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けど、骨が折れるな。色々と

景介視点です

「失礼します。畑本先生、ご用があると伺いました。」

「おぅ。例の転入生が、来週の頭に入ってくる。当日放課後、生徒会室に連れていく。待っててくれ。」

「分かりました。……いよいよ入ってくるんですね。文化祭初日に会いましたが、想像よりずっとすごい子でしたね。」


一週間前の文化祭の余韻残る金曜日。まだ後処理が残っている中、件の転入生が入ってくるようだ。次々と舞い込む仕事に辟易としないでもないが、楽しみでもある。

茶戸家の情報網を駆使しても、満足に情報を得られない転入生。こんな敗北感に打ちのめされたのは久々だ。どんな生活してんだ、あの転入生。


「規格外だったか。そーいや、お前のクラスで盛り上がってたな。最高難度を解いた奴が一人いるって。もしかしてそいつか?」

「えぇ。畑本先生も挑戦されました?あれを単独で解けるなんて、並みではありませんよ。貴斗も驚いていました。」


若は片手間に作ったと仰っていたが、普通の高校生では解けるわけがないという前提で話していた。それを、年下が一人で解いたからか、あの日は終日ご機嫌よくいらっしゃった。若は、その素晴らしい才を脅かしかねない存在が現れると、燃えると仰って、俄然やる気を出される。そして、あの日もそう言っていた。つまり、あの転入生が若の頭脳に並び立つ可能性を感じ取られたのだということ。


「僕も、首席の座を追い落とされないよう、気をつけなければいけませんね。僕が貴斗の前の最後の砦ですから。」


若がそう簡単にその座を明け渡すわけがないと分かっているが、若の側近たる俺が、その事実に胡座をかいていい理由にはならない。俺が転入生に負けて、若の顔に泥を塗るわけにはいかない。

静かにやる気に燃えていると、畑本先生は冷ややかな目で俺を睨んできた。

はて、何かやらかしたか。俺が視線を返し首を傾げていると、畑本先生は嘆息して疲れた声を出した。


「お前って結構分かりやすいな。茶戸のことになるとムキになってるのがすぐ分かる。どうでもいいが、会長の顔に戻しておけよ。家じゃねぇんだぞ、ここは。」

「あぁ……失礼いたしました。いけませんね。若のことを考えるとどうも、我慢の効かないものです。……先生、この藍峰くん、なかなか非文明的な生活を送っているようですね。SNSに姿が見えないんですよ。」


心持ちを家用から外面用に変え、顔を穏やか仕様に作り直してから、情報収集を始める。少しのチャンスも見逃せない。

しかし、そんな俺に畑本先生は頬を引きつらせている。恐ろしいものを見るような目を向けられた俺は、わざとらしく笑みを向け、その顔の意図を問うた。


「……お前、藍峰駿弥のこと調べたのか?しかも、その口ぶりじゃ手足を使ったな?恐ろしい奴だな……。」

「いやですね、先生。どんな人柄か見たかっただけなんです。人畜無害な生徒会長を自称する僕が、そんな、先生に恐ろしい顔されるようなコト、するワケないじゃないですかー。やだなぁ、ははは。」


危ない橋は俺基準では渡ってないし、転入生をこちらの世界に関わらせようなんて考えてもない。よって、先生に心配されることなんてない。

キレイに笑顔をきらめかせそう言うと、先生はさらに引きつらせた顔を俯かせ、大きく長いため息をついた。


「あのなぁ……。普通の生徒会長は転入生が転入する前からSNSで情報を集めたり、探りを入れたりしねぇんだよ。入ってから考えろ。」

「おや、常識とズレてましたか。……仕方がありません。一度顔を見ることもできましたし、諦めます。」


1回しか会ってないが、あれでなんとなくの為人も掴めた。若が認めるほどの頭脳を持つ点だけは特筆すべきところだが、少なくとも今すぐ対処しなければいけない点も、若と敵対しうる点も見られなかった。最低限俺が確認すべきことは確認できただろう。

すぐに引いた俺に対し、畑本先生は納得いかないような表情でこちらを見ている。


「……たく。ほんと、世間一般のイメージとは真逆だよなぁ、お前ら。」

「えぇ、そうですよ。貴斗のことを悪だと思ってる奴もいるようですが、あいつほど平和と正義を大切にしてる奴はいませんよ。あいつこそ光の存在ですよ。私は真逆ですけど。汚れ仕事の方が性に合ってまして。」

「……家の、な。危ない橋渡ってんじゃねぇだろうな。お前らになんかあったら、俺は瑛兄たちに顔向けできねぇぞ……。」


苦しそうな顔で呟いた先生は、きっとあの事件を思い出してるんだろう。親父たちから聞いた話では、その時狙われたのは龍司さんの同級生ーー特に親しかった人たちと聞いているーーだ。親父の守ろうとした存在を傷つけられたから、今龍司さんは教師をやっている。そして、それを悔やんでいるのか、以降龍司さんは茶戸家に来ることもめっきり減ってしまったと言っていた。親しい友人が離れたことを、今でも親父も父も寂しそうに話している。


「……悪い。暗くしちまったな。つーわけだ、湧洞。転入生の件、頼んだぞ。」

「はい。僕も楽しみにしてます。」


傷ついているように見える顔で無理に空気を戻すような声色を出す龍司さんに、部屋を出た俺はため息をつくしかない。ここも、変に拗れている。早いとこ元の通り親交していてほしい。


「……一度、話し合いの場を設けるべきかもな。」


また俺や若が関わる事案ができることに心労はいや増すが、仕方ない。手のかかる大人たちのことは今は置いておこう。転入生の情報収集のために動かした手足たちはもう用済み。適当に処理して次のことに目を向けねば。

次話から初音視点が始まります

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