6_博士の話と流れ星を宿す者
「お前、何者だ!」
ソファから浮き上がり淡路と距離をとったトンボが問いかける。
「『仮称楽園計画』の人間ですか!」
同じく距離をとった昴も淡路に気が付かれないように上着に隠した短銃にそっと手を伸ばす。
幸い淡路が人払いをしてくれたお陰で部屋には淡路と昴たちしかいない。
短銃で威嚇しながら部屋をでて、後はどう逃げるか。
昴は淡路から目を逸らさずに部屋の外に耳を澄ませる。
待機している使用人の数は……
「そんなに警戒しないでください。僕もアンドロイドなんです」
そう言うと淡路は昴とトンボに仮称楽園計画とは無関係だと笑顔を向けた。
「……どういうことですか?」
驚きを隠せない顔でたずねる昴に淡路が答える。
「まずは座りませんか? きちんと説明しますから」
その言葉に昴はトンボと顔を見合わせる。
「……座ろうぜ。話を聞いてみないことには始まらなそうだ」
そう言ってトンボはもう一度ソファに降り立った。
その様子を見て、昴もトンボの横に腰を下ろす。
上着の奥に差し入れた手はそのままに。
「僕の言い方のせいとはいえ、すごい警戒のされ方ですね」
「さっさと説明しろよ」
苦笑いする淡路にトンボが固い声で言い返す。
その様子を見て、仕方ないと諦めたように軽くため息をつくと淡路が話し始めた。
「僕が黒髪の博士とお会いしたのは今から十年くらい前のことです。彼女もお二人と同じように旅をしていました」
「ちょっと待てよ! 淡路、お前いくつだよ! 十年前ってまだガキどころかほとんど赤ん坊じゃねぇか。覚えているわけねぇだろ」
トンボの言葉に昴もうなずく。
目の前の淡路はどう見ても昴や銀脇よりも年下。十年前と言ったらまだ二~三歳程度だろう。
そんな子どもが当時のことを鮮明に覚えているとは考えにくい。
その言葉に淡路が苦笑いする。
「だから言ったでしょ。僕はアンドロイドなんです。十年前どころか、もっとずっと前からこの姿です」
「もし本当にあなたがアンドロイドで博士に会ったことがあるとして、それを証明する方法はありませんよね?」
昴の言葉に、疑り深いなぁ、と淡路が二度目のため息をつく。
「彼女は流れ星を探していると言っていました。自分はとある組織の人間で自分のしたことの落とし前をつけたいのだ、ともね。……どうです? これでも信じませんか?」
「「……」」
淡路の言葉に昴とトンボはまた顔を見合わせる。
その話は自分たちも博士が去った後、ホログラムの博士から聞いていた話だった。
「……信じるしかねぇようだな」
トンボの呟きに昴もうなずくと上着から手をだして座り直す。
「改めてお聞きします。淡路さん、あなたはアンドロイドなんですか? そして博士をご存知なんですか?」
真っ直ぐ見つめて問いかける昴に淡路も真面目な顔でうなずく。
「どちらの答えも、はい、です。僕は人間が地上で暮らしていた時代よりも遥か昔。神と人間の間に交流があった時代に創られたアンドロイドです」
「「……はぁ?」」
続いた淡路の言葉の情報量の多さに昴とトンボが揃って、意味がわからん、と言いたげな声をあげる。
でも、そんな二人の驚きを無視して淡路は言葉を続ける。
「そして、僕もお二人と同じ流れ星を宿した機械なんです」
「「……」」
淡路の言葉を最後に部屋に沈黙が流れる。
数秒とも数時間とも思える沈黙を破ったのは。
「ちょっと待て〜い! そんな説明、はい、そうですか、とでも言うと思ったか! 嘘ならもうちょっとマシな嘘をつけ!」
たぶん人型をしていたらこめかみに青筋を浮かべているに違いない、トンボの全力のつっこみだった。
「申し訳ないですがお伽話を聞きたかったわけではないんです」
昴もトンボの言葉にうなずくとソファから立ち上がり、部屋から出ていこうとする。
そんな二人に動じることもなく淡路がトンボに声をかける。
「流れ星の座標を確認して見てください。トンボさん、黒と紺碧の流れ星の持ち主はあなたでしょう?」
「はぁ? 黒と紺碧ってなんの話だよ。……って、えぇ!」
ぶつぶついいながらも一応座標を確認したトンボが素っ頓狂な声をだす。
「どうしたんですか?」
心配そうに見つめる昴にトンボが信じられないと言いたげな声で告げる。
「座標の位置はここだ」
「どういうことです?」
この部屋のどこかに流れ星が隠されているということなのか?と、あたりをキョロキョロと見回す昴とトンボに淡路がさらに追い打ちをかける。
「座標を見たままでいてくださいね」
そう言って、淡路が部屋の隅へ移動する。
「嘘だろ!」
また驚きの声をあげるトンボに昴が、どうしたのか、と声をかける。
「座標がほんの少し動いた。……ちょうどこの部屋の距離分くらい」
その言葉に昴が、信じられない、とトンボを見つめる。
「良かった! この距離を判定できる精度がなかったらどうしようかと思いましたが、さすがです!」
嬉しそうな声で言う淡路を昴とトンボが驚愕の目でみつめる。
「まさか……」
「あぁ、たぶんその、まさか、だ」
「「あなた自身が流れ星?」」
昴とトンボの驚きの声が部屋に響き渡る。
「そう。紺碧の流れ星は僕の中です」
淡路はなんでもないことのようにそう言った。




