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10_泣き言と相棒

「悪かったな。無理矢理、泊まることにしちまって」


 淡路あわじの用意してくれた部屋でトンボがすばるにポツリと言う。

そんなトンボの言葉が耳に入っていないかのように昴がトンボにたずねる。


「トンボ、あなたの機能で金色の流れ星は見つけられないのですか?」

「はっ? 何言ってんだよ?」


 昴の唐突な言葉にトンボが戸惑いの声を上げる。

自分が黒の流れ星から読み取れる座標が一つだけなことは昴も知っているはずだ。


 前回訪れた翠色の流れ星のお陰で見つけた流れ星の位置は記録できるようになったが、未知の流れ星については相変わらず一つしか読み取ることはできない。

それに、未知の流れ星についてはそれがどんな流れ星かは行ってみないとわからない。


「やっぱり無理ですか。……単純に流れ星の量が増えれば性能は上がるのでしょうか? と言っても黒の流れ星は増やせませんから、淡路さんにお願いして紺碧の流れ星を分けてもらいましょう。まだ部屋にいますかね? 遅い時間ではありますが、淡路さんもアンドロイドです。どうせ寝てはいないでしょう」


「おい、昴、落ち着けよ」

様子のおかしい昴にトンボが少し落ち着くように声をかけるが、昴の目はトンボを見てはいない。


「それとも白銀の流れ星を手に入れる方が先でしょうか?」

「昴、お前、どうしたんだよ」


 どんどん早口になっていく昴の周りをトンボが声を掛けながら飛ぶ。


「私が記憶を取り戻せないとしても、私の中に白銀の流れ星があることに違いはありません。……そうだ! 私から白銀の流れ星を取り出しましょう! 流れ星だけにすれば本来の能力を取り戻すかもしれません! さぁ、トンボ! 私から流れ星を取り出すんです!」


 自分の周りを飛ぶトンボを捕まえて昴がそう叫ぶ。


「だから、落ち着けっつってんだろ!」

と、トンボは昴の手を振り払い、そのおでこに体当たりする。


「痛っ!」

手加減のないトンボの突撃に昴は思わずおでこを押さえてうずくまる。


「何するんですか! 壊れたらどうするんです!」

「そうだよ! お前が壊れたら誰が博士を助けに行くんだよ!」


 昴の抗議の声にトンボが言い返す。


「えっ? あっ、いえ、そうじゃなくて」


 トンボの怒鳴り声に昴はキョトンとしてしまう。


「しっかりしろよ! 何、パニックになってんだよ! 博士には俺たちしかいねぇんだぞ! 俺たちがしっかりしなくてどうするんだよ!」


 トンボはくるくると昴の周りを飛びながら話し続ける。


「お前から白銀の流れ星を取り出す? 誰がやるんだよ、そんなこと! 俺はご免だぜ! 博士がそれを望むと思うのかよ! ちょっと考えりゃ、わかんだろうよ!」


「えっと、あの、トンボ?」


 そんなトンボを見て昴が戸惑いながら声をかける。

でも、今度はトンボに昴の言葉が届いていそうにない。


「あっ、あの、私はトンボが壊れては困ると……」


「淡路も言っていただろうよ。スピカ、お前の名前は可愛い女の子なんだよ! 博士は白銀の流れ星だからお前を側に置いていたんじゃねぇ。お前だから一緒に暮らしていたし、お前だからこの世界を守りたいと思ったんだよ! 分かれよ! それくらい!」


 話すスピードとともに昴の周りを飛ぶスピードもどんどん速くなっていく。


「トンボ、わかりました! わかりましたから! 一度止まってください! 目が回って仕方ないです!」

「えっ? あっ、悪ぃ。気が付かなかった」


 昴の言葉にトンボが慌てて止まる。

と、昴がポツリと呟いた。


「私が白銀の流れ星としてきちんと機能していれば、博士はすでに自分の目的を果たしていたのかもしれません」

「だから、違ぇって!」


 その言葉にトンボが声を荒げる。


「いえ、聞いてください。……違いますね。言わせてください。言っても仕方ないことなんです。でも……」

そこまで言うと昴は俯いたまま黙り込んでしまう。


「しゃあねぇな。聞いてやるよ。なんせ俺はお前が迷わないようにいるんだからな」

そう言うとトンボは昴の肩に止まり、その頬をつつく。


「トンボ……」

「ほれ、話して見ろよ。今回は記録しないでおいてやるからよ」


「私が白銀の流れ星として機能できなかったせいで博士は目的を果たせず、結果、『仮称楽園計画』に連れ戻されることになってしまった。私さえしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」


 一度トンボを見つめた昴はそう言って、また俯いてしまった。


「……」

「……」


「……えっ? それだけ?」

「えっ? あっ、はい」


 トンボの言葉に昴がキョトンとしてうなずく。


「噓だろ。もっと泣き言いいたいんじゃねぇの? それだけ? たったの? 一応、一晩中聞く覚悟してたんだけど」

「泣き言って、そんなにはっきり言わないでください。それに一晩中って。そんなに言いませんよ」


 苦笑する昴に、な~んだ、とトンボが残念そうに言う。


「まぁ、背負いこみ過ぎだな。お前は自分の能力を過信し過ぎなんだよ」

「なんですか、それ。励ますなら、もう少し言い方があるでしょう」


「ば~か。こんなに優秀な相棒がいるんだ。もっと頼れよ」

「……はい」


「まぁ、探すべき流れ星が何かわかったんだ。一歩前進だろ」

「ですね」


 昴はトンボの言葉にうなずいた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] トンボの爺やっぷりが素晴らしい 博士の願いどおり、昴を導いてる姿は 色々と感慨深いですね。
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