救いの声
初音視点です
「……また不審者……。最近多いなぁ。」
帰宅後、お母さんに言われた不審者情報。この近辺の町内だけでもう5件以上だ。比較的この近くに集中しているらしく、なんだか気が抜けない。
「初音、そんな怖がるなって。まぁ、お前には彼氏がいるし、言や対応してくれんだろ?」
「お兄ちゃん。おかえり。……先輩は忙しいもん。不審者なんかで頼っていいのか分かんなくて……。」
帰宅していたらしいお兄ちゃんが、私の独り言に反応を返した。
先輩に会ったことのあるお兄ちゃんは、もちろん先輩がどういう家の人なのか知ってる。それでも、むしろ先輩の家の力を使って解決できるなら、問題を解決しろって言ってくる。今回の不審者のことだって、そう言ってくる。先輩を使おうとするなんて、怖いもの知らずだ。
「ふーん。まぁ、初音がそう言うなら好きにしていいと思うけど。……そーいや、今さ、外に高そーな外車が停まってたんだよな。俺興奮しちゃった。」
「外車?へぇ、お兄ちゃん、車好きだもんね。」
「あぁ。ほら、あの角のとこ。黒塗りのやつ。かっこいーよな。」
窓の外を指差し、車の種類やら何やらとテンション高く説明していくお兄ちゃんにつられて、私も外を見た。確かに見たことのない車だ。よく分からないけど、珍しい車なんだろう。
ボーッと意味もなく眺めていると、運転席の人と目が合った。思わずビクリとすると、運転席の人は車内に振り返り、車を降りてきた。
「……。」
「ん?初音、どうした?」
「せ、先輩に……連絡しなきゃ……。」
降りてきた人を見た瞬間、反射のように先輩に連絡を入れなければと、携帯を手に取っていた。
あの外車の人は明らかに雰囲気が違った。強いて言えば、先輩のおうちにいる人たちと似ているだろうか、といった感じで、先輩風に言えば、危ない世界の同業者さん、だ。
「お、おい、初音?」
「先輩……。早く出て……!」
お兄ちゃんの声を無視し、先輩の電話番号を呼び出す。2コールで出てきた先輩は、優しい声で私の名前を呼んでくれる。それだけで、少しだけ気分が落ち着いた気がした。
『どうしたの?初音。何かあった?』
「あ……、あの、今、その……先輩のおうちの人たちみたいな人が、家の近くにいて……。」
『……玄関に鍵かけて。チェーンも忘れずにね。家には誰かいる?』
「お兄ちゃんがいます!」
『オッケー。お兄さんにも協力してもらいたいな。2人で2階に行って。初音の部屋ね。』
「は、はい!」
先輩の指示をお兄ちゃんにも伝え、2人で2階の私の部屋に入る。追加で指示されたように、イスやテーブルなどでドアを押さえていく。その間にも、玄関の方では、鍵を壊しているのか、ガンガンと音がしている。
『初音、大丈夫だよ。すぐ行くからね。あと10分、頑張れる?』
「せ、先輩……怖いです……。ぐすっ……は、早く来てください……っ。」
『……5分で行くよ。初音、通話はこのままで。切らないで、俺と一緒に話してよっか。大丈夫、俺が必ず初音を助けるからね。』
先輩の大丈夫という言葉に慰められつつ、私は部屋の隅で縮こまった。
その時、玄関の方から、バンっと大きな音がした。ついに鍵が壊されたのかもしれない。私はより一層体を震わせ、先輩の声がする携帯を握りしめ、耳に押し当てた。
「せ、せんぱい……っ。」
『大丈夫、大丈夫だよ初音。俺がいるからね。ほら、もうすぐ着くから。安心して。』
「うっ……ひっく……先、輩……。先輩……っ。早く来て……!」
階下でドカドカとたくさんの人が無遠慮に家に入り込み、怒号をあげている中、私はお兄ちゃんの背に隠され、電話口に縋り、ひんひんと泣くしかできない。
すぐに2階にも上がってくる気配があり、ついに部屋の前に人が集まってくるのを感じた。
「お兄、ちゃん……。」
「大丈夫……大丈夫だからな、初音……。俺が絶対、守ってやるからな……。だから、泣くな……。」
「う、うん……。」
お兄ちゃんが震える声でそう励ましてくれている間に、ドアが破られ、置いていたイスやテーブルも薙ぎ払われた。とうとう、私たちは見つかってしまった。
「ちっ……。余計な手間かけさせやがって。おい、女。お前が茶戸のガキの相手だな。」
「ひっ……。」
「けっ。まさかあの生意気なガキの好みがこんなガキ臭ぇ奴だったなんてな。まぁいい。来い。あいつを排除するための人質だ。」
「やっ……!い、行きません!」
「初音!くそっ、お前らに連れていかせてたまるか!」
おそらく1番偉いだろう男が私に手を伸ばしたのを、お兄ちゃんが庇ってくれる。私はお兄ちゃんの服の袖を思わず握り、その後ろに隠れるように顔を伏せた。
「ちっ……。おい、女を連れ出せ。殺すなよ。男はどうでもいい。」
そう言い、男が部屋を出ていくと、数人がかりでお兄ちゃんと引き離され、私は呆気なく捕まった。
「いやぁ!離して!触らないで!」
「うるせぇ!こっちに来い!」
必死に抵抗するも、男の人の力に敵うはずもなく、私はずるずると引きずられ、廊下まで出てしまった。お兄ちゃんも、3人がかりで捕まっている。絶望的な状況に、私は思わず叫んだ。
「やぁ!先輩っ、先輩助けて!」
「……もちろんだよ、初音。それが俺と初音の約束だもんね。」




