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お泊まり会の始まりだ

貴斗視点です

「……気持ち悪い顔しやがって。貴斗、報告は。」

「あの場にいた奴等は全員捕まえた。裏取りもたぶんすぐ終わるよ。景介が手出すからね。」

「そうか。被害状況は。」

「……今のところ、軽く確認しただけだけど、人的被害はなし。物的被害がひどいね。後で表にまとめるけど、玄関の扉、個室の扉、テーブル、壁、その他細かい家具やインテリア、食器多数……。よくもまぁここまでやったよ。」


この目で見ただけでも、怒りを通り越して呆れるほどだった。俺の話に、親父も景太郎おじさんも、引き気味の表情をしている。

俺の隣で静かに話を聞いていた初音は、少し落ち込んだように表情を曇らせた。

当然だろう。初音があんな理不尽な悪意を向けられたのは、きっと初めてだ。ショックを受けるのも無理はない。


「初音、大丈夫だよ。もうあいつらが初音の前に出てくることはないからね。」

「先輩……。はい……大丈夫ですよ。先輩がいますから。」

「んんっ……。……初音の信頼には、応えないとね。てわけで、親父の許可が欲しーなぁ。」

「……ちっ。好きにしろ。他は。」

「今はないよ。後で書面で報告するね。んじゃ、俺はこれで。初音、行こう。」



報告を終え、初音と共に退室する。これ以上親父といても、嫌味の応酬になるだけだ。長居すべきじゃない。


「初音、このあと何をしようか。少し時間空いてるし、景介と交代したら何でもできるよ。」

「え、いいんですか?お仕事とか……忙しくありませんか?」

「もちろん、万事オッケー……ってわけにはいかないけど、俺が優先したいのは初音だよ。俺の時間は、初音を幸せにするためにあるんだからね。」


そう言うと、初音は本当に幸せそうな、蕩ける笑みを見せた。

初音を幸せにする。これは俺の人生を賭けた命題といっても過言じゃない。俺と関わらせてから……いや、初音を好きになってから、俺が初音のことを幸せを奪うことがあってはならないと肝に命じてきたから。

……でも、そんな顔されたら、自惚れちゃうよ……。俺、初音に好いてもらえてるのかなぁ……。


「せ、先輩、私嬉しいです……!先輩、私、先輩ともっとお話したいです。私、先輩のこと、全然知らないって今さら気づいたんです。先輩のこと、教えてくれますか?」

「……初音、俺のこと知りたいって思ってくれるの?……俺こそ嬉しいよ。もちろん、俺のことなんてなんでも教えるよ。」


初音からの申し出に、俺は慌てて口元を手で隠しながら聞き返した。

だめだ、自覚できるほどヒクヒクしてる。ニヤけが止まらない。……心なしか、耳が燃えるように熱い……。鏡で見ずとも、今俺は首から上が真っ赤に染まってるだろう。

ほんとにガキみたいじゃないか……。先輩としても、彼氏(仮)としても、威厳が無さすぎる。


「ほんと……かわいすぎるのも困りものだよね……。景介、入るよ。」

「お戻りですか。では、若。私はこれで一度失礼いたします。食事の時間には戻るつもりですが、来ずとも先にお召し上がりください。お嬢、お兄様。御前を失礼いたします。ご用の際は、別の人員をお付けするので、そちらへ何なりと。では、失礼します。」


待ちきれないといった様子で足早に部屋を出ていった景介に、深い深いため息が出る。あいつの悪癖にはいつも困っていたけど、初音たちの前でくらい取り繕ってほしい。


「……お兄さん、景介に困らされなかった?苦情があれば言ってほしいな。」

「いや、驚くほど丁寧に色々やってくれたよ。すごいな。」

「そっか、ならよかった。……川島、ここ担当して。お兄さん、ここからはこの川島が面倒見るね。」

「分かった。……川島、さん。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、お願いします。若、部屋の準備が整いました。」

「オッケー。今から今日使ってもらう部屋に案内するよ。こっち。」


今日は初音の家族ごとウチに泊まってもらうことになる。ウチの敷地内ならセキュリティーも万全だ、襲われるなんてこともない。初音たちにはここにいる間だけでも心安らかに過ごしてほしい。

歩きながら家の中も案内していく。ここは事務所も組員の住居も兼ねているから、入らない方がいいところがある。特に景介の趣味部屋なんか、絶対に入れるわけにはいかない。その説明を簡単にし、部屋に到着した。


「ここだよ。俺たち幹部の部屋もここから近いし、何かあったら遠慮せずなんでも言って。」

「わぁ……。ありがとうございます。すごいきれいなとこ……。」


嬉しそうに部屋を見回している初音を、俺は静かに見つめた。

今日は大変なことがあったんだ、せめてウチの敷地内では、案ずることなく心安らかに過ごしてほしい。

俺の生きるこの世界を、怖がらないでくれるといいな。

次話から初音視点になります

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