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16_二人の決意と再び鴇色の流れ星

 翌日。白木の神殿。

最初に訪れた水神様の祭壇がある部屋に(すばる)とトンボは来ていた。


 待っていたのは(ほたる)熒惑(けいこく)だけ。


 やなぎの伝えた情報に少女たちは大喜び。

神殿に仕えていた少女たちも、柳も、みんなが今は村に帰る準備で大忙しだ。


「こりゃ、すげぇ」

蛍から返された黒い石をセットしたトンボは驚きの声をあげた。


「座標が二つあるんだ。一つは翠色で今いる場所、もう一つは白く輝いてる」

「つまり翠色が水神様で、白く輝いているのがこれから目指す流れ星、ということですか?」


「あぁ、そうだろうな。こうやって流れ星に記録してもらうと座標がその色に染まるんだろ……あっ!」

「どうしたんですが?」


「鴇色の座標があるんだ! まさかあの流れ星がまだ残っているのか?」

「そんな! だって役場の保管庫には欠片も残っていなかったのに」


 トンボの言葉に昴も驚きの声をあげる。

もし本当に鴇色の流れ星が残っているとしたら、また被害者が出るかもしれない。


「一旦、戻りましょう!」

「待てよ! P-8517と次の流れ星は真逆の位置だ。戻っていたらかなり遠回りになるぞ」


 今にもP-8517に向かって飛び出しそうな昴をトンボが慌てて止める。

確かに鴇色の流れ星のことは気になるが、博士を追う事を考えたら新しい流れ星を探しに向かった方がいい。


「でも……」


 トンボの言葉に昴はためらいの表情を見せる。

自分たちの目的を考えたら回り道は避けたい。でも、P-8517には治療中の南斗(なんしゅ)もいる。


「どうしたの?」

昴たちの様子を見て声をかけた蛍に、昴はP-8517に大切な友人を残してきたこと、そして、今そこで友人の身に危険が迫っているかもしれないこと、でも、P-8517は自分たちの本来の目的地とは真逆にあり、自分たちにはあまり時間の余裕がないことを手短に伝えた。


「それは心配ね。だったら、手紙を書いて村に戻る子たちに預けたらどう? 中には商売をやっている家の子もいるから、行商人づたいに届けてくれるんじゃないかしら」

そう提案してくれた蛍に昴が難しい顔をする。


「気持ちはありがたいが、返事を受け取る術がねぇんだ」

トンボの言葉に蛍が、そうだったわね、と申し訳なさそうな顔をする。


「いや、ありがとうよ。P-8517には信頼できる人たちもいるんだ。大丈夫だろうよ」

「トンボ! まさか南斗を見捨てるんですか!」


 昴の抗議の声にトンボの体からピリッっと静電気が迸る。

「見捨てるとか言ってねぇだろ! 俺たちにはもっと大切な目的があるだろうって、言ってんだよ!」


「もっとってなんですか! 南斗は大切じゃないって言うんですか!」

「んなこと言ってねぇっつってんだろ! 何のために旅してんのか思いだせよ!」


「うちで預かっておいてあげるわよ」

言い合いを始めた二人に驚きつつ、熒惑が声をかける。


「えっ?」

急に投げかけられた熒惑の言葉に言い合いをしていた昴が振り返る。


「だから、手紙の返事がきたらここで預かっておいてあげるって言ってんの。目的地が正反対なら、P-8517に戻るよりは近いでしょ。用事が終わったらまた来なさいよ」


「いいのかよ?」

「構わないわよ。手紙の一枚くらい」


 トンボの問いかけに熒惑が軽く答える。


「昴、ここは甘えようぜ」

「……」


「昴!」

自分の提案に返事をしない昴にトンボが苛立った声を上げる。


「……わかりました。熒惑さん、お手数をお掛けしますがよろしくお願いします」

昴はトンボから目を逸らしたまま了承の返事をして、熒惑に頭を下げた。


「んじゃ、熒惑の住所を教えてくれるか? それとも熒惑宛に返信してもらえばいいか?」

「ここ宛でいいわよ。水神様の神殿で」


「「えっ?」」

熒惑の返事に昴とトンボが揃って声を上げる。


「私たちは水神様の元に残ろうと思うの」

驚く昴たちに蛍が静かに伝える。


「えっ? どうして? もうここから出られないわけではないんでしょう?」

「そうだよ。柳たちも帰る準備してんだろ」


 昴とトンボの言葉に蛍は首を横に振る。


「みんなが村に戻った後も私と熒惑は水神様のお側にいるつもりよ」

蛍の言葉に、後ろに控えていた熒惑もうなずく。


「どういうことだよ?」

たずねるトンボに熒惑が口を開く。


「水神様の力が無意識の願いまで叶えるなら、第二のあたしが生まれる可能性があるでしょ。それに悪用されないとも限らないから、誰かがお側にいた方がいいだろうって蛍とあたしで話をしてね」

「だとしたら、私と熒惑で残るのがいいと思うの。水神様とお話できるのは私だけだし、熒惑も付き合ってくれるっていうから」


「でも、そんな、なんで二人だけが……」


 そう言う昴に蛍は笑いかける。

「そんな哀しそうな顔をしないで。これからは自由に行き来もできるのだから、きっと村の人もたずねてきてくれるわ」


「そうそう、湖の底の神殿なんてロマンティックでしょ。きっと村の観光スポットになって、私たち大忙しよ」

「ふふっ、そうね。きっと今以上に賑やかになるわね」


 そう言って笑いあう二人の姿に決心の強さが見えて、昴もトンボもそれ以上は何も言えなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「そうそう、湖の底の神殿なんてロマンティックでしょ。きっと村の観光スポットになって、私たち大忙しよ」 ⬆ 犠牲を、犠牲にしない、前向な思考 熒惑と蛍 らしいなぁ と  いやはや 器が大きい…
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