1_二者択一と新たな目的地
地下の町をつなぐ街道を一台のスクーターがのんびりと走っていく。
スクーターを運転するのは十四、五歳の少年。
名前は昴。
律儀に被ったヘルメットから、ぴょんぴょんと短い銀髪がのぞいている。
本当は綺麗な銀色の目をしているのだが、縁の太い黒縁眼鏡の印象が強く、その目に気が付くものは少ないだろう。
スクーターのフロントバスケットにはトンボ型のドローンが入っている。
名前は見た目そのままのトンボ。
「淡路さんと銀脇、上手くいきますかね」
先ほど別れた二人の少年のことを思い、昴は前を向いたままフロントバスケットのトンボに声をかける。
「大丈夫じゃね」
「そんないい加減な」
たずねた昴は返ってきた返事の軽さにおもわず眉間に皺を寄せる。
「淡路さんが持つ人間へのわだかまりもあるし、生きる時間の違いもあるし、二人の抱える問題は簡単なものでは」
しかめっ面のまま続ける昴にトンボは相変わらずお気楽な声で答える。
「そんなの二人の問題だし、わからねぇよ」
「トンボ!」
「だって本当のことだろ。俺たちでどうこうできることじゃねぇじゃん」
「それはそうですが」
「だからさ、俺たちは信じてりゃいいじゃねぇか。あいつらなら上手くいくってさ」
「……」
このドローンはいい加減そうに見せかけて、時々すごく男前なことを言う。
トンボの言葉に黙り込んだ昴は、でもそのまま褒めるのはしゃくなので。
「確かにトンボの言うとおりですね……さすが紺碧の流れ星が持つ人類の叡智の力は凄い」
一言付け加えておく。
「おい、どういうことだ! 素直に俺を褒めろよ!」
「さて、次はどこを目指しましょうか」
トンボの抗議の声を無視して、昴はさらりと話題を変える。
「あっ、無視かよ! ……そうだな。一旦、P-6761に戻るか?」
「そう……ですね」
昴たちは以前に一緒に旅をした少女の安否をたずねる手紙をP-6761で知り合った青年に預けていた。
常に移動している自分たちの代わりに返事もそこで預ってもらうことにしていたのだ。
次の流れ星を確認したら戻ろうと話してはいたのだが、思いの外、順調に進んでしまったので、まだ日にちもたいして経ってはいない。
「一旦先に進みましょうか。さすがにまだ返事はきていないでしょう」
「そうだな」
昴の言葉にトンボもうなずく。
「じゃあ、どっちにするよ? 次の流れ星の座標と、淡路の教えてくれた透明の流れ星の座標」
「えっ? 違うんですか?」
「違うんだよ。これが。俺も一緒なら話が早くていいと思ったんだけど、そう上手くはいかねぇらしい」
「淡路さんの教えてくれた場所にはもう透明の流れ星はないということでしょうか?」
「いや。それはわかんねぇ。俺が分かる流れ星の位置は一つだけだからな。透明の流れ星以外に流れ星があるってだけの話かもしれねぇ」
「なるほど」
「二つの座標は近いんですか?」
「いや、真逆」
トンボの返事に昴は顔をしかめる。
次の流れ星が白銀か金色の流れ星かもしれない。
でも、淡路の話によれば透明の流れ星には他の流れ星の力を増幅させる力があるらしい。
それでトンボの力を増幅させれば、より多くの流れ星の情報が得られるかもしれないのだ。
さて、どちらを優先させるか。
と、考え込む昴にトンボがふと思いついたとばかりに声をあげる。
「そうだ。二手に分かれるか?」
「へっ?」
予想外の言葉に昴が間の抜けた返事をする。
「いや、どっちも座標はわかってるんだから、二手に別れて、P-6761で落ち合えばいいんじゃね?」
確かに。
今までは目的地が一つだったから考えもしなかったが、二人いるのだから、それぞれが向かえばいいのだ。
でも、昴はすぐにうなずけなかった。
今まで色々あったのに、そんなに上手くいくだろうか?
常に移動している二人だ。
連絡を取り合う術もないのに別行動をして、お互いに何かあったらどうするのか。
そこまで考えて昴はトンボの提案に首を横にふった。
「透明の流れ星を優先しましょう。ここで私たちがばらばらになってしまうのは得策とは言えない気がするんです」
「まぁ、それはそうかもな。それじゃ、行くか。今度は南だ!」
「はい」
トンボの言葉にうなずくとスクーターは南を目指して走り出した。
今日から投稿を再開したいと思います。
本年もよろしくお願いします!