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彼は若の味方になりえるのだろうか

景介視点です

教室の中には若とお嬢がいた。先日言っていた通り、お嬢との仲を深めていらしたのだろう。待ち合わせをしていたから問題はないと思うが、早く来たことでその邪魔になっていないだろうか。


「んー?あれ、景介。どしたの?早いね。……っと。りゅーちゃんと駿弥くんじゃん。何?2人連れ立って。俺に用?」

「……おい、茶戸。てめぇ、なんで俺のクラスの生徒と話し込んでんだ。」


顔を覗かせた俺に、お嬢と話していた若がにこやかに応える。そして、俺の後ろにいる2人に目をつけると、面白そうに目を細め、そちらにも声をかけた。

しかし、畑本先生は、お嬢の存在に早々に目をつけ、警戒した目で若を睨み付けた


「えー、やだなぁ。そんな睨まないでよ。言ってなかったっけ?初音は今、俺のカノジョなんだよ。ねー、初音。」

「え……あ、その……はい。」


軽い口調で若に問いかけられたお嬢は、ビクリと肩を震わせると、少しだけ逡巡するように視線をさ迷わせ、俯くように肯首した。

畑本先生もその様子に気づいたのか、眉を寄せた。


「なに……?おい、茶戸てめぇ、俺の使命忘れたワケじゃねぇよな。巻き込むなって言っただろ。」

「りゅーちゃん熱くなりすぎだって。忘れるわけないでしょ?初音のことは気まぐれなんかじゃないから安心して。親父にも組にも、顔見せは済んでるんだ。」


若に詰め寄り、締め上げんばかりに迫る畑本先生は、若の言葉にハッとしたように動きを止めた。親父と組に顔見せをするという意味の重大さを知るが故だろう。


「……ちっ。おい宇咲。困ったことや危険なことがあったら、俺に言え。必ず手を貸してやる。茶戸に不利益がかかろうとな。」

「えぇ?りゅーちゃん冷たーい。そりゃ、りゅーちゃんが初音を気にかけてくれるんなら心強いけどさぁ。初音、りゅーちゃんはすごい強いから、何でも言っていいからね。」

「……先生も、先輩のお仲間さんだったんですか……?」


畑本先生の不機嫌そうな顔と、若の笑みに、お嬢の顔はサッと青ざめた。大方、俺が若側の人間だったから、次の頼り先候補である先生に相談しようとしていたんだろう。もし先生までもが若側の人間なら、他にアテがなくなる、といったところか。周りに味方や相談相手がいないのは、確かにキツいものだ。

お嬢の言葉に、先生は嫌そうに顔を歪め、その懸念を否定した。


「んなわけねぇだろ……。俺がこのクソガキの仲間なわけがねぇ。俺はこの高校の教師だ。生徒のためなら動いてやるってこった。……こいつとは古い馴染みなんだよ。」

「そーそー。まぁ、りゅーちゃんが俺に付いてくれるんなら嬉しいけどね。……あ、そーだ。ごめんねー、駿弥くん。どしたの?俺に用?」


思い出したように若が転入生に目を向けると、これまでのやり取りを静観していた転入生が若を見返し、口を開いた。


「文化祭ぶりですね。今日はセンパイとお話ししたくて伺いました。」

「お、うれしーね。何について話そっか。景介も入れば?初音はどうする?たぶん難しい話になると思うけど。」

「……私は、遠慮しますね。きっと、着いていけなくなっちゃうので。……えぇと、初め、まして……ですよね。宇咲初音です。」


若の一歩後ろで小さく会釈しながら距離感を測りかねるように恐る恐る名乗ったお嬢に、転入生はこれまたなんの感慨もないように見遣り、目を伏せた。


「藍峰駿弥です。今日、1年に転入してきました。」

「宇咲、こいつは俺のクラスに入ることになる。明日紹介すっから、オフレコな。」

「そうなんですね。クラスメイト、になるんですね。」

「明日からよろしくお願いします。……センパイ、これなんですけど。」


お嬢との挨拶を交わすも、本当に個人に興味がないのだろう。すぐさま若へと向き直り、日米の経済について議論し始めた。高校生にしてはあり得ないほどの理解度だ。学生の目にはおよそ入らないような論説や実例なんかも多く話に出てくる。


「俺としては、そっちより中東の情勢が関わってると思うんだけど。原油輸出額が高騰したのはその影響でしょ?それがさっきの駿弥くんの話に繋がるんじゃない?」

「……確かに、この通貨の変動で見るとそう見えますね。ですが、物流で見ると……。」

「あぁ、そうだね。決定的に変えたのは米国内の問題か。貴斗、これ忘れてるぞ。中東だけじゃなくて、英国内の船員のストライキも重なっての結果じゃねぇか?」


存外白熱した議論は畑本先生の制止で終わりを迎えた。気づけば辺りは夕日も落ちかけ、薄暗くなっていた。


「……お前らなぁ……。高校生らしくしろとは言わねぇが、せめて周囲を見ろ。宇咲なんてドン引きじゃねぇか。宇咲、あれは異常だからな。罷り間違っても普通なんて思うじゃねぇぞ。」

「……みなさんがとてもすごいのは分かりました。私なんかじゃ、とても……とても着いていけません。」

「あぁ、ごめんね、初音。すっかり夢中になっちゃった。駿弥くん、続きは明日以降に。もう帰ろう。りゅーちゃん、初音の相手ありがとー。みんな待ってるし、いつでも遊びに来てね。初音、景介、行こう。」


若の言葉で解散し、若とお嬢に付いて教室を出る。

あの転入生のことを、若はどうお感じになっただろうか。若の側近として、どのような扱いにするか確認したい。しかし、校門を出るまでは生徒会長の湧洞景介でいなければいけない。

校門までの距離を、俺は焦れながら若たちの隣に並び歩いた。

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