親父だって、傍観者ヅラしてないでね
貴斗視点です
「ほんと、俺と親父ってどこまでいっても親子なんだよね。」
俺がにこりと笑みを見せると、親父は心底嫌そうに顔を歪めた。
失礼なことだ。だいたい、そんな顔したいのはこっちの方だ。いったい、これまでに何回親父と比較されてきたと思っているのか。会う人会う人皆、口を揃えて”まぁ、あの茶戸瑛史の息子だからな”と、その功績を勝手に過小評価していくのだ。自分が都度素晴らしく輝かしい成果を挙げてきたとは思わないけど、親父を理由に評価を下されるのは業腹だ。
いつか、必ず、”あの茶戸貴斗の親父だからな”と過小評価させてやるくらい、親父を越え、その姿を高みから見下ろしてやるのだ。
「……まぁ、事実親子だしな。似てても致し方なし、だろ。美南や孝汰があそこまで人好きのする性格なのは、凜華似ということだろう。この世界じゃ、多少好すぎるとは思うがな。」
「あの2人は生き残れないって。狸に喰われて終了だよ。」
「だろうな。やっぱこの世界は、俺やお前くらい性悪じゃねぇと動かせねぇな。」
「うわ、親父まさかだけど、俺を本家に送るつもり?なんの罰ゲーム?俺は今の本家継ぐつもりはないんだけど。」
親父の口ぶりに、俺は思いっきり顔をしかめ、手を振った。
茶戸家の人間はえてして何かしらの能力が高く出がちだ。それが遺伝子的な要因なのか、そうでなければ生き残れないから高くならざるを得ないからなのか分からないが、そういう傾向にある。俺は頭脳レベルが高く、親父は組織を統率する能力に長けている。
本家では、じーちゃんだ。じーちゃんは、とにかく身体面の能力が高い。60歳を越え、未だに前線に出られるほどだ。茶戸の関連組織の中でも、圧倒的な力を持っている。
本家が足の引っ張り合いをしていて尚、その強大な組織がまとまっていられるのは、一重にじーちゃんの力が強いからだ。じーちゃんみたいに圧倒的な力を持たなければ、コントロールするのも難しい。ただでさえ本家の人間に嫌われている上、俺自身にやる気もない。こんな状態で俺が本家のトップに収まったところで、うまくいくわけがない。
親父がその気なら、俺も早く手を打たなければいけない。
「ジジィの指名だろ?受けりゃいいじゃねぇか。ここよりゃよっぽどいい生活ができる。」
「だとしても、地獄に行く気はないよ。今の俺との関係性だったら、本家に行った途端、命の奪り合いになんの、目に見えてんじゃん。なんとしても回避してやるから。」
「確実にここか本家の後継だけどな。長男坊で力もある。諦めろ、ジジィが推す理由なら山程ある。」
底意地の悪い笑みで俺を見る親父に、堪えきれないため息を漏らす。
今時古臭い、嫡男が組織のトップになるというこの業界の習わしも、長男で健康体、この世界の在り様に一等馴染んだ俺が十中八九嫡男になることも分かっているし、反抗する気もないけれど、それでも俺は、管理職より執行部より実戦部隊として現場に出ていたい。もちろん、時期が来て逃げ切れなくなれば腹を括るけど。
「あーぁ、嫡男なんてなりたくないなぁ。楽しみがなくなっちゃう。この世界は、現場に出てこそなのに。そう思わない?」
「……お前みたいな異常人格者からすりゃ、出世なんかより暴れる方が優先になんだろうな。世間様に顔向けできねぇ、天下のバカだよ。」
「親の背を見て子は育つってね。世間様に顔向けできないクソ親父に育てられたんだから、しょうがないでしょ。後継の件は俺にも決定権あるってじーちゃん言ってたし、俺のいいように采配してくよ。もちろん、親父も巻き込んでね。他人事にはさせないから、覚悟しといてよね。」
俺の言葉に嫌そうな顔をする親父に、不敵に笑みを見せる。
本家のことは、俺にも発案権が与えられてるのだ。親父にばっか蚊帳の外で楽させてたまるか。
それに、俺の頭の中にはすでにある程度のビジョンが見えてるのだ。今後のことも考えた上での配置だから、うまくいけば俺の案が本家の定例形式になるだろう。そうなれば、もし俺が本家を継ぐことになっても、影響力を持った上で、華々しく入れるだろう。後に動かしやすくなる。
この世界を掌で転がす気はないけど、転がすくらいの気概がなければ生きていけない。




