11_鴇色の鉱石の行方と少女の故郷
羽白は昴たちを診察室の隣の部屋に案内すると、南斗に声をかけた。
「南斗、入り口に休診の札を掛けてきてくれるかい? ついでに薬屋に薬を受け取りに行ってきてくれるかな?」
「了解! 昴、トンボ、ちょっと行ってくるから待っててね」
うなずく昴とトンボを見て、南斗が部屋を出て行く。
パタンッ
玄関の扉が閉まる音をしっかり確認してから、羽白が口を開く。
「南斗には、君たちは先を急ぐ大切な用事があったんだ、としか言っていないよ。まぁ、実際に私もそれ以上のことは知らないしね」
「「あっ」」
今更なことに昴とトンボが声を上げる。
南斗もそうだが、羽白や安曇にも自分たちの事情を話していなかった。
「いいよ、話せる時が来たら話してくれればさ」
そんな二人を見て羽白は軽く笑う。
「鴇色の鉱石については手紙に書いたとおりだよ。あの人にも気を付けるように言ってあるけど、見つかったって話はないね」
その言葉に昴がトンボを見つめる。
「う~ん。でも、反応はあるんだよなぁ」
「どういうことだい?」
羽白の問いかけに昴が一瞬困った顔をするが、トンボが、構わねぇだろ、と言って、その質問に答える。
「いろいろあって、鉱石の場所がわかるようになったんだけどよ。ここに鴇色の鉱石の反応があるんだよ」
「それはかつてあった、ということではなく?」
「そう言う訳ではなさそうなんだよな」
トンボの答えに羽白が眉間に皺を寄せる。
「それはどこまで正確にわかるものなの? 場所とか?」
「座標自体はピンポイント。でも、土地勘がねぇから、結局は行ってみるしか」
それなら、と羽白が席を立って戸棚に向かう。
席に戻った羽白の手に握られていた紙を見て、昴とトンボが目を丸くする。
「お前もかよ!」
「はい?」
羽白の手には一枚の地図が握られていた。
「なるほど、そういうことか。安心して。これはP-8517の住宅図だよ。訪問で診療している家もあるからね。もちろん合法なものさ。それにしても地下の地図とは。なかなかユニークな知り合いができたみたいだね」
面白そうに言う羽白にトンボは、勘弁してくれよ、とため息をつく。
個人が勝手に地図を作るなんて重罪だ。
そんなものを作っている知り合いが二人もいたら、心配でこっちの心臓がもたない。
「それはさておき、町の中心の座標はわかるから、そこから鴇色の鉱石の場所を探してみよう」
確かに住宅図の中で一際大きな建物に数字が書き込まれている。
「ここは町役場ですか?」
「そう。よく覚えていたね。で? 新しい鴇色の鉱石の座標は?」
トンボが鴇色の鉱石の座標を告げると、羽白が首を傾げる。
「ん? その座標だと……」
羽白の細長い指が住宅図の上を滑る。
そして、住宅図からはみ出してしまった。
「えっ?」
「この町ではないってことですか?」
その姿にトンボと昴が驚きの声を上げる。
「いや、ぎりぎりこの町じゃないかな。ただ、ここなら多分大丈夫だ」
「どういうことです?」
「その座標は以前に鴇色の鉱石が見つかった採掘場の更に奥だよ。あの採掘場は役場によって厳重に封鎖されていて、誰も近寄れないよ。まぁ、一応、あの人にも言っておくね」
その言葉に昴とトンボは胸を撫で下ろす。
どうやら第二の鴇色の鉱石が人の手に渡る可能性は低そうだ。
「ただいま~」
丁度話が終わったタイミングで南斗がお使いから帰ってきた。
「薬は診察室に置いておいたよ。さぁ、旅の話を聞かせて。どんな所に行ってきたの? 『楽園』の話はあった?」
にこにこと昴とトンボに声をかける南斗に二人は黙り込む。
「どうした?」
そんな昴とトンボを南斗が不思議そうな顔で見つめる。
「南斗、今日はお前に聞きてぇことがあってきたんだ」
「すみません。もちろん南斗が目覚めたって聞いて会いたかったのも本当なんです」
トンボの言葉に昴がすまなそうな顔で言い足す。
「気ぃ使わなくていいよ。昴もトンボも大切な用事があるんでしょ? 羽白からも聞いたし」
「違います!」
へらへらと笑う南斗に昴が大きな声を上げる。
「へ?」
急なことにキョトンとした顔をする南斗に昴が続ける。
「南斗が目覚めたと聞いて本当に嬉しかったんです。旅の途中もずっと南斗のことは気にかかってましたし、こうやってまた話ができて本当に嬉しいんです。聞きたいことがあるから来ただけはないし、ましてや気を使ってなんて、そんなことは絶対に」
「ふふっ」
捲し立てる昴をしばらく目を丸くして見つめていた南斗は思わず吹き出す。
「え? 南斗?」
その様子に今度は昴がキョトンとする。
「わかった。わかった。別にあんた達がそんなに器用な奴じゃないことくらい知ってるから」
「こら、南斗。言い方」
羽白が南斗を諫めるが、よく見たらそう言う羽白も笑いを噛みしめている。
「そういうわけで、昴は南斗が大切なんだよ。わかってやってくれよ」
「トンボ!」
みんなの様子に昴は急に恥ずかしくなってくる。
「ありがとう。そんな風に言ってくれたのは雨夜以外では昴だけだよ」
俯いてしまった昴の頭を南斗がポンポンと優しく撫でた。
「で? あたしに聞きたいことって?」
その言葉にまだ少し憮然とした顔をしたままの昴が答える。
「S-6086に金色の鉱石の情報がないか教えて欲しいんです」
「南斗、確かS-6086で育ったって言っていたよな?」
「確かにあたしはS-6086の生まれだけど、金色の鉱石って、鴇色の鉱石みたいなやつってこと?」
「えぇ。何かそう言った宝があるとか、奇妙なことが起きているとか、ありませんか?」
「あ~。もしかして……」
「あるんですね!」「あるんだな!」
南斗の言葉に昴とトンボが食いつく。
その様子を見て南斗がニヤリと笑う。
「えっ」「あっ」
南斗の笑顔に昴とトンボが嫌そうな声を上げる。
そうだこの少女は確か……
「情報には対価が必要、前に教えたわよね?」
こういう奴だった。
予想通りの言葉に昴とトンボががっくりと項垂れる。
「さぁ、金色の鉱石って何なのか、話してもらいましょうか!」
明るく笑う南斗を前に、昴とトンボは顔を見合せることしかできなかった。




