第2話 様々な変化
ギラギラと照りつける太陽によって目を覚ました人物は重い瞼を必死に開いた。
ゆっくりと身体を起こし辺りを見回すと、そこには見渡す限りの大地が広がっていた。
これまでの記憶を呼び起こす事に必死になった。
辺り一面が真っ白な空間で女の声を聞き、気付けばこんな屋外に放り出されている。
あり得ない状況に冷や汗が背中を伝った。
先ほどよりもゆっくりと立ち上がると、心なしか目線が低く感じる。
纏わり付く髪が鬱陶しい。
しばらく歩くと人がうつ伏せに倒れているではないか。
放置するのは良心が痛む、恐る恐る声をかける事にした。
「あ、あの。大丈夫ですか?おーい、もしもーし!」
返事がない事を良い事に段々と声が大きくなる。
それにしても上手く声が出ない。喉が枯れているからだろうか。
しかしながら返事はない。むしろ何の反応も示さない。
唾を飲み込み、倒れている人物の肩を掴み仰向けにしようと試みるが、思うように力が入らず、結局両手を使う羽目になってしまった。
相当、動揺しているらしい。
そんな人物に追い打ちをかけるように衝撃の事実が明るみになった。
仰向けになっている男は目を見開き、全く動かないのだ。
死んでいる。
ぎこちない動作で視線を上げると至る所に死体が転がっていた。
足が竦み、動けなくなってしまった。
そんな人物を遠くから見ている者達が居たのだが、当然気付く事はない。
「ねぇ。あの子、助けてあげてよ」
「はぁ。しかし、どこへ連れて行けば?」
「あそこでいいじゃない。阿の城」
そんなやり取りの後に武装した男は狼狽える人物の元へ馬を走らせた。
紫色の髪をなびかせる女は一瞥し、微笑みながら反対方向に馬を走らせるのだった。
「おい女!貴様は何者だ。何故こんな所に女が一人でいる?」
男の呼びかけで我に返った人物は後ろを振り向いた。
――女!?何言っているんだよ、このおっさんは!
確かに男らしい顔ではないが、決して女ではない。
「えっと…。何者と言われても。気付いたらここに居ました。ここはどこですか?あと俺は男だから」
今更だが随分と声が可愛い事に気付いた。
「男だと!?どう見ても女にしか見えんが。ここは我が主が治める阿の領土の端にあたる場所だ」
聞き慣れない地名であり、どう見ても日本ではなかった。
強いて言うなら中国に近い印象を受けた。
そして男の服装からも自分の生きている時代とは異なる気がした。
それにしても先ほどから人の事を女、女と喧しい。
国や時代が異なると自分の顔は女に見えるのだろうか。
念のために自分の身体を触ってみる事にした。
少しおかしい。いや、結構おかしな事になっている。
本来、男にあるべきものがない。
そして男になくて良いものがある。
驚くほどに柔らかいふくらみは何でもできる証拠なのだろうか。
――おいおいおい。ちょっと待てよ。女の子になってんじゃねーかよ!時代もなにも本物じゃねーか。これは女と言われても当然だ。
そこで少女もとい少年は思い出した。
――"君の願いを一つだけ叶えてあげるよ~"
確かに女になりたいと願った事もあった。
しかし、いざなってみるとなかなかに受け入れがたい。
一人で混乱していると、男が苛立ち気味に声をかけてきた。
どうやら男が仕えている主の元へ連れて行くようだ。
少女は馬に乗ろうとしたが、どのようにすれば良いのか分からない。
呆れた男は少女をひょいと抱き上げ、自分の後ろに乗せた。
――体重も軽くなっている?しかも髪が伸びている。
走り出した馬の速さに驚き、振り落とされないように男にしがみついた。
徐々に慣れてきた少女はこれまでの出来事を頭の中で整理していたので、その後一言も喋らなかった。
腰まで伸びた黒髪が風に流されながら、二人は目的地に向かうのだった。