クラスメイトの助力を期待して
貴斗視点です
「貴斗。」
「景介。首尾は?」
「上々。明日の放課後頼んできた。16時ごろ来るって。」
「りょーかい。ありがと。」
初音との再会から1週間。俺はついに行動を開始した。まずは第一関門突破の準備段階。景介にはそのためのお膳立てをしてもらった。
この1週間で、俺は初音に関することを洗いざらい調べて回った。景介の調査したことの裏取りに始まり、3日前には、ついに初音があのときの子だという確証を得られた。これで、俺はあの子に本格的に手を伸ばすことができる。
「いや、これぐらい。……でも、ほんとにこれだけでよかったのか?俺にできることならなんだって……。」
「うん、大丈夫。今はこれで十分。……今景介が派手に動くと、警戒されかねないし、動いてもらうほどのことでもない。ほら、会長。仕事してきたら?」
除け者にされてるとでも思って不満なのか、それとも家での景介が出てきているのか。やたら関わりたがる景介を送り出し、俺は上機嫌で教室に入った。まどろっこしかろうが、これは失敗のできない案件。1つ1つ丁寧に進めなくてはいけないことは分かっている。そう分かっているが、やっと進められる計画に、高揚感は収まらない。
「お、茶戸!なぁなぁなぁ、今暇か?」
「んー?暇だけど、どしたの。」
「ここ!教えてくれよ。湧洞行っちゃったし、分かりそーなの茶戸しかいねぇんだよ。」
「はは、そんなことないでしょ。どこ?」
「サンキュー!まじ助かる。えっとなー……これ!」
俺が教室に入るなり泣きついてくるクラスメイトに続いて、他の奴らも声をあげる。見れば、確かに少し応用的なものだ。まぁ、俺にとってはさほど難問でもないけれど。1人1人相手をしていると、1人から感嘆する声が聞こえた。
「ほんとすげーよな、茶戸って。お前と同じクラスになれてよかったぜ。」
「え、何急に。気持ち悪いなぁ。」
ケラケラ笑いながら返すと、相手も笑い返しながら言葉を続けた。
「だって、噂と違って意外と優しいだろ?こーやって勉強教えてくれるし。」
「あぁ。んー、俺は別に優しくないけどねー。強いて言うなら、ちっちゃいころに色々あって、思うことがあったんだよねぇ。」
「え、何々。ド派手な喧嘩でもしたのか?それ、聞いてもいいやつ?」
「えー、んー……別に隠すことでもないか。みんなが期待するようなことはしてないよ。ていうか、……あのときは俺が一方的に殴ってたかなぁ。」
うん、あの2人のは手で掴んだし。あのときのことを思い出し、ポツリと溢すと、周りからは笑い声の混じる驚きの声があがった。
「やっぱそーゆーの聞くと、お前ってすげぇよなぁ。」
「うるさいよ。それに喧嘩じゃないし。」
「え、一方的に殴っといて?何の話だよ。」
「俺の初恋の話ー。あの子が俺を、強くて優しいヒーローだって言ったから、そう在ろうって思ってるってだけだよ。」
笑って話してると、今度は周りの女子が反応し始め、次第にクラス中が俺の話を聞いていた。
「茶戸くんの初恋の話!?そんなのあるの?」
「え、何その反応。失礼だなぁ。俺にだって、純粋だった思い出くらいあるよ。」
「いがーい!ねね、教えて!貴斗くんオトした女の子、興味あるなぁ。」
キラキラと目を輝かせて詰め寄ってくる女子に、驚きながらも俺は口を開いた。
まぁ、俺のコイバナなんて、聞いてて楽しいかはともかく、物珍しいだろうな。
「俺より1つ年下の子でねー。8年前の夏に1回だけ会った子だよ。」
「え、一目惚れってこと?やだかわいいー!キュンってしたぁ。」
「ははっ。その子がいじめられてるのを助けたんだー。ほら、ここでさっきの殴ってたって話に繋がるんだよ。」
「ここに!?予想外すぎ……。つか、殴ってたのにヒーローってそういうことかよ。」
ニコニコと笑みを浮かべながら話を続けていくと、みんな様々な反応をくれる。ここで計略を立て慣れた俺の頭は、すぐに計算を始めた。
この反応、もしかしたら、俺が初音を手に入れるための計画の一端として、使えるかもしれない。
「笑顔のかわいい子でねぇ。また会えないかなーって探してたんだー。8年間、ずっとね。そしたら……最近、ついに見つけたの。しかもここで。」
「やっだうそぉ!すごいすごい!素敵!え、茶戸くんどーするの?」
俺の一言に、クラス中が一気に沸き立った。悲鳴をあげ、興奮を隠さず先を促すクラスメイトに、俺の頭は解答を導き出した。
ここでみんなの意識の中に初音が俺のモノって植え付ければ、協力を望めるかもしれない。はっきりした展望はないけれど、おおよそ決まった方向性に、俺は小さくニヤリと笑い、口を動かした。
「もちろん、オトすに決まってんじゃん。」
『きゃぁぁぁぁああ!』
「す、すげー茶戸!お前、堂々と宣言するとか!」
「ははは、今頑張ってるとこなんだー。どうアプローチしよーか、考え中。」
「頑張れよ茶戸!俺、ちょー応援するし!……で、誰なんだよ。」
「えー、言わなきゃだめ?」
「ったりめーだろ!これで言い逃げとか、許さねぇからな!」
驚いた顔で1回躊躇うフリをしてみせるが、概ね俺の思った通りに進む様子に、内心満足だ。突貫工事の策略にしては、いいかもしれない。
「もー、しょーがないなぁ。秘密にしてよ?……宇咲初音って子。……なんか照れるなぁ。知ってる?」
「あ、俺知ってるかも。文化祭の子だろ?」
「そーそーその子。」
「へぇ……茶戸ってあーいう感じがタイプなのか。……意外。」
「え、ちょ、どんなん?写真!写真ねぇの?」
クラス中みんなが初音のことを探っている。その様子に、俺は苦笑しながらため息をついた。まさかこんなに大騒ぎになるなんて。これも茶戸家の持つ影響力のせいだろうか。俺が話した影響が出ているのかもしれない。
「おい茶戸!お前も写真とかねぇのかよ!」
「えぇ?無茶言わないでよ。この前会ったばっかで写真持ってるってヤバイでしょ。盗撮でもしてくればいいの?」
「もっとやべぇだろ!普通に撮れよな。」
騒然となるクラスメイトの相手を程々にしつつ、俺は1人笑みを浮かべた。まずまずの感触だ。これで少なくともこのクラスの中では、初音に変なちょっかいをかける奴はいないだろう。気安く接しているとはいえ、あの茶戸家の関係者である俺が狙っていると言ったのだ。喧嘩好きとも知られている上に後ろ楯がこれでは、迂闊に手も出せないはず。
ひっそりと上げられた口端に誰も気づかないまま、授業が始まるまで騒ぎは収まらなかった。
次から初音ちゃん視点になります