいんだよ。見ての通り、私一人の気楽な暮らしだし、安曇が独立してしまったから、人手不足なんだ」
羽白も昴の言葉を後押しする。
南斗の気持ちもわからなくはないが、立ち向かうには分の悪すぎる相手だ。
「ありがとう。でも、雨夜との約束だから」
その言葉に羽白は、そうか、と一言呟くだけだった。
「みんな、ありがとう。でも、お願い。私も連れて行ってください」
そう言うと南斗は深々と頭を下げた。
四人の間に沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは羽白だった。
「南斗、もし上手くいかなかったら、ここに帰っておいで」
「羽白さん!」
思わず声を上げた昴に羽白が続ける。
「この子は言い出したら聞かない子だ。ここで君たちに断れても一人で行くだろう。だったら連れて行ってやってくれないか?」
「仕方ねぇな」
「トンボ!」
「管理局に洗いざらい話されても困るだろうよ」
「ありがとう。みんな、本当にありがとう」
そう言って再び頭を下げた南斗を見て、昴は眉間に皺を寄せたまま南斗に言った。
「時間がありません。支度が出来たら出発しますよ」