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8_十年前と当時の博士

「「えっ? 博士!」」


 淡路(あわじ)によって電気の消された部屋が再び明るくなると、そこには博士が立っていた。

突然現れたその姿に(すばる)とトンボは驚きの声をあげながら慌てて駆け寄る。


「「あれ?」」

と、博士の腕を掴もうとした昴の手が空を切り、トンボが博士の体をすり抜ける。


「これは僕が記録している過去の映像です」

そんな二人にソファに座った淡路が声をかける。


「えっ? 淡路さんが二人?」

ソファを振り返って昴が目を丸くする。


 それもそのはず、目の前にいる博士の目線の先、窓際に置かれた重厚な執務机にも淡路が座っているのだ。


「そっちは過去の僕です。よく見てください。映像の僕は髪が長いでしょう? どちらも過去の記録を映像化しているだけなので、こちらの姿も声もあちらには察知できません」


「確かに」

改めて執務机の淡路に目を向けた昴はその言葉にうなずく。


 執務机に座る淡路とソファに座る淡路にほとんど違いはない。

けれど、現在の淡路が指摘したとおり、過去の淡路は長い髪を低い位置で一つに束ねていて、その髪は肩から下にかけてが紺碧に輝いていた。


「……そうなんですか」


 改めて博士の顔を見つめれば、確かに昴の記憶にある博士より面影が幼い。

せっかく出会えた博士を哀しそうに見上げるが、博士はそんな昴には目もくれず、微動だにせず立ち尽くしていた。


「では、始めますよ」

淡路の言葉をきっかけに映像の博士と淡路の会話が急に始まった。


「本当に君の中に流れ星があるのか?」

先程の昴たちと同じ説明を淡路から聞いたらしい博士が、驚きで目を丸くする。


「えぇ。ところでどうしてあなたはこの場所がわかったんです? 目的は?」

映像の淡路が博士にたずねる。


 と、博士は斜め掛けした鞄から、拳二つ分ほどの黒い石を取り出して、淡路に示した。


「あれは、トンボの中にある黒い流れ星?」

「それにしてはでかいぜ。博士は二つ持っていたのか?」


 思わず声を上げた昴たちに、しぃ~、と現在の淡路が注意する。


「なるほど、導く流れ星の欠片ですか。でも、その大きさでは座標くらいしかわからなかったでしょう」

「これが何か知っているのか?」


 淡路に詰め寄る博士の表情に余裕はなく、いつもの飄々としていた博士よりも若さが目立った。

その姿に目の前の博士が現実のものではないことを昴は実感する。


「もちろん。僕は記録する流れ星。人間たちの始まりからずっと記録を続ける存在。永遠の傍観者ですから」

「人間の始まりから……だったら、知っているだろう。白銀と金色の流れ星の在処を!」


 博士の言葉に淡路が軽く顔を顰める。


「金色と白銀? あなたは神にでもなるつもりですか?」

「やっぱり知っているんだな! 教えてくれ! 僕はそれを探さないといけないんだ!」


 淡路の反応に博士が詰め寄る。

その姿を冷ややかに見つめて淡路が首を横に振る。


「僕の質問を無視しないでいただきたい。全てはあなたの回答次第です」

淡路の言葉に博士は真剣な顔で答える。


「『真実の天秤』、それを壊し、本当の楽園を創りたいんだ」

博士の回答に淡路が皮肉な笑顔を浮かべる。


「真実の天秤? あぁ、あなたはあの浅はか極まりない『仮称楽園計画』の人間でしたか。で? 真実の天秤に変わる力を手に入れて、自分が人間の頂点になろうとでも?」

淡路の皮肉に博士は真剣な顔を崩さないどころか、悲痛そうな顔で答える。


「そんなつもりはない……真実の天秤を呼び起こしたのは僕だ。僕は僕のしたことの落とし前をつけたいんだ」


 博士の言葉に淡路が息をのむ。

映像の中にある二人だけではなく、現実にいる昴とトンボ、淡路を含めた五人の間に沈黙が落ちる。


 沈黙を破ったのは映像の中の淡路だった。


「残念ながら、金色と白銀の流れ星の所在の記録は私にはありません。かつての仲間たちの中には記録していた者もいたかもしれませんが、私以外の仲間はすでに機能を停止し、今はどこにあるかもわかりません」


「そんな……」

淡路の言葉に博士が茫然とする。


 博士のその姿を見て、淡路が机の引き出しに手を伸ばす。


「博士! 危ない!」

昴が思わず叫んで博士の前に飛び出る。が、もちろん、その言葉も昴の思いも博士には届かない。


 淡路は机の引き出しから銀色に光る何かを取り出し……


 ジャキッ

予想していた銃声とは似ても似つかない音が部屋に響き渡る。


「「えっ?」」

一拍遅れて博士と昴の声が重なる。


「代わりにこれを差し上げましょう」

淡路の手には自身の紺碧の髪が握られていた。


「それは?」

驚きで目を丸くした博士が淡路にたずねる。


「僕の体には紺碧の流れ星が宿っています。この髪は紺碧の流れ星の欠片ってやつです」

「紺碧の流れ星の欠片?」


 博士は淡路から手渡された紺碧の髪をまじまじと見つめる。

煌めき透き通るそれは、髪というより、限りなく細く切られた鉱石のようだった。


「それとあなたの持つ導く流れ星の欠片を上手く掛け合わせることができれば、複数の流れ星の位置を一度に表示するレーダーが造れるかもしれません。その中に金色と白銀があるかもしれません」

「ありがとう!」


 喜ぶ博士に淡路が顔を顰めて続ける。


「出来るかどうかはあなた次第ですし、金色と白銀の流れ星が今も存在しているかは知りません。僕ができるのはここまでですので、どうぞお引き取りを……と言いたいところですが、今日はもう遅いので一泊くらいは宿を貸しましょう」


「ありがとう! 淡路、君はいい奴なんだな!」


 お礼を言って屈託なく笑うに淡路は眉間の皺を深くする。

「私はアンドロイドです。アンドロイドにいいも悪いもありません。」


「……俺は博士が造ったんだな」

感慨深げにトンボが呟く。


 それを否定も肯定もせず、現在の淡路が告げる。

「次はもう少し時を進めましょう」


 淡路の言葉に呼応するように部屋の電気がまた消えた。

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