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先輩のおうちの人たちとの対面

初音視点です

先輩のお父さんが開けた広間は、家同様とても大きなところだった。高校の体育館くらいありそうだ。

宴会場かと思うほどの広い広間には、埋め尽くさんばかりの人が集まっていた。私たちが入るまで少しざわめいていた場も、先輩たちが姿を見せたことで、すぐに静まり返った。そして、一斉に全員の目がこちらに向けられた。


「……っ。」

「初音……?……おい。」


向けられた目のプレッシャーに息を飲み、体が一瞬強張り足が止まってしまう。それを見た先輩が心配そうな声で私の名前を呼び、低い声で短く広間の人たちへ声をかけた。聞いたことのない、機嫌の悪そうな先輩の声に驚いて、思わずそちらへ目を向けると、先輩は変わらないいつもの笑みを浮かべている。

同時に、こちらに向けられていた目が一気に外され、全員が頭を下げた。

……これが、先輩の持つ力なんだ。この広間を埋める明らかに先輩より年上の人たちが、たった一声で頭を下げちゃうほどの。


「初音、これで大丈夫だよ。怖くないから、安心して。」

「え……?」


呆然としていた私に先輩が優しい声で話しかけてきた。

私が怖いって思ったこと、分かったの?それで、声をかけて目を外させた……?

一瞬そう思った私は、すぐに頭を振ってその考えを否定した。

まさか、そんなはずない。きっと、これがいつものことなんだよ。先輩たちが来たら皆頭を下げるのが普通なんだよ。先輩が私に声をかけたのだって、早く中に入れって、私が足を止めちゃったから、そう言っただけだよ。

先輩に促され、私が先輩たちと同じ部屋の前方に進むと、先輩のお父さんが口を開いた。


「全員聞いてくれ。貴斗から話がある。」

「皆今日は集まってくれてありがとう。紹介したい子がいる。初音、おいで。」


堂々とした態度で衆目の中話す先輩が、私を優しげな声で呼び寄せ、手招きした。

私が緊張で強張る体を前に進め、先輩の隣に立つと、その場の注目が集まった。


「宇咲初音。俺と縁を結んだ子だ。この場を顔合わせとして、茶戸家全体に紹介したこととする。初音、皆に顔見せてあげて。」

「は、はい……。えと……宇咲初音、です……。よろしく、お願いします……。」


所在なく視線を彷徨わせていると、なんとなく集まっていた人たちの顔が見えた。どう見られてるか分からないけど、少なくとも睨んでいる人がいないようで安心する。露骨な敵意を向けられても、私にはどうすることもできないんだから、よかった。


「これで、初音は正式に俺の関係者となる。初音に仇為す行為は、俺への背信行為、俺を敵に回すことだ。この意味をよく考えろ。親父。」

「あぁ。まぁ、今は色々と動いているような状況だ。そのゴタゴタの中で、万一ということもないとは限らん。何かあったときには、誰より優先して助力してやってほしい。俺が許可する。」

「初音とその家族について今を以て護衛対象になる。うちと関係があろうとなかろうと、何か異変や気になったことがあれば、すぐ報告してくれ。」


先輩と先輩のお父さんが言っていくことを、全員静かに聞いている。

シンとした中で、私は居たたまれない気分で手を握りしめた。元々注目されるのは得意じゃないし好きでもない。なのに、ただでさえ緊張する先輩の隣で、こんなたくさんの人に見られてるなんて、どうしていいのか分からない。早く終わってほしい。

私が大人しく口を閉ざしていると、先輩のお父さんが解散の声をかけた。やっと終わったのだ。

こんな大事のように集めておいて、こんなに早くあっさりと終わるものなのかと思いながらも、先輩のエスコートを受け、退出する。部屋を出る直前にチラリと後ろを見てみれば、入ったときと同じように全員頭を下げている。やっぱり、最初に先輩が声をかけたのは、いつものことだったみたいだ。


「貴斗、孝汰には会わすのか?」

「当然。あいつにも動いてもらうつもりだからね。」


廊下に出ると、先輩と先輩のお父さんは一言二言話すとすぐ別れた。もちろん私は先輩に連れられ、どこかに向かっている。


「初音、お疲れさま。よかったよ、あんな大勢の前でちゃんとできてた。俺まで安心しちゃったよ。」

「いえ……名前、言うだけでしたから。」

「それでも、あんないかついおっさんばっかの前で言えたのがすごいよ。これから俺の弟に紹介するから。」

「弟さん……。」

「うん。俺は美南と孝汰を合わせて3人兄弟なんだ。……あ、いたいた。孝汰。」


先輩が呼び掛けると、男の子がこちらに振り返った。どことなく柔らかそうな雰囲気を持つ子だ。先輩とは少し毛色が違って見える。


「貴斗兄ちゃん!あ、その人が言ってた人?」

「そ。初音、これが弟の孝汰。孝汰、この子が初音。」

「はじめまして、貴斗兄ちゃんの弟の孝汰です。」

「う、宇咲初音です。よろしくお願いします、孝汰くん。」


孝汰くんは人当たりのよさそうな笑顔で私に向き合った。この子も、先輩みたいな子なんだろうか。

少し会話をして、孝汰くんとはそのまま別れた。なんでも、私はまだこれから会う人がいるらしい。


「次で今日会ってもらうのは最後だよ。特別紹介したいやつなんだ。」

「特別紹介したい人、ですか……。」

「そう。……あぁ、ここだ。この部屋で待ってるはずだ。入るよー。」


先輩が、私に特別紹介したい人。どんな人だろう。先輩のおうちの人で私が関わりができる人なんていないと思うけど。

先輩が部屋の中に声をかけると、中から了承の返事が返ってきた。その声がなんとなく聞き覚えがあるなと思いながら私が部屋に入ると、信じられない人が中で待っていた。


「え……。」

「……こちらでは初めましてですね。私、若の側近をしております、湧洞景介と申します。以後、お見知りおきを。」

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