先輩に占拠されました!
初音視点です
「失礼します。会長、お待たせしました。」
「初音ちゃん。ありがとう、こっちの無理聞いてくれて。ほんとに大丈夫?」
「はい。この後も予定はありませんし、やれることをやるだけですから。」
眉を下げ、心配そうに聞いてくる会長に、私は笑顔で頷いた。
言い出したのは私だし、お仕事が積み重なっているという会長は忙しいだろうから、気にせず私を戦力として使って欲しい。
「よかった……。そう言ってくれて助かるよ。さっそく……これ、お願いします。前みたいにまとめてくれればいいから。」
「はい、分かりました。パソコンお借りしますね。」
「うん。……っと、そろそろ行かなきゃ。ごめんね、会議行ってくる。そこの戸棚にティーバッグとかもあるし、好きに使って。行ってきます!」
「はい、留守は任せてください。」
慌ただしく生徒会室を飛び出し、会議に向かう会長を見送り、パソコンを前に気合いを入れて仕事に取り組んだ。期限の迫る書類の処理が間に合っていない上、正規の生徒会役員の人たちは他に追われている仕事があるようだ。私1人しかいない静かな室内で黙々と仕事をこなしていく。前回同様、いくつもある間違いに苦笑しながら、チェックしていると、また同じように茶戸先輩が入ってきた。
「久しぶり、初音。」
「お久しぶりです、先輩。会長なら、会議でいらっしゃいませんよ。」
「うん、景介から聞いてるよ。今日の用はあいつじゃなくて、初音。」
「……私、ですか?」
まだ片手で数えるほどしか会っていないというのに、わざわざ私に用なんて、なんだろう。
首を傾げながら先輩を見ると、先輩は私の使っている机越しに目の前に来て私をじっと見つめてきた。そしてなんでもないように平然とこう言ってきた。
「初音、俺と付き合わない?」
「……へ?」
思いも寄らぬ言葉に、間抜けな声を出してしまった。
今先輩は何を言っただろうか。空耳……ではないよね?
「……ふふっ、混乱してるね。どーかな。」
ニコニコと笑いながら私の顔を見つめる先輩は、何だかとても楽しそうだ。パニック状態に陥ってしまった私には気にする余裕なんてなかったけれど、そんな私の様子さえ、先輩は面白げに見ていた。
「……え?せん……っ、あ、その……わ、私全然っ!か、考えたこともないんです……!よ、よく分かんな……っ。ご、ごめんなさい!」
真っ白になってまったく動かない頭で絞り出したのは、そんな貧相すぎる言葉で、かすれた声が余計頼りなさを演出している。
なんとか断りの言葉を紡いだ私に、先輩はそれでも楽しそうに笑って追撃してくる。
「……あら。自分で言うのもなんだけど、俺けっこー優良物件だよ?」
「え……いや、その……。」
困った。何て言えばいいんだろう。想定外すぎて言葉に詰まってしまう。目をさ迷わせながら必死に考えていると、先輩が朗らかに笑った。
「ははっ、困らせちゃったね。ごめんごめん。気にしないで。今はとりあえず、それでいーや。」
「え?」
急に話を終わらせ背を向ける先輩に戸惑っていると、ドアを開けた先輩が私の方へ振り返った。
「じゃーね、初音。」
「……え、あ、はい。さよ、なら……。」
呆けた状態で反射的に返すと、先輩は最後に目を細めて笑い、そのまま帰っていった。
しばらくボーっとドアの方を見つめ、慌てて書類に目を遠そうとするも、先輩とのやりとりが頭を過り、まったく集中できない。全ての文字や数字が意識の上を空滑りしていく。
すっかり頭の中を先輩に占拠された私は、机に突っ伏して1人唸ることしかできなかった。