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2_平凡な町と管理局

「この町だな」


 南に向かって走ること数日。

トンボの言葉にすばるは町の入り口でスクーターを降りる。


「地面がきちんとあるって大切ですね」

つい先日までいたM-1786を思い出して昴は思わず地面を踏みしめた。

辿り着いた町、M-4735、は、当然のことながらM-1786のように上下左右、見渡す限り真っ青なんてことはなく、土の地面を持つごく普通の町だった。


「違ぇねぇ。地面って大事だな」

トンボもフロントバズケットからでると昴の頭上をくるりと回って答えた。


「しっかし、普通の町だな。こんなところにあるんかね」

「確かに。規模もP-2768と同じくらいですかね」


 P-2768は昴とトンボが博士と修理屋をしていた町だが、大きくも小さくもない、地下ではごく一般的な規模の町だった。

今回訪れたM-4735も一見するとP-2768と同様のありふれた町の一つのようで、淡路あわじの事前情報がなければ流れ星なんて貴重なものがある町にはとても見えない。


「まぁ、まずは情報収集か」

「ですね」


 トンボの声に昴はうなずくとスクーターを押したまま燃料屋を探す。

どの町でも燃料屋には旅人や行商人が集まるので自ずと情報が集まりやすい。


「おっ、ここかな」

しばらく歩くと燃料のにおいがしてくる。


「すみません。燃料をお願いしたいんですが」

「はいよ。丁度空いてるから中に入っとくれ」

店先で声をかけると予想外に女性の声が返ってくる。

見たところ他に客がいる様子もないので、そのままスクーターを押して中に入る。


「おや? 家出」

「違います!」

もはや何度目かわからない問いかけに昴が食い気味で答える。


「修理屋をしながら旅をしている者です。未成年ですが、お代はきちんとお支払いしますので」

憮然とした顔で続ける昴にツナギ姿の女性がカラカラと笑う。


「こりゃ失礼。燃料はノーマルでいいの?」

「はい。お願いします」

女性の言葉にうなずいて昴はスクーターを差し出す。


「ところで姐さん、この辺りで珍しい石の話とか聞いたことないかい?」

燃料を入れる女性に向かってトンボが声をかける。


「あら、あんた喋れるの? 珍しい石ねぇ。別にこの町は鉱山もないし……」

「そうですか」


「何? あんた達、宝石の仕入れでもしてんの? ……そうは見えないけど」

「いんや。俺たちは修理屋だよ。訪れた町で修理しながら金を稼いで地下を旅してんだ。この前立ち寄った町で、ここで珍しい石が採れるって聞いたからさ」


「う~ん。聞いたことないね。この町でそんなの見つかったらあたしの耳に入らないわけないんだけど」

首を捻る女性の姿にこの町にはもう流れ星はないかもしれないと思いかけたその時。


「その話、どこで聞いた!」

店の入り口から嗄れ声が飛んできた。


寒六かんろくじい、いらっしゃい。って、知ってるの?」

寒六と呼ばれた老人は女性の言葉を無視して、ずんずんと昴とトンボに近寄ってくる。


「おい、小僧! その話、どこで聞いた!」

「えっ、あの、貴方は?」


「うるさい! 質問に答えるんじゃ!」

「ちょっと、どうしたのよ。……ごめんね。この人ちょっと頑固なところがあって」

昴に詰め寄る寒六を女性が慌てて押しとどめる。


「この人は寒六。ここらじゃ、みんな、寒六じいって呼んでるんだけど、あんたと同じ修理屋よ」

「発明家じゃ! 何度言えばわかるのじゃ。愚か者め!」

女性の紹介に寒六が意義を唱えたその時。


「管理局だ! 主はいるか!」

店の入り口に制服姿の二人組が立っていた。


「何よ。今日は千客万来ね」

その姿にため息をつきながら女性が店の入り口に向かう。


「やばいぞ。さっさとずらからないと」

「でも、入り口は一つしかないですよ」

慌ててフロントバスケットに逃げ込んだトンボの言葉に昴が囁き返す。


「お主ら何者じゃ?」

「えっと、今はそれどころじゃ」

どこか別の出入り口がないかとキョロキョロする昴。

と、店の入り口から女性の素っ頓狂な声があがる。

手元には一枚のチラシが握られている。


「銀髪の女の子にトンボ型のドローン? ん? トンボ型って……」

「そうだ! 少女は十四、五歳。丁度、そこの子と同じくらい……と、そこのお前! ヘルメットを脱げ! 顔を検めさせてもらおう!」

二人組の一人が店奥の昴に目を止め、大声を上げる。


「まずい」

「昴、強行突破するしかねぇぞ」

こちらに歩みを進める二人組に昴がスクーターのエンジンに手をかける。


「ちょっと待ちなさいよ。その子は寒六じいの孫よ」

「「えっ?」」

二人組の背後から掛けられた女性の言葉に昴と寒六が目を丸くする。


「そうなのか?」

目の前に迫った管理局の人間が寒六に訝し気な目を向ける。


「……そうじゃよ。儂は寒六。この町ができたときから続く修理屋にして、当代一の発明家じゃ。こやつは儂の孫にして天才発明家の跡取りじゃよ」

一瞬の間があったものの、寒六は管理局の人間をしっかりと見据えて答える。


「それに、この子、男よ。ほれ、このぺったんこな胸を見てご覧」

戻ってきた女性がおもむろに昴の胸をぺちぺちと叩く。


「確かに。銀髪の可憐な少女との話だったよな」

「この町の人間の孫な訳はないしな」

寒六と女性の言葉に二人組はこそこそと相談し始める。


「はいはい、このチラシはちゃんと店に貼っておくし、トンボ型ドローンを連れた銀髪の可憐な少女とやらをみたらすぐ連絡するから、さっさと帰っとくれ。あんたたちがいると客が入れなくて、こちとら商売あがったりだよ。それとも、管理局様ご用達の燃料屋にでもしてくれんのかい?」


 追い打ちをかけるような女性の言葉が鬱陶しかったのか、管理局の二人組は無言で店を立ち去った。


「ふぅ。やっと帰った」

二人組の背中が見えなくなったことを確認して、女性はため息をつく。


「あの! どうして?」

たずねる昴に女性は寒六と顔を合わせてからにやりと笑って言ってのけた。


「なんか、アイツら感じ悪かったから。で? あんた達何者なの?」

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