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6_再会としばしの別れ

「来ますよね?」

「来るに決まってんだろ」


 シャワーを浴びた後、すばるとトンボは燃料屋のソファで休ませてもらうことにした。

客間があるからとしんは言ってくれたのだが、博士が来た時のことを考えて燃料屋で待たせてもらうことにしたのだ。


 辰は二階にある寝室で休んでいるので、燃料屋のスペースには昴とトンボしかいない。

二人きりの空間に不安そうな昴の声と、大丈夫と言いつつも同じくらい不安そうなトンボの返事が響く。


「信用ないなぁ」

そんな二人の声に苦笑気味の返事が返ってくる。


「「えっ?」」

突然のことに昴とトンボが驚きの声をあげて、声の主を探す。

と、燃料屋の入り口に博士が立っていた。


「「博士!」」

「しぃ~。二人とも静かに」

駆け寄る昴とトンボに博士が笑顔でそう言う。


「何を暢気なことを! 私たちがどれだけ」

「笑ってんじゃねぇよ!」

声を潜めながらも昴は博士にしがみついて文句を言う。

トンボも肩に止まり、声を荒げる。


「本当に僕を追ってきてしまったんだね」

博士はそう言うと二人の頭をそっと撫ぜた。


「さて、時間がないんだ。話を聞いてくれるかい?」

どのくらいそうしていただろう。

博士の言葉に昴とトンボはうなずくと三人はソファに腰かけた。


 言いたいことは山ほどある。聞きたいことはそれ以上に。

でも、今がその時ではないことは昴もトンボも想像がついた。

博士はきっとまたすぐに仮称楽園計画に戻ってしまう。


「まずはごめんね。そして、ありがとう」

そう言って頭を下げる博士に昴は首を横に振る。


「僕のことは忘れて二人は地下で穏やかに暮らして欲しいって言ったのは、本当だよ」

「でも、博士は黒の流れ星を葉室はむろに残した」


「うん、僕は狡いね。ごめん」

トンボの言葉に博士は顔を顰める。


「責めてねぇよ。だから、俺たちは博士を追えた。追って来てよかったんだよな」

「もう、自分のことは忘れろ、なんて言いませんよね」


「いいの? ここから先は面倒なことにしかならないよ」

博士は今まで見たことがないような心細げな目で昴とトンボにたずねた。

その顔を昴はキッと睨み返す。


「まだ言いますか? 悪いですけど、今までだって十分面倒なことしかありませんでしたし、苦労ばかりでした」

「面倒かける、なんて、今更だよ」


「……そうだね。ありがとう」

博士は泣きそうな顔で呟いた。


「さぁ、言いたいことは山ほどありますが、今は我慢してあげます。時間がないんでしょ。私たちは何をすればいいんですか?」

そんな博士を真っすぐ見つめて昴が問いかける。

その姿に博士もぐっと背筋を伸ばし答える。そこには、いつもの博士がいた。


「その眼鏡をしているってことはホログラムは見たよね?」

「あぁ」


淡路あわじさんにも会いました。金色と白銀の流れ星のことも聞きました」

「そっか。じゃあ、透明の流れ星のことも?」

博士の言葉に昴がうなずく。


「ところでスピカ、その髪は?」

「あぁ、これですか? 色々あってP-2768をでるときに切ったんです。ついでに言うと、今は昴とトンボと名乗ってます」


「えっ? トンボ? トンボって」

一瞬カノープスを見た博士が思わず顔をそむける。


「おい! どうしたんだ? ……って、博士! てめぇ!」

驚いたトンボが博士に声をかけるが、その肩が震えていることに気が付くと思わず怒鳴りつける。


「笑ってんじゃねぇよ!」

「だって、トンボって。そりゃないでしょ。見たまんまじゃん。……って、痛っ! ごめん、悪かったって!」

涙を零して笑う博士の頭にトンボがガツンと突撃する。


「博士、時間がないんですよね」

そんな二人に昴が冷たい目で声をかける。


「あっ! そうだった!」

そうだったじゃないですよ、と昴がため息とともに呟く。


「君たちにお願いしたいことは二つ」

真面目な顔でいう博士に昴とトンボが黙って次の言葉を待つ。


「一つはスピカ、じゃなかった、昴の髪だ。切った髪は修理屋に残っている?」

「髪ですか? いえ、切ったのは葉室さんの雑貨屋なので、残っているかどうか。でも、なんで切った髪なんか?」

不思議そうな顔をする昴に博士が答える。


「淡路に会ったなら、トンボのことは聞いたよね?」

「もちろん。……あっ、そういうことですか!」


「実は白銀の流れ星はもう存在しないんだ」

「えっ?」


「だから淡路のときと同じように昴の髪で代用しようと思ってたんだけど、葉室かぁ」

難しそうな顔をする博士にトンボが答える。


「いや、多分とってあるぜ。昴の髪を切ったのは未央みおさんなんだ」

「確かに。未央さんならとっておいてくれるかも」

昴とトンボの言葉に博士がうなずく。


「だったら、まずはP-2768に戻って昴の髪を取ってきて欲しい」

「わかりました。もう一つは?」

昴の言葉に博士は胸元から麻袋を取り出す。

中身はわからないが握りこぶし大のものが入っているようだ。


「ここに透明の流れ星の欠片がある。これでトンボの流れ星を探す力をバージョンアップさせて欲しい」

「これが淡路さんの言っていた透明の流れ星」

博士から麻袋を受け取った昴が呟く。


「でも、これも問題があって」

「どういうことだ?」


「今の僕にはトンボを改造している時間がない」

「だったら私が」

そう言いかけた昴は博士の顔を見て察する。


「なるほど、私では力不足なんですね」

「うん。悪いんだけど」

そう言って博士はすまなそうな顔で目を伏せる。

どうしたものかとみんなが沈黙したその時。


「寒六じいは?」

唐突に部屋の入り口からした声に博士が身構える。


「えっと、立ち聞きするつもりはなかったんだけど……って、ごめん。立ち聞きしてました。どうしても気になっちゃって」

そこには気まずそうな顔の辰が立っていた。


「辰さん! 駄目です。これ以上、余計なことを知ってご迷惑をお掛けすることになっては」

その姿に昴が慌てて声をかける。


「悪かったって」

「ところで寒六じいというのは?」

謝る辰に博士が声をかける。


「あぁ、寒六じいってのは、うちのお客さんで修理屋してんの」

「なるほど。でも、町の修理屋ではとても」

そういう博士の言葉をトンボが遮る。


「いや、いけるかもしれねぇぜ」

「トンボ?」


「博士、さっきクローゼットの俺たちを見つけられなかったよな?」

「あぁ、あれ? いや、昴の髪がちらっと見えてたからわかったけど。でも確かに体は見えなかったから不思議だったんだよね」


「あれ、寒六じいの発明品なんだ。『ミエナイン』って羽織なんだけど、光の屈折を利用して、覆ったものを見えなくするんだと」

「ネーミング、ださっ!」

思わず零れた博士の言葉にその場の全員が苦笑いする。


「……ごめん。でも、確かにそんなものを作れる腕があるならいけるかも」

「でも、そんなことしたら寒六さんにまで迷惑が」

昴の言葉にトンボと博士も黙り込む。


「大丈夫よ。寒六じいは発明以外には興味ないし、町のみんなも寒六じいが今更何を作っていても気にも留めないよ」

辰の言葉に博士が苦笑いする。


「なるほど。だったら大丈夫そうだね。今は他に選択肢もない。昴、トンボ、透明の流れ星についてはお願いしよう」

「だな。で? バージョンアップしたら俺はどうしたらいい?」


「昴の髪を持って、金色の流れ星まで来て欲しい。僕も準備をして必ずそこに行くから」

「わかった。任せとけ」

そう言うトンボに博士がうなずく。


 と、一通りの話が終わった修理屋に沈黙が降りる。


「……行ってしまうんですよね」

ポツリと昴が博士に確認するように呟く。


「うん。ごめん」

「謝らないでください」

すまなそうな顔をする博士に昴が笑いかける。


「今度はすぐに会えますよね?」

「うん」


「全部終わったら、また修理屋に戻れるよな?」

「……いいの?」

トンボの言葉に博士がまた心細げな目をして見せる。


「怒るぞ」

「ごめん。うん、必ず」


「こき使ってやりますから、覚悟しておいてくださいね」

「うん、覚悟しておく」

昴の言葉に博士は笑った。


「「じゃあ、また後で」」

「うん、また後で」


 その言葉を最後に博士は修理屋を去っていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 辰じゃないけど、三人の関係性に、感動しちゃう。 銀の髪、未央さんなら補完してそう。 [一言] 忙しくなりますね。 この章は一気読み中、テンション上昇中
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