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13_翠色の石の言葉と少女の決意

 翌日。再び白木の神殿。


「わかりました。やってみましょう」

すばるの話を聞いたほたるは静かにうなずいた。


「蛍様、本気ですか?」

「無理はしなくていいのよ」


 やなぎの驚く声に続いて、昨日は賛成していた熒惑けいこくも気づかわしそうに蛍にたずねる。

そんな熒惑を見て蛍は、ふふっ、と鈴を転がすような笑い声をたてた。


「熒惑もやってみようって言ったんでしょ? それに確かにお聞きしたことなかったわ。私たちが必要かどうか、なんて。そんなこと思いつきもしなかった」

「それはそうだけどさ」


 なおも心配そうな顔をする熒惑に蛍は真面目な顔で続ける。

「もし帰れるなら、私はみんなを村に帰してあげたい」


 その言葉に熒惑は、はっとした顔をした後で、同じように真剣な顔でうなずく。

「……そう、そうよね。うん、やりましょ。その代わり、少しでもおかしなことがあったらすぐにやめるのよ」


 熒惑の言葉にしっかりとうなずくと、蛍は背後にある翠色の石に向き合う。

蛍は静かに目を閉じ何かを呟き、それに答えるかのように翠色の光が明滅する。


「おい? 聞こえるか?」

昴の肩に乗ったトンボが小さな声でたずねる。


「蛍様の言っていることは聞こえますが……」

「こら! 静かにしなさい!」


 こそこそと話している昴とトンボを柳が睨みつける。

その様子に昴たちは口を噤んで、大人しく結果を待つことにした。


 蛍のささやきだけが神殿に微かに響く状態が続くこと十数分。


「えっ!」

一緒に蛍を見守っていた熒惑の口から驚きの声がもれる。と同時に。


「そんな……」

蛍が一言、そう呟くと、ドサッ、とその場に倒れた。


「蛍様!」

その様子に柳が慌てて蛍に駆け寄る。


「……! 蛍! 大丈夫!」

一瞬遅れて、熒惑も蛍に駆け寄る。


 熒惑に抱き起された蛍の顔はもともとの白さを通り越し青白く、椿よりも赤く瑞々しい唇も青褪め、固く結ばれていた。

固く目を閉じ、眉間に皺を寄せた蛍の額には冷や汗がにじんでいる。


「大丈夫ですか? 石はなんと?」

「後にして!」


 慌てて問いかけた昴は熒惑の鋭い制止に思わず息をのむ。


「熒惑、蛍様は?」

「大丈夫。気を失っているだけよ」


 泣きそうな顔で問いかける柳に熒惑は安心するように告げた後で、厳しい顔のまま昴たちに告げた。


「今日は宿舎に帰ってくれる? 蛍様を休ませないと」

「……わかりました」


 昴は熒惑の言葉にうなずいた。


「熒惑、私も手伝う!」

「いいから!」


 そう言って蛍に手を伸ばした柳の手を熒惑が払いのける。

驚く柳を見て、熒惑がはっとした顔をする。


「ごめんなさい。私一人で大丈夫よ。それより柳は昴たちをお願い」

「えっ、あっ、うん。わかった」


「蛍様の調子が良くなったらすぐ連絡するわ。昴とトンボも悪いけど少し時間を頂戴」

「もちろんです。私たちこそ無理を言ってしまってすみません」


 昴の言葉にうなずくと、熒惑は蛍を横抱きにして神殿を去っていった。


「……すみません。こんなことになってしまって」

蛍と熒惑の去った神殿で昴は柳に再度頭を下げた。


「仕方ないよ。誰も予想できなかったんだし、昴のせいじゃないよ」

慰めの言葉を口にする柳に昴は首を横に振る。


「いいえ。蛍様が倒れた時、私は彼女の心配より石の言葉を気にしていました。皆さんにとって大切な方だとわかっていたのに」

そう言ってうつむく昴の頭を柳が叩く。


「何言ってんの! 皆さんにとって、じゃなくて、私たちにとって、でしょ。あんたもここの一員なんだから。それに、熒惑が大丈夫って言っていたんだから大丈夫よ。私たちは宿舎で待ちましょ」

その言葉に叩かれた頭を押さえ驚いた顔をする昴を見て、柳が呆れたように笑う。


「なんて顔してんのよ! ほら、行くよ!」

先に歩き出した柳の姿に尚も茫然としている昴を今度はトンボがつついた。


「ほら、いくぞ……俺たちって本当に人の運がいいよな」

昴はただうなずいて柳の後を追った。


 一方で、神殿の奥に運ばれた蛍は程なくして目を覚ました。


「蛍、あたしなんてことを……」

そう言う熒惑の顔は先ほどの蛍と同じか、それ以上に蒼白だった。


「私こそ、今までずっと気が付かなくてごめんね」

顔色の少し良くなった蛍はそう言って、うつむく熒惑の頭を撫ぜる。


「あたし、みんなに全部話すわ。何を言われても、されても仕方ない。それだけのことを私はしたんだから」

うつむいたまま唇を噛みしめる熒惑に蛍は首を横に振る。


「熒惑、あなたは悪くない」

「悪いわよ! だって私がいなければ……」


「そんなこと言わないで。熒惑、私ね、考えたの」

その後に告げられた蛍の言葉に熒惑は目を見開く。


「そんな、そんなの駄目よ!」

「熒惑、私、みんなが大切。でもそれと同じくらいあなたも大切なの。それに……」


 次の言葉に熒惑は戸熒惑いながらもうなずくと、そっと蛍の手を握った。

登場人物が増えてきたので、各章の最後に登場人物まとめを追加してみました。

名前の由来も書いてあるので、よければご覧ください。


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