9_嬉しい知らせと再会の約束
「よかった」
「全く。心配させてんじゃねぇよ」
受け取った手紙を読んだ昴とトンボは、ホッとした顔で呟いた。
返事はP-8517で診療所を開いている羽白からのものだった。
そこには、昴が町役場の保管庫にあった鴇色の流れ星を破壊した後、時間はかかったものの診療所の患者たちが一人、また一人と目を覚ましていったこと、南斗も目を覚まし、今は診療所で羽白の手伝いをしながら、体力の回復をはかっていることが書かれていた。
鴇色の流れ星については、羽白の父親でP-8517の町長である糸掛自らが指揮をして役場の保管庫はもちろん町中をくまなく調べたそうだが、何も見つからなかったそうだ。
「行ってしまうのですね?」
手紙を読む二人の様子を見ていた蛍が少し哀しそうに問いかける。
「すみません。まだやらなくてはいけないことがあるんです」
昴の言葉に蛍は首を横に振る。
「いいえ、私こそごめんなさい。落ち着いたらでいいんです。また来てください。その時はぜひお礼をさせてください」
蛍の言葉に今度は昴が慌てて首を振る。
「そんな、お礼なんて」
「何言ってんの。次の約束も取り付けないで帰らせたら、あたしが柳に文句言われるでしょ!」
熒惑の言葉にトンボが笑う。
「また来るよ。必ずな」
「それでいいのよ。さぁ、送るわ」
熒惑の後に続き、先ほどの転送された場所に戻ってきた昴とトンボ。
「あの? どうやって戻れば?」
よく見れば転送された場所には東屋の木製の玉のようなアイテムは見当たらない。
困惑した顔でたずねる昴に熒惑が答える。
「帰りはここで願うだけで大丈夫よ。って、やだ。忘れるところだった」
そう言って熒惑は昴とトンボにそれぞれ木製の勾玉を差し出す。
「ほら、あんた達の勾玉よ。トンボの分はストラップにしておいたから。これでいつでもここに来れるでしょ」
その言葉にお礼を言って、昴とトンボは勾玉を身に着ける。
トンボを抱えた昴が目を伏せ、東屋を思い浮かべると、来た時と同じように全身が眩しい光に包まれていく。
「次来る時はもう少しゆっくり来なさいね! その色気のないファッションセンスを一から叩き直してやるから!」
「お元気で! また、必ず!」
二人の言葉に手を振るが、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。
と、次に目を開けた時には昴とトンボは東屋に戻って来ていた。
稲架に預けていたスクーターを取りに行くと、色白と柳が待ち構えていた。
「色白はともかく、なんでお前がいるんだよ」
「はぁ? 折角、見送りにきてやったっていうのにその言い方はないでしょ!」
トンボの言葉に柳が言い返す。
トレードマークのポニーテールが揺れている。
「こら、柳、そうじゃないでしょ」
そんな柳を色白がたしなめる。
「この町に戻ってきていたんですね?」
昴の言葉に色白がうなずく。
「お二人のお陰です。柳にもまた会えました。ほら、柳」
色白に促されて柳が気まずそうに昴とトンボに向き合う。
「ありがと。感謝してる。今は急ぐんでしょ? 今度はゆっくり来なさい。もう少しマシな服とか教えてあげるわ」
「え……」
その言葉に固まる昴を見て、トンボが笑い声をあげる。
「何よ! 不服なの!」
怒る柳にトンボが慌てて言う。
「違ぇよ。コイツ、ついさっき、熒惑におんなじこと言われたの」
「あら」
その言葉に色白が可愛らしい声をあげる。
「なるほどね。昴、覚悟しておきなさいよ。ばっちり鍛えてあげるから」
「……ほどほどにお願いします」
機嫌をなおした柳が高らかに宣言するのを見て、昴がげんなりした顔で答える。
「ほら、お前たち、いつまでも引き止めるんじゃない」
なおも名残惜しげな色白と柳に稲架が声をかける。
「スクーター、燃料いれておいたぞ」
「えっ! ありがとうございます」
町の入り口までスクーターを押してきてくれた稲架が、そう言ってスクーターを昴に渡す。
「今度はゆっくり来てくれよな」
「はい、必ず」
稲架の言葉に力強くうなずくと昴とトンボは町を後にした。