7_流れ星とアンドロイド
部屋の隅からソファに戻った淡路を昴とトンボがまじまじと見つめる。
昴自身も見た目は普通の少年なのだから人のことは言えないのだが、その姿はどう見ても十歳前後の少年だ。
「さて、何から話しましょうか?」
その言葉に昴は少し悩んだ後で、質問を口にした。
「淡路さんはいつからこのお屋敷に一人でいるんですか?」
「はい?」
まさかそんなことを聞かれるとは思いもしていなかった淡路は、昴の言葉にキョトンとする。
「おい! もっと聞くことあるだろ!」
トンボも昴につっこむ。
「えぇ、確かに博士は流れ星を探して何をしようとしているのかとか、そもそも流れ星とは何かとか、私たちの中にも流れ星があるのかとか、それはどういうことなのか、とか、いろいろお聞きしたいことはあるんですが」
「そうだよ! わかってるじゃねぇか!」
もっともな質問を列挙する昴にトンボがつっこむ。
「でも、その前に淡路さん自身のことを知りたいんです」
「なるほど。まずは僕が信用に足る存在かどうかを確認したいということですね」
そう言って納得したようにうなずく淡路に昴は首を横に振る。
「いえ、淡路さんの話は信用します。俄には信じ難い話ではありますが、流れ星の座標の件もありますから」
「だったら何でだよ?」
「わかりません。でも知りたいんです」
「なんじゃそりゃ?」
「なんでしょう」
トンボのつっこみに昴も困った顔をする。
そんな二人を見て淡路が、ふふっ、と笑った。
「すみません。やっぱり変ですね。……えっと、では、博士は流れ星を探してどうするつもりなのか、という話から……」
淡路の反応を見て慌てて質問を変える昴に淡路は首を横に振る。
「いや、僕の話から始めましょう。お二人が構わないなら、ですが」
「いいんですか?」
驚く昴に淡路がうなずく。
昴がトンボをふりかえると、構わねぇよ、とトンボも答えた。
「じゃあ、僕の話から。……自分の話なんてしたことないから、なんだか変な感じですね」
そう呟くと淡路は自分という存在について話し始めた。
「まずは僕がいつからここにいるか、ですが、ここにいるのは人間が地下で暮らし始めたその時からです」
「そんな昔の話?」
トンボの驚きの声に淡路は笑う。
「でも、造られたのはもっと前ですよ。先程お話したとおり、僕が造られたのは人間が地上にいたころより、更に昔。彼らの先祖、神と人間がもっと近かった頃ですから」
その言葉に昴は羽白が話してくれた昔話のことを思い出していた。
死後の世界を司る神様の使いの話を。
そんな昴の様子をどうとらえたのか、淡路が自虐的に笑う。
「まぁ、証明する術はないんですけどね。僕は紺碧の流れ星を埋め込んで造られました。僕以外にも同じようなアンドロイドはたくさん造られたのですが、長い年月の中で、一体減り、二体減り……今、残っているのは僕だけです」
「いえ、信じてないわけではないです!」
慌てて否定する昴に、ありがとうございます、と淡路が笑う。
「俺たちも流れ星を宿しているって、言ってたよな? あれってどういうことだよ? 確かに黒い流れ星なら入ってるけどよ」
「そのままの意味ですよ。トンボさんには黒と紺碧の流れ星が、昴さんには白銀の流れ星が入っているんです」
淡路の言葉に二人が揃って驚きの声をあげる。
「紺碧ってどういうことだよ? そんなの入ってねぇぞ」
「私にも入っているってことですか? しかも白銀って?」
「僕の中にある紺碧の流れ星のことから話しましょうかね」
「俺の中にもあるっていう?」
戸惑いの声を上げるトンボに淡路がうなずく。
「えぇ。遥か昔、神は流れ星という形で人間たちに様々な技術を授けました。そして、人間たちはその力の活用方法の一つとして、機械に埋め込むということをしました」
「もしかして、埋め込まれた流れ星によって何か特殊な能力をもつ……とか?」
昴の言葉に、正解、と淡路が答える。
「紺碧の流れ星は記録する流れ星。僕は人間の歴史を記録するために造られたアンドロイドなんです」
「記録する流れ星。じゃあ、俺にもその力が?」
トンボの言葉に淡路が首を横に振る。
「トンボさんの場合は僕と全く同じ能力というわけではないです。僕と昴さんは遥か昔の人間の産物ですが、トンボさん、あなたは違いますから」
「どういうことだよ?」
「ここからは十年ほど前、僕と黒髪の博士が出会ったときの話になります。せっかくだから、僕の機能を使ってお話しましょうか」
そう前置きすると淡路は徐に部屋の電気を消した。
次の話は少し時間を遡って、博士が地下にきてすぐの頃のお話です。
少しずつ色々なことが明らかになっていくので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




