5_豪華な屋敷と正体を知る者
淡路本人が迎えに出てきてくれたことで、昴たちはすんなり門を通ることができた。
しかも、屋敷までは相当な距離があったものの淡路が乗ってきた車が待機していたお陰で歩かずに済んだ。
「はぁ~、疲れた~」
屋敷に着き、淡路の私室に通されるやいなや銀脇が勝手にソファに倒れ込む。
「ちょっと銀脇!」
慌てて止めようとする昴を淡路が笑って止める。
「大丈夫、気にしないで。いつものことだから」
その言葉にびっくりしたのは昴とトンボだけで、周りに控えている屋敷の使用人たちも特段慌てる様子もなく銀脇を好きにさせている。
「そうそう、気にするなよ」
偉そうにソファにふんぞり返った銀脇はテーブルに置かれたお菓子を、これまた勝手にぱくつき始める。
その姿に苦笑いしながら、淡路は銀脇に声をかける。
「ところで、そろそろ夜のお店が開く時間じゃないの?」
「やべっ! 忘れてた!」
淡路の言葉に銀脇はソファから飛び起きて時計を探す。
「うわっ! 本当だ! ……って、でも、昴たちが」
慌てて部屋を出て行こうとして銀脇が立ち止まる。
「今日はうちに泊まってもらうから大丈夫だよ。銀脇はまた明日おいでよ」
「そっか、じゃあ、よろしく」
「えっ、そんなご迷惑じゃ……」
勝手に進んでいく話に昴がびっくりして遠慮する。
そんなつもりで来たわけではないし、話を聞いたらもちろんすぐに失礼するつもりだった。
「遠慮しないで。部屋だけはたくさん余っているんです」
「そうそう、コイツ一人暮らしだからさ。相手してやってよ」
「はい。いつも一人なのでおしゃべりの相手がいてくれると嬉しいんですよ」
まるで自分の家のように言う銀脇に淡路も笑ってうなずく。
「……では、ありがたく」
今夜泊まる宿を用意していたわけではない昴は、その言葉におずおずと頭を下げる。
「じゃあ、俺、行くわ。また明日な!」
「はい。別に正面玄関から来てくれて構わないからね。門番には今度こそちゃんと言っておくから」
そう言って部屋を出て行こうとする銀脇の背中に淡路が声をかける。
「いやいや、俺が構ってやらないと庭守りのじいちゃんが寂しがるからな」
折角の淡路の言葉に振り返りもせずに銀脇はそう言い返すと、あっという間に部屋を出て行った。
「……嵐みたいな奴だな」
「えぇ、お礼も言い損ねてしまいました」
トンボと昴はその背中を茫然と見送った。
「銀脇はいつもああですよ。一人の僕を気にしてよく遊びに来てくれるのですが、何度言っても庭から忍び込んでくるんですよね」
「そりゃ、大変だな」
銀脇を見送りながら苦笑する淡路にトンボが相槌をうつ。
「まぁ、庭守りの爺やも面白がっているみたいですし、僕も門番に言ってないからいいんですけど」
「おいおい、駄目じゃん」
さらりと言われた言葉にトンボが呆れたようにつっこむ。
「まぁ、銀脇は明日もくるからお礼はその時で大丈夫でしょう」
淡路はそう言うと、昴とトンボにさっきまで銀脇が座っていたソファを勧めた。
「あとは自分でできるから下がっていいよ」
さらにそう言って使用人たちを下がらせると、淡路も昴たちの向かいのソファに腰をおろした。
「さて、銀脇からどう聞いているかわからないのですが、淡路と申します。この町で占い師みたいなことをしています」
「はっ? 占い師?」
トンボが思わず声を上げるのを見て淡路が苦笑する。
「やっぱり何も聞いてませんでしたか。銀脇は何と?」
「物知りな知り合い、とだけ。他に詳しいことは何も……」
困惑した顔で答える昴に淡路がうなずく。
「まぁ、あながち間違ってはいないんですけどね。ところでお名前を聞いても?」
「えっ、銀脇のやつ言ってなかったのかよ。あんたも名前も聞かずによく会う気になったな」
淡路の言葉におもわずつっこみの声を上げたトンボの口を昴が慌てて抑える。
「すみません。失礼なことを。私は昴、このドローンはトンボ。修理屋をしながら、二人でいろいろなものを見て回っているんです。この町の入り口で町酔いしているところを銀脇さんに助けていただきまして」
「そうそう。んで、不思議な話とかないかって聞いたら、銀脇があんたを紹介してくれたんだ」
抑えた口の隙間から話すトンボに、あんたではなく淡路さんです、と昴が注意する。
そんな二人を冷静な顔で見つめた淡路が口を開く。
「昴さんとトンボさんという名前は銀脇からききましたよ」
「「えっ?」」
予想外の言葉に昴とトンボがキョトンとした顔で淡路を見つめる。
でも、続いた淡路の言葉に二人はソファから立ち上がり、身構えた。
「そうではなく僕がお聞きしたのは本当の名前です。トンボ型のドローンと、銀髪の少女型アンドロイドとお聞きしていたので、少年型アンドロイドが来た時にはちょっとおどろいたんですけど……あなた達、黒髪の博士のドローンとアンドロイドでしょ?」
そうたずねると淡路は真面目な顔で二人を見つめた。