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9_湖底の町と少女たち

 あまりの眩しさにギュッと目を瞑った(すばる)の耳に複数の少女の言い合いが聞こえてくる。


「ちょっとやなぎ、この子、誰よ?」

色白いろしろの顔、忘れたとか言わないでよ」


「うるさい! こいつしかいなかったの!」

昴を連れてきたであろう少女の声が苛々と答えている。


「それに何よ、このでっかい虫!」

やなぎ、原始時代にでも行ってきたんじゃないの? どこまで方向音痴なのよ!」


 でっかい虫……そうか、トンボも一緒なんだな。

しかし、方向音痴で時代を渡れるものだろうか。


 光も収まっているようだし、いきなり命の危険に晒されることもなさそうだ。

そろそろ目を開けても大丈夫だろうかと昴がそっと目を開けようとすると。


 ガシッ!

いきなり腕を掴まれて、驚きで思わず目を見開く。


「眩しっ!」

予想どおり光は収まっていたものの、いきなり目を開いたことで眩しさに顔をしかめる。


「待って! こいつ、男じゃない?」

「噓! 本当だ!」


「柳、あんた向こうの世界でナンパしてきたんかい!」

「だから、あんなに迎えに行きたいって言ってたのか!」


「違うわ! 私は色白だから行ったの! ってか、行きたいなんて言ってないし!」

柳と呼ばれた小柄な少女が他の少女たちに言い返している。


 おそらく一番年下なのだろう。

毛先だけ明るい緑色をした髪を高い位置でポニーテールに纏めた柳は、口調そのまま、やんちゃそうな目をした女の子だった。


 そんなことを思っている間にも、昴を無視して少女たちの会話は際限なく続いていく。


「おいおい、少しは状況を説明してくれねぇかな」

昴の肩に乗ったままのトンボが少女たちに声をかけると、その場が一瞬で静まり返る。


「トンボも一緒だったんですね。で、ここはどこなんでしょう?」

「おう、とっさに昴の背中にへばりついたんだ。で、それがよ、座標は変わってねぇんだよ」


「祠から? 同じ場所にはとても見えませんが」

「だよな。でも座標は祠のままだ」


 静まり返った少女たちを他所に状況確認にいそしむ昴とトンボ。

と、その姿を見ていた少女たちが。


「「「虫が喋った!」」」

あまりの大音量に昴は思わず耳をふさぐ。


「やだ! 柳、あんた何連れてきてんのよ!」

「えっ? 何? 原始時代の虫って喋るの?」


 いや、原始時代でも虫は喋らないでしょう。

というか、タイムスリップ説は残っていたのか。


「うそ! 超かわいくない?」

「可愛くないわ! 気持ち悪い!」


 そろそろトンボがドローンだということに気が付かないのだろうか。

それともドローンを見たことがないとか? まさかそれはないだろう。


 脳内で少女たちの言葉にツッコミを入れていた昴は、そのかしましさに頭が痛くなりつつあった。

そろそろ、落ち着いて状況を説明してもらえないものだろうか、と遠い目で少女たちの騒ぎを眺めていると。


「ほらほら、あんた達、そろそろ黙んなさい」

少女たちより少し年上と思しき女性が、昴とトンボを囲む少女たちの輪に割って入る。


 鮮やかな紫色の髪をかき上げながら、ため息混じりにそういう女性に柳が詰め寄る。

熒惑けいこく! あんた今回の水神の巫女は色白だって言ったよね? 誰よ、こいつ! あんたの連絡ミスのせいで、どんだけ文句いわれているか! しかも、こいつ男だし!」


「相変わらずうるさいわね。あたしは色白って言われていたわよ……って、キミ、男の子なの?」

柳の言葉を軽く受け流して、熒惑と呼ばれた女性が昴の顔をまじまじと覗き込む。


「あら、目も銀色なのね。よく見たら綺麗な顔してるじゃない」

「話を聞け! 無視するな!」


 昴を覗き込む熒惑の腕を掴み、更に噛みつく柳を見て、熒惑は諦めたようにため息をつく。

「あたしもわからないわよ。本当に今回の巫女は色白って言われていたの。とりあえず、ほたる様のところに連れて行きましょ」


「あの、ここはどこですか? 私たちは決して怪しい者では……」

ようやく話ができそうな相手が現れたことに胸を撫で下ろしながら、昴が状況を説明しようとするが。


「あぁ、今はそういうのいいから」

「えっ……」


「どうせ、同じことをもう一度説明する羽目になるだろうから、後で聞くわ。それより行きましょう。まぁ、いつまでもここにいて、こいつらにもみくちゃにされていたいなら別だけど」

「行きます!」


 それだけ言うとさっさと歩きだす熒惑に、昴が慌てて返事をする。


「よろしい。柳、あんたも来なさい」

「当たり前でしょ! 蛍様にあんたのポンコツぶりをきっちり報告させてもらうからね!」


 ぷんすか怒る柳とともに昴とトンボは熒惑の後をついて行くことにした。


 熒惑に連れられるままに歩きながら、昴とトンボが辺りをキョロキョロと眺める。

その姿を見て、怒り疲れたのかようやく落ち着いてきた様子の柳が声をかける。


「ここは湖の底よ」

「えっ?」


「上、見て。水面が見えるでしょ?」

柳に言われるがままに頭上を見上げると、確かに揺らめく水面が見える。


「これって、一体」

「ここは祠の丁度真下にできた湖底の集落。そして、私たちは歴代の水神の巫女よ」


「湖の底って、ドームか何かなのか? 呼吸もできているみたいだけど、そんな技術力、この世界のどこに?」

トンボの疑問に柳は首を横に振る。


「難しいことはわからないわ。とりあえず、ここは湖の底で、私たちはここで問題なく暮らしている」

「村に戻ろうとはしないんですか? 祠に行けるのなら、村まですぐでしょう」


「それは無……」

「は〜い。そこまで。柳、あんた喋り過ぎよ。そこから先はこれから会う蛍様に聞いて頂戴。まぁ、話してもらえるかはわからないけど」


 熒惑の言葉に柳がハッとした顔で口を抑える。

そこからは何を聞いても、蛍様に聞け、の一点張りで何も話してはもらえなかった。

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