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9_造られた理由と博士の願い

 再び部屋に明りが付いたとき、淡路あわじは執務机で手紙を読んでいた。

その淡路が過去の淡路であることをすでに承知しているすばるとトンボは、淡路の次の行動を固唾を飲んで見守った。


 と、過去の淡路は手紙を読み終わったようで、徐に手紙の返事を書き始める。

昴とトンボの座るソファからは淡路の手元までは見えない。


「おいおい、これじゃ、何もわからねぇぞ」

「そうですね」


 何も言わない過去の淡路にトンボが不服そうに言うと、昴もその言葉にうなずく。


「まぁまぁ、もう少し待っていてください」

そんな二人を宥めるように淡路が声をかける。


 しばらくすると返事を書き終えたのか、淡路が執務机に手紙を残したまま席を立ち、部屋には誰もいなくなった。


「さぁ、残された手紙を見ても大丈夫ですよ」

「見れるのか!」


 驚きの声を上げるトンボに淡路が、元に戻しておけば問題ない、と答える。

その言葉に昴とトンボは急いで執務机の手紙に駆け寄る。


「噓だろ……」

手紙を読み終えたトンボが茫然と呟く。

昴は何も言えずにただ立ち尽くしていた。


 それは予想したとおり博士から淡路に宛てた手紙だった。


 手紙には以前に淡路からもらった髪の毛と黒の流れ星を使い、流れ星探索機を作り上げたこと。

それを使って、いくつかの流れ星を見つけたものの、金色の流れ星はまだ見つからないこと。


 そして。

白銀の流れ星を宿すアンドロイドを見つけたことが書かれていた。


 手紙は見つけたアンドロイドが故障していて、修理に苦戦していること。

もし、アンドロイドの修理の仕方を知っていれば教えて欲しいと書かれて終わっていた。


「さて、また少し先に時間を進めましょう」

昴とトンボの返事を待たず、淡路はそう言うと部屋の電気がまた消えた。


「残念ながら僕もアンドロイドの修理の仕方は知りませんでした。でも出来る限りの資料を彼女にお送りしたんです」


 明るくなるとそこはまた淡路の部屋だった。

しかし、今度は最初から部屋に誰もおらず、執務机の上に手紙が一通置かれている。


「ここは先ほどの手紙から数年後の記録です。机の上にあるのは博士から手紙です」

どうぞ、という淡路の言葉に昴が手紙に手を伸ばす。


 そこには淡路からの資料のお礼と白銀の流れ星を宿したアンドロイドをなんとか修理できたこと。

でも、修理したアンドロイドには過去の記憶がなかったことが書かれていた。


「白銀の流れ星を宿したアンドロイドをスピカと名付けることにしました。乙女座の星からとりました。白銀の流れ星としてではなく、可愛い女の子として過ごせるように」

トンボが手紙の一文を飲み上げる。


「自分にもしものことがあった時のためにスピカの相棒を造りました。紺碧の流れ星を込めて。カノープスと名付けました。スピカが迷わないように導いてくれることを祈って」

昴も手紙の一文を読み上げた。


「自分のしたことの落とし前は必ずつけます。スピカとカノープスと過ごすことで、その気持ちは更に強くなりました。二人が暮らすこの世界を守りたいと思います」

トンボと昴の声が重なった。


「トンボさん、黒の流れ星と重なることであなたは流れ星探索機の能力を手に入れることになりましたが、おそらく博士があなたを造った理由は僕たちが造られた理由に近かったのだと思います」

「どういうことだ?」


 淡路の言葉をトンボが聞き返す。


「僕たちは人間の歴史を記録するために造られました。成功も失敗も分け隔てなく記録することで、人間たちが成功から更に発展し、失敗は繰り返さないように」

「俺はスピカを記録するために造られた?」


「えぇ、おそらく」

「そっか」


 トンボは淡路の言葉に一言答えるとそれ以上は何も言わなかった。


「さぁ、僕が知っているのことはこれで全てです」


 淡路の言葉をきっかけに部屋はまた暗くなり、再び明るくなった。


「ここは『今』なのか?」

トンボの言葉に淡路が苦笑する。


「そうか。ずっとこの部屋でしたもんね。はい、ここは『今』です。遅くなってしまいましたが、部屋を用意させますので少し休んでください」

淡路の言葉に昴は首を横に振る。


「私たちは機械なので休む必要はありません。貴重なお話をありがとうございました。私たちは次の流れ星を探さないといけないので」


「昴さん、明日の朝、もう一度お時間をいただけませんか? それにアンドロイドにも休息は必要です。情報を整理し、次の行動を決定するためには、立ち止まることも重要です」


「そうだな。一度にいろんな話を聞きすぎて、頭がパンクしそうだぜ」

「トンボ……」


 何か言いたげな昴にトンボが重ねて言う。


「今夜は淡路の言葉に甘えよう。少し考える時間が必要だ」


 こうして二人は淡路の用意してくれた部屋に一晩泊まることにした。

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