まずは下準備からだ
貴斗視点です
「……まさか、ここにきて初音を見つけられるなんてね。」
8年ぶりに再会したけど、初音は変わらず俺にかわいい笑顔を向けてくれた。どうやらあのことは忘れているようだけど、それすらももはや些末なことだ。どうでもいい。
俺は自室で1人、興奮冷めやらぬまま、これからの計画を立てていた。
8年前、初めて会ったときからずっと探し続けていた初音を見つけた今、あの子を逃がすつもりは更々ない。必ず俺のモノにすると、心に決めていた。絶対手に入れてやる。
「若、景介です。今よろしいでしょうか。」
「入ってー。」
景介の声に返すと、紙の束を持った景介が入ってきた。相変わらず仕事が早い。もう初音のことをまとめたようだ。
「若、お待たせして申し訳ありません。宇咲初音とその周辺の情報です。こちらが本人、家族、交友関係です。交友関係につきましては、SNSを中心に収集しております。不足がございましたらお申し付けください。」
「んー、これで大丈夫。ありがと。ごめんねー、忙しいときに。」
書類をパラパラと流し読み、欲しい情報が揃っていることを確認する。そして、景介に笑みを見せ礼を言う。すると、景介はとんでもございません、と首を横に振った。
「私は若の側近。若のご命令にお応えするのが何より優先されます。他の仕事のことはお気になさらないでください。家のものならともかく、学校のものはどうなったところで構いませんしね。」
「あ、景介悪い奴だなぁ。別に後回しでもよかったのに。」
8年前、とある事件をきっかけにすっかりこちらの世界の人間となってしまった景介は、酔狂なことに俺を第一主人と言って憚らない。さすがに学校では猫を被らせているけど、家にいるときはずっとこの調子だ。景介の初音への対応も考える必要がありそうだ。
「申し訳ありませんが、それは絶対できません。若が第一なので。」
「……だろうねー。」
「お気遣いありがとうございます。私はこれで。何かございましたら、何なりと。失礼いたします。」
退出した景介を見送り、俺は書類を元に情報を分けた。これだけ集まっていれば、想定する第一関門は楽に突破できるだろう。そこから先は俺次第だけど。
ふと顔を上げると、電源の落ちたパソコンに自分の表情が見えた。ひどいものだ。獲物を狙う猛獣だってまだマシな顔をしているだろう。
「……ま、しょうがないよね。やっと初音が手に入るチャンスだもん。……待ってて初音。必ず、必ず……。」