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約束と答え合わせ

初音視点です

「気持ちよかったぁ……。ほんと、至れり尽くせりだなぁ。」


豪華な夕御飯と、温かくて広いお風呂を堪能し、私は用意してもらった部屋に向かっていた。

お母さんたちも夕方に連れてこられて、顔色を悪くしながらも無事でよかったと言ってくれた。今日は家族全員ここでお世話になり、明日以降も先輩たちの用意した場所に行くことになっている。本当に何から何までやってもらってばかりだ。


「……こんなにやってもらうなんて、やっぱり先輩は優しすぎるよね。」

「……あれ、初音。」

「あ、先輩!お風呂、ありがとうございました。」

「……う、ううん。」


先輩に声をかけられ、私は道中を先輩と並んで歩いた。

先輩はゆったりとした着物を着ている。いつもより開いた襟元に、そこはかとない色っぽさが感じられた気がして、私はついドキドキしているのをごまかすように前を見たまま口を開いた。


「き、着物、なんですね。」

「え?……あぁ、うん。湯上がり後はいつも着流しなんだ。結構楽でね。見慣れない、よね。」

「はい。……でも、すごくかっこいいです。……あれ?ネックレス、ですか?」


襟元でキラリと何かが光ったのが見え、ちらりと目を向けると、ネックレスが目に入った。なんとなくそれが気になって、私は首を傾けた。どこかで見たことがあるような気がする。

先輩に目を向け聞いてみると、なぜか先輩は少し強張った顔をした。

たまに、先輩はよく分からないタイミングで変な反応をする。なぜなのか聞いてみたいけど、なんて聞けばいいのか分からなくて、いつも聞きそびれていた。


「……。そ。俺の、大事なものなんだ。……昔した約束を守るためのね。……気になる?」

「え?……はい。ちょっとだけ。」


先輩の寂しそうな瞳に促されるまま頷くと、優しく微笑んだ先輩に、すぐそばの部屋に引っ張り込まれた。


「わっ……。せ、先輩?」

「ここは俺の部屋なんだ。座って。」


先輩に示されたままに、私は先輩と並んでベッドに座った。わざわざ部屋に入るくらいだ、思ったより真剣な話なのかもしれない。先輩の大切な約束ってなんだろう。私が聞いてもいいものなのかな。


「……これ見せる前に、初音には謝らないといけないね。……今まで何も言わずに振り回してごめんね。」

「何がですか?先輩に謝ってもらわないといけないことなんてありませんよ。」


先輩はいつだって私に優しくて、守ってくれていた。謝ってもらうことなんて、ひとつもない。

私が驚きながらそう言うと、先輩は静かに首を振った。


「ううん。……訳も話さずに無理矢理巻き込んじゃったから。……少し、昔の話をするね。俺の、初恋の話。」


大切そうに、寂しそうに、いとおしそうにそう言って微笑んだ先輩に、少しだけ胸が痛んだ。よっぽど大事な思い出なんだ。きっと、先輩の中で、その思い出と約束以上に大切なものなんてない。そう思うと、少しだけ自分が惨めに思えた。

少し沈んだ気分のまま、私は先輩の話を聞き始めた。


「8年前の夏休み、3丁目の公園で、俺は1人の女の子と出会ったんだ。2人組の男子にいじめられててね。助けたら、その子、俺のこと”強くて優しいヒーローだ”って言ってくれたんだ。……そんなこと言われたことなかったから、その時からその子は俺の特別な子になった。」


先輩の話を聞いていくと、なんだか知っている話に似ている気がして、私は思わず考え込んだ。

これ、まるっきり私とあのブレスレットのお兄ちゃんのと同じだ。私がお兄ちゃんに会ったのは小学2年のとき、8年前の夏休み。同じく3丁目の公園だ。2人の男の子に人形を取られてたのを助けてもらった。ヒーローだ、なんて言ったかは覚えてないけど、それ以外は覚えのあることだ。

先輩が、あの時のお兄ちゃん……?

混乱する私を見て、先輩は嬉しそうに続きを話した。


「ふふっ。また会えたときにお礼をするって言った女の子に、俺はブレスレットを渡したんだ。それを目印にしてって。」

「っ!やっぱり、先輩あのときの……?」

「……この、ネックレスと同じデザインのブレスレット。……初音がよくつけてるやつと同じデザインのはずだよ。確認してみて。」


そう言って、先輩は首元からネックレスを引っ張り出した。

私は飛び付くようにネックレスに目を向けた。

太めの黒の布紐、小さい十字架の真ん中に薄い黄緑色の石が光っている。私の持っているブレスレットと、同じものだ。


「……同じ。……先輩が、あの時のお兄ちゃんなんですか……?」

「……ははっ。もう、貴斗お兄ちゃんって呼んでくれないの?」

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