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蛙の子は蛙なんだよね

貴斗視点です

「おぅ、貴斗。来たか。」

「来たか、じゃないよ親父。俺今忙しいんだけど。」


家に帰り、部屋で仕事を進めようと思っていた俺は、組員からの伝言で親父の書斎へ召集されていた。俺がいつでも仕事に追われていることを知っていてのこの暴挙であるから、自己中な権力者を身内に持つ俺はつくづくかわいそーで健気ないい息子だ。

親父はもっと厚遇するべきじゃない?俺のこと。


「お前、何考えてんだ?変な顔して。……今日、っつってたよな。どうなった。」

「万事恙無く。問題は……予定に多少の狂いは出たけど許容範囲。今回の主目的は達成した。次の土曜に顔見せで。」

「そうか。組として、その時認知してやる。巻き込んだ以上、守るのは俺らの役目だからな。」

「頼むよ。情勢としてはかなり危うい感じだし。これ、資料。前頼まれてたやつ。ちょーっと見逃せない状況?」

「……分かった。景太郎に探らせる。お前はこっちだ。」


仕事を1つ終えると、また次の仕事が湧いてくる。分厚い書類を差し出してきた親父をジトリと睨み付けながら受け取る。中身は、最近情報として上がってきた裏取引に関することだ。これの裏取りと追加情報の調査をしろということだろう。


「……また面倒な……。いい加減、俺も暇じゃないって分かってくれない?仕事に追われて青春活動も満足にできない俺、ほんとかわいそー。」

「寝言は寝て言えバカ息子。青春活動なんて、今日したばっかだろ。先1年分先取ったってくらいだ。先取り分、組に奉仕しやがれ。」

「今までの貯金分で十分足りるでしょ。人の労働状況は正しく認識してよね、ブラック組織の組長さん。」

「……たく。口ばっか達者になりやがって。貴斗、中の資料にも書いたが、傘下の組員に内通者がいるかもしれん。それを中心にやれ。」


嫌そうに呆れた声で俺を詰った後、真剣な顔をすると、親父は低い声で命じてくる。内容は、俺や親父が心底嫌ってるものだ。


「……分かってるよ。……ふふっ、大した奴だよね。俺ら茶戸家を裏切るなんてさ。」

「貴斗、今は抑えろ。」


俺にとっては、神経を逆撫でする話だ。無意識の内に怒気が流れ出ていたようだ。親父に諌められ、気分を落ち着ける。


「全く、お前は本当に我慢の効かん男だな。」

「あはっ……そうかも。でもさぁ、拾ってもらった恩も忘れて、あまつさえあっちからもこっちからも利益を掠め取ろうなんて不埒者、許せるわけないじゃん?」


呆れたように言葉を漏らす親父に、先程とは一転、俺は朗らかな笑みを向けた。

俺たち茶戸家は、この暴力蔓延る裏の世界の秩序を司らなけばいけない存在だ。他を力で従属させる以上、他よりも秩序をまもっていなければ示しがつかない。そして、この世界で1番重要な秩序とは、親父や格上組織をトップに置いた絶対的主従制度。親父の言うことは絶対、下位の者が上に歯向かうなんて許されない。

……はずなんだけど。いつだって馬鹿なことを考える奴はいるもので。裏切りが発生してしまう。まぁ、そんな奴、見つけ次第捕らえて景介コースなんだけど。


「……っんとに。そんなんだからお前は本家のジジィ共に嫌われんだ。利益第一主義の狸共のことだ。お前は立派な排除対象だろうな。」

「あぁ、正解。あの御仁たちはそーいう取引と犯罪取引でこそ儲けてるんだもん。傘下の奴等に手ェ汚させて、甘い汁吸ってんの。ほーんと、舐め腐ってるよね。親父も、それが嫌で本家から逃走したんだよね。」


ケラケラ笑いながら本家の腐り具合を話し、ついでに親父もからかうと、親父は顔をしかめこちらを睨んだ。機嫌悪いのをこちらに向けないでほしいものだ。


「……ちっ。本家の空気は俺に合わん!それだけだ。つか、逃げてねぇよ。」

「もー、怒んないでよ親父。俺だって本家の雰囲気嫌いだし。」


鼻を鳴らす親父に同調し、俺は声をたてて笑った。

茶戸本家の当主の選出時、じーちゃんが選ばれたのは、茶戸の血を継いでいるからというのも大きかった。俺や親父が後継に指名されているのも結局それだ。もちろん、実力に裏付けされた支持があるのも事実だけど、本家の幹部の中には、必要以上の力を蓄え、茶戸の血を喰おうと企む奴も少なくない数いる。虎視眈々とこちらを狙い、ありもしない黒い噂を流し、自分に有利な流れになるように画策している。ギラギラとした空気で。よくじーちゃんはあれを抑えてるよね、ほんとに。

あれを見る度に、感じる度に、親父が組を新設しててよかったと思う。でなきゃ、あの狸共にいいようにされていただろう。


「いい気なもんだ。俺がまだ本家にいた頃は、そりゃーもうピリピリしててひどかったな。凛華を連れてったときにゃ、まー荒れた。お前も気を付けろ。」

「どこの世界にも婚姻で力を付けるなんてことあるんだね。俺は初音一筋だし?どんな話を持ってこられようと構うことはないんだけど。初音以外の女なんて、目に入んないよねー。」

「その調子ならまぁ、問題はないだろうが……。」


呆れた目で見てくる親父を無視して、俺は初音を思い浮かべ、1人ニマニマする。

今日もかわいかった。泣き顔なんて、あの日以来。俺にとっては、思い出の表情だ。本音としては、初音にはいつでも幸せ一杯に笑っていてほしいが、いろんな表情を見せてくれるなら、その全てすら、俺のものにしたいと思う。

……なんて、強欲な願いだろう。


「……。あーぁ、早いとこ土曜になんないかな。初音は俺のもの……って宣言できるなんて、最高じゃん。」

「……相変わらず狂った考えしてやがんな。誰に似たんだか。」

「そんなん、聞くまでもないでしょ。俺が親父以外の誰に似るって言うの?ほーんと、俺ってば親父の血を濃く受け継ぎすぎなんだよね。つまり、俺が狂ってるのは親父のせいってことで。」


ほら、昔から言うでしょ?血は争えないって。

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