表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/88

2_紺碧の町と銀髪の少年

「これだけ?」

「そのようですね」


 拍子抜けしたように言うトンボにすばるがうなずく。


 ここはP地区とM地区の境界線。

P地区からM地区への移動は昴が予想していた以上に何の問題もなかった。


 いくら地区を跨いでの移動が自由とはいえ、何かしら管理局の機関があるものと思っていたのだが、街道に『これより、東:P地区、西:M地区』との立て看板がポツンとあるだけ。

関所はおろか役人の一人もいない。


「景色も全然変わらねぇな」

看板の前で街道の東西を交互に見比べたトンボが呟く。


「地区が違うと言っても結局は地下ですからね」

「つまんねぇの」


「何事もなく通過できるのはいいことです。さぁ、行きましょう」

昴に促されてトンボはフロントバスケットに戻る。


 その後もこれといった問題もなく、南斗なんしゅのようなヒッチハイクに遭遇することもなく。

昴とトンボは食事も寝る必要もなかったので、時々スクーターの燃料を補給する以外はほぼ走りっぱなしで旅を進めることができた。


「おい、そろそろ座標の地点だ」

トンボの言葉に昴はスクーターを止め、ちょうどあった街道の標識を確認する。


「次の町はM-1786ですね。とりあえずそこで情報収集をしますか」

その言葉にトンボがうなずくのを確認して、昴は再びスクーターのエンジンをかけた。


「すげぇ……」

「これは一体……」


 数時間後、M-1786に辿り着いた二人はその入り口で茫然と立ち尽くしていた。


 地下は基本的に一面を土に囲まれているため、街道も町もたいして変わりばえはしない。

P-6761は地底湖や緑があったが、それでも湖のまわり以外は土に囲まれていて、他の町とたいした違いはなかった。


 しかし、今、二人の目の前に広がっているのは……


「なんだこれ! 青? 水色? やばい、目が回りそう」

「湖底の神殿から見上げた景色に似てはいますが……うぅ、私もちょっと気持ちが悪いです」


 そこは見渡す限り真っ青な町だった。

足元から見上げた天井まで、目に入るすべての壁面が同様に青く、上下左右の感覚が狂う。


 地面に立っているはずなのに奇妙な浮遊感に襲われて、昴は町の入口でしゃがみこんだ。


 その町は、青みがかった乳白色の硬石膏と青く透き通る天青石の混在する鉱脈の中を掘り進めて作られた町だった。

昴とトンボはわからなくて当然だが、その青は空の青。


 M-1786は空中庭園のような町だった。


「おい? 大丈夫か?」

急にかけられた声に昴が、ビクッ、とする。


 目の前にいたのは昴と同じくらいの年齢の少年。

オークルの肌に好奇心旺盛そうなくりくりの黒い目、その髪は昴と同じ銀髪だった。


 少年は心配そうな顔で昴を覗き込む。


「あっ、驚かしてごめん。君、外の町の人間だろ? 大丈夫? 町酔いしてんだろ」

「……町酔い?」


「説明は後。とりあえず、うちに来いよ。近くなんだ」

「あっ、あの、ちょっと……」


 昴の返事も聞かずに少年は昴のスクーターを押し出す。


「お、おい。坊主、ちょっと待てよ」

トンボがふらふらしながら少年に声をかける。


「えっ? このドローン、喋るの? ってか、ドローンなのに町酔い? あっ、ほら、フロントバスケットに入れよ」

少年はスクーターを止めて、トンボに手をかける。


「な、なんだよ。やめろ」

トンボの抵抗も空しく、少年に捕まり、フロントバスケットに入れられる。


 その手つきは思いのほか丁寧で、トンボは大人しくフロントバスケットに収まる。

と、少年はスクーターをまじまじと見て、今度は昴に手を伸ばす。


「ほら、スクーターに乗れよ」

「えっ、いや、今は運転はちょっと」


 急に言われて昴が驚きの声を上げる。

とてもじゃないが眩暈で今は運転なんてできそうにない。


「違う違う。俺がスクーター押すから、座れよ。スクーター置いて行っていいならおぶってやるけど、持って行った方がいいだろ?」

「いや、でも……」


「ほら、いいから。ちゃんとハンドル握ってろよ」

戸惑う昴を無視して少年は無理矢理昴をスクーターに乗せる。


「それじゃ、行くよ」

二人が乗ったのを確認した少年は一声かけるとスクーターを押し出す。


「着いたら声かけるから、二人とも目つぶってな。ちょっとは楽だから」

その言葉にもう抵抗する気力もなかった二人は素直に目をつぶる。


 数分後。


「着いたよ。ほら、ここが俺んち。あがって、あがって」

「あっ、そんな見知らぬ方のお宅にお邪魔するわけには……」


 スクーターを止めた少年の言葉に昴は慌てて答える。


「えっ、今、自己紹介とかする? 体調悪いのに辛くない?」

その言葉にキョトンとしている少年を見て、昴はそう言う意味ではないと説明しようとしたが。


「まぁ、いいっか。んじゃ、俺は銀脇ぎんわき。お前たちの名前は後で聞くわ。ほれ、これで知り合いな」

そう言ってフロントバスケットのトンボを抱え、昴の手を引くと、銀脇は家の中に二人を強引に連れて入った。

硬石膏はエンジェライト、天青石はセレスタイトという石です。

エンジェライトは不透明、セレスタイトは透明という違いはありますが、どちらも綺麗な空色をしています。

石としても親戚同士な石です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エンジェライト セレスタイト 画像調べたら どちらも綺麗ですね。 銀脇 《細かいことは気にしない》 って感じ 好感度高いッス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ