後始末
貴斗視点です
「この男については、背後を調べ父にも報告いたします。」
「うん。茶戸家をコケにしてくれた奴等のこと、ちゃんと調べないとね。」
「心得ております。私はこれを積んで参ります。若は引き続き楽しまれますか。」
「んー……今日はいいや。たぶんこの騒ぎで出てくる奴もいなくなっちゃっただろうし。もう帰ろ。」
名残惜しいが、仕方ない。今のをそこかしこで見ていた奴がいるのは気配と視線でなんとなく分かってるのだ。この様子と俺の言動はすぐに裏街中に広まるだろう。その状態で俺と喧嘩してくれる奴なんて、いるとは思えない。
そう言うと、景介も察したのか苦笑いを浮かべている。
「承知しました。では若、お召し替えを。」
「ん。帰ったらまた調査だねー。調査調査調査!やんなっちゃうよ。あーあ、早く明日になんないかなぁ。」
「若が彼の方のことをお調べくだされば、後は私が調査いたします。」
景介が俺の脱いだ上着を軽く畳みながら、俺に目を向ける。その物言いに俺は思わず苦笑した。ずいぶんと気の早いことだ。
景介の言う彼の方とは、十中八九初音のことだろう。俺はまだ初音にとっては精々親しい先輩。俺と初音の間に名のついた関係なんてない。だから、明確に初音を俺の関係者だと言うことはできない、明確に茶戸家に取り込むとも宣言できない。なのに、そんな言い方をするなんて。すでに景介の中では初音は俺と添うことが決定してるらしい。でなければ、この頑固者が茶戸家直系者以外を敬語体で呼ぶこともないだろう。
「いや、俺もやるよ。今後の展開的に後回しになんてできないからね。」
「……おっしゃる通りです。油断のできない状況故に、若にはご負担をおかけしてしまいます。私にできることであれば、なんなりとお申し付けくださいますよう。」
「分かってるよ。これでもすでに、十分頼ってるよね。」
2人で呼び寄せた柳田の待つ車に向かいながら仕事の割り振りをしていく。大量の仕事を俺と景介を中心に片付けることになる。自分のできる量を確実にするために、大切なことだ。
粗方割り振り、顔を前に向けた景介が何かに気づいたように動きを止めた。
「どーしたの?景介。」
「……ウチの制服を着た人影が見えたので。」
「今?ここで?」
景介の険しく歪められた顔に、驚きの声をあげる。
今は文化祭の最中で、しかもここは裏街の入り口だ。そんなところ、普通人は近づかない。なのに高校生がいたなんて。俺ら以外に裏街に近づくほど根性のある奴なら気になるけど、そんな奴に心当たりはない。
「えぇ。近隣で似た制服はなかったと記憶しておりますので、おそらく間違いないかと。」
「……見られたかな。」
「私が見たのは後ろ姿でしたので、なんとも言えませんが……。追いますか。」
景介の問いかけに、首を横に振る。確かに誰で何をしていたのか気になるけど、今はやることも多いし、わざわざ仕事を増やすこともないだろう。見られていなかったときの自爆も怖い。
「向こうから接触してきたときに適宜対応しよう。でも、ここの警備体制は1回見直した方がいいかもね。何かあってからじゃ遅いし。」
「はい、承知いたしました。」
頭の中で裏街周辺のマップを広げ、可能な対策を考える。今後は初音が俺の近くにいることになるかもしれないのだ。初音が安全無事にいられるようにするためにも万全を期しておかなければ。
次話から初音視点です