7_新しい力と地図
「う~む」
翌朝。
早々に寒六の修理屋をたずねた昴とトンボは、トンボの改良を寒六にお願いしていた。
「頼む。あんたしかお願いできる奴がいねぇんだ」
「お願いします。『ミエナイン』を造った寒六さんの技術力が必要なんです」
「世辞は不要だ。それより、肝心の透明の流れ星とやらは? それがなければ話にならんぞ」
ジロリと睨む寒六に昴は昨夜、博士から預かった麻袋を差し出す。
「これが?」
「はい。透明の流れ星です。これを使ってトンボの改良をお願いします」
差し出された麻袋の中身を確認した寒六は、ふん、と鼻を鳴らした。
「簡単に差し出しおって。儂がこれを奪って逃げるとは思わなかったのか?」
「えっ?」
寒六の指摘に昴がキョトンとした顔をする。
その顔を見て、寒六が顔を顰める。
「ふん。お人好しめ」
「あの」
焦る昴を無視して寒六が言葉を続ける。
「来い。時間がないんだろ?」
そう言って背を向ける寒六に、トンボが、おう、と返事をして慌ててついて行く。
「あの! ありがとうございます!」
その背中に慌てて昴が頭を下げる。
「何を言ってるんじゃ! 昴、お前も手伝うに決まっているだろ。さっさと来い!」
「はい!」
昴も慌てて、寒六とトンボの後に続いた。
トンボの改良が終わる頃には日が暮れていた。
「さあ、後は透明の流れ星をセットすれば終わりじゃ」
寒六の言葉に昴がうなずく。
と、寒六が麻袋を差し出す。
「えっ?」
キョトンとした顔で見つめる昴に寒六がまた顔を顰める。
「お前の相棒じゃろ」
「あっ! はい!」
その言葉に昴は慌ててうなずき、麻袋を受け取る。
恐る恐る中身を取り出すと、丁寧に作られた氷の欠片のような透き通った石が一つ。
その静謐な美しさにその場の三人が息を飲む。
「トンボ。いいですか?」
「おう。いつでも来い!」
その返事に昴はうなずき、トンボに透明の流れ星をセットする。
と、その瞬間。
パアッ……
トンボの目から光が迸り、修理屋の壁と天井を紺碧に染め上げる。
「「うわっ」」
あまりの眩しさに寒六と昴が目を閉じる。
「こりゃ、すげぇ」
光はすぐに収まり、トンボが驚きの声を上げる。
「トンボ?」
恐る恐る目を開けた昴がトンボに問いかける。
寒六も目を開けて、興味深げにトンボの言葉を待つ。
「わかったぜ。博士との待ち合わせ場所」
「本当ですか?」
その言葉に昴が喜びの声を上げる。
「ただ……」
「ただ?」
「座標はわかるんだけどよ。行き方がわからねぇ」
「どういうことです?」
困ったように言うトンボに昴が首を傾げる。
「座標はわかるが、道がわからんということじゃろ」
寒六の言葉にトンボが、そのとおり、と答える。
「それじゃあ」
「効率は悪ぃが、座標を頼りに、あとは手探りで進むしかねぇな」
仕方ない、とうなずく二人を見て、寒六が修理屋の片隅に置かれた机の引き出しから何かを取り出す。
「これを使うがいい」
「えっ? おい、これってまさか」
「どうしてこんなものが?」
寒六が差し出したのは一枚の大きな紙だった。
そこに描かれたものを見て昴とトンボが息を飲む。
それは、地下の町と街道を示した地図だった。
昴たちが暮らす地下では一般人が地図を作ることも所持することも許されていない。
もし、管理局に見つかったらただではすまない。
「儂が実際に確認した場所、人から見聞きしたもの、書物の情報、そんなものの寄せ集めじゃ。精度は保証できんが、ないよりマシじゃろ」
唖然としたままの昴とトンボに寒六が声をかける。
「お前の座標とこの地図を合わせれば、行き方も見つかるじゃろう」
その言葉に我に返ったトンボが慌てて地図の情報を取り込む。
「ありがたい。これで行き方もばっちりだ」
「寒六さん、本当にありがとうございます」
「行先は聞かない方がいいんじゃろ?」
その言葉に昴とトンボが黙り込む。
「返事は不要じゃ。それより、なすべきことが終わったら、博士とやらと一緒にまたここに来い。トンボを造った者とやらの話を一度聞いてみたいものじゃ」
「はい」
「今日はもう遅い。今夜はここで休んで、明日立つがいい」
寒六の言葉に昴が首を横に振る。
「ありがとうございます。でも、急ぐんです」
「気持ちはわかるが、無理はいかん。ただでさえ、朝から作業し通しだったんじゃ。ドローンのトンボはともかく、お前は」
「寒六さん、トンボだけじゃないんです」
「おい」
次に何を言うのか察したトンボが声を上げる。
でも、昴はトンボを見つめて、大丈夫だと言いたげにうなずいた。
「私もアンドロイド。機械なんです」
「なんじゃと?」
昴の言葉に寒六が目を丸くする。
「だから行きます。全てが終わったら博士と一緒にまた必ずうかがいます」
その言葉に寒六はそれ以上は何も聞かずにうなずいた。
「気を付けるんじゃよ。辰には儂から話しておくよ」
そう言って寒六は昴とトンボを送り出した。




