あ、ご愁傷さまです。でも、自業自得だしね
貴斗視点です
男は、尚もこちらを見て余裕の態度を崩さない。
「まぁ、しょうがねぇな。お前は素手の丸腰で、俺は武器がある。」
その言葉に、俺は呆れてしまった。こいつ、実は俺のことあんまり知らないんじゃない?じゃなきゃ、今の発言が現状を把握できてなさすぎて逆に感心するほどだ。なぜ、その程度の実力で、俺を、茶戸家の若頭であり、これまで茶戸家が出動した現場に責任者として出されてきた俺を倒せると思っているのか。
親父だってバカじゃない。現場に出たら、敵対組織にとっては茶戸家の上層部や直系血族は格好の獲物にもなり得る。その時に自分の身も守れない奴を出せばすぐに殺されてしまう。そうならないために親父は俺にどんな相手であっても身を守ることのできる術を身に付けさせたし、俺も組の仕事が好きで、やりたいと思ったから、親父にやらせても大丈夫だと判断させるために強くなった。その過程で俺が無類の喧嘩好きへとなったのは親父的に頭の痛いことだったらしいけど。
あらゆるパターンに対策している俺が、そう簡単にやられると思われるなんて、心外だ。
「……あのさー、君勘違いしてない?」
「……なんだと?」
「この裏街の主は俺。4年前にここを制圧してから、ここはこの茶戸貴斗のための遊び場なんだよ。」
「それがどうした。」
「今まで何十人も俺からここの覇権を奪おうとしてきた奴がいたけど、俺は一度たりともこの席を譲ったことはない。それですら、俺にとっては遊びの範疇だったんだけどね。」
本当に、色んな人が、色んな手段でもって襲ってきてくれたものだ。これまで俺に喧嘩という楽しみを提供してくれた人たちを思い起こす。素手で挑んでくるのは初期でいなくなった。大抵は何かしら武器を持ってきていた。本当は素手での喧嘩が一番ワクワクできるけど、仕方ない。
まぁ、何が言いたいかっていうと、
「武器持ちの相手なんて、腐るほどしてきてんの。チャカならともかく、そんなちゃちなナイフでなんて、楽観視が過ぎるってこと。」
そう言って、呆気にとられている男に一気に詰め寄り、拳を放った。
「ぐっ、がぁぁぁ……っ。」
「言っちゃ悪いけど、君程度の刺客なら、4年前でも倒せてるよ。言ったでしょ?喧嘩したかったから会いに来たって。なのに喧嘩の範疇越えようとするんだもん。遊びから仕事モードになるしかないじゃん?ははっ。俺、基本的に一方的な蹂躙って好きじゃないんだけど。でもま、これも俺の大事なお仕事だもんね。ふふっ。なるべく長くもってね。こーいうのは意識がある奴にやってこそなんだから。その恐怖に歪んだ顔を晒させるのが一番の宣伝だからね。」
楽しげに笑う俺に、男の顔が恐怖に支配されている。こういうときに笑うのが、異常性と狂気を感じさせる一端になってるのは分かってるけど、仕方ない。だって楽しいんだから。自然に、無意識に笑むものを止めろなんて、言わないでほしい。
「んー、まぁこんなもん?茶戸家に楯突くってことはこーいうことなんだよ。よかったねー、まだ穏便な俺で。親父はともかく、景介とか景太郎おじさんは情報を得るために容赦ないから。」
「若。」
「あら。ごっめーん、最悪な奴に見つかっちゃった。景介、こいつ引っ張っていいよ。」
「はい。途中から存じております。若、素晴らしいお手並みでございました。申し訳ございません。裏街が若の所有物であると周知の徹底が不十分でした。」
半分意識の飛んでいる男をきつく縛り上げながら謝る景介に、手を振って応える。裏街が俺のものだと周知しすぎると、俺と喧嘩してくれる人がいなくなってしまう。こういうのは、程々でいいのだ。