生徒会のお手伝い
初音視点です
放課後、私はさっそく生徒会室に赴いていた。今日までに決まった書類を出しておきたい。期限ギリギリでやり直しなんてなったら悲惨だ。
生徒会室には、生徒会長である湧洞景介先輩が1人、驚きのスピードで決済を行っていた。
「会長、今いいですか?」
「もちろん。どうしたの?初音ちゃん。」
「書類の確認をお願いします。」
「お、仕事早いなぁ。確認するね。……うん、うん。オッケー。問題なさそうだね。これで通しちゃうね。」
会長は、私の出した数枚の書類をものの数秒で確認すると、にこりと笑みを浮かべた。さすが、会長選を圧倒的支持で勝ち抜いただけのことはある。処理能力の高い秀才さんだ。
「初音ちゃんのクラスは順調そうだね。報告もマメにしてくれるし、仕事も早く片付くから、こっちも助かってるよ。」
「そんな、ただ心配性なだけですよ。ギリギリでやり直しとか、怖いじゃないですか。」
「心配性だって、裏を返せば長所だよ。……他のクラスは間に合ってないし、不備も多くて。仕事が溜まる一方で困っちゃうよ。」
そう力なく笑う会長の顔は、少し疲れて見える。そして、会長のデスクの上は山になった書類で埋められている。確かに、これでは会長も困るだろう。
「……会長、私でよければお手伝いしますよ。」
私は部活も入ってないし、基本暇だ。文化祭の委員の仕事もあるけど、それも特に大変ということもない。なら、大変な会長のお手伝いくらい、どうってこともない。
そう考え私が申し出ると、会長は驚いた顔でいいの?と聞いてくる。
「もちろんです。あ、私でもできることがあればですけど……。」
「助かるよ!実は生徒会以外にも仕事抱えてて……。それを今、上の人に無理言ってストップさせてもらってる状態なんだ。1人でも手伝ってくれるなら、そっちにも手を回せる。ぜひお願いしたいよ。」
嬉しそうに破顔し、会長は私のためにと机とパソコンをいそいそと準備してくれた。そして、いくつかの書類を山から抜き取り、差し出してきた。
「初音ちゃん、エクセル使える?」
「えっと……中学で習うくらいなら。」
「上等だよ。この書類をまとめてほしい。もし不備があればこれ、付箋を貼って。お願いしてもいい?」
「これくらいなら大丈夫です。がんばります!」
さっそくパソコンに向き合い、どんどん数字を打ち込んでいく。けれど、1枚の書類の中にも、いくつか計算が合わないものやミスを見つけ、唖然としてしまう。
「これは……大変。」
「あはは……ごめんね。ミス多い?初期のやつはしょうがないと思ってるけど……。やれそう?」
「はい。会長、もし大変でしたら、いつでも言ってくださいね。お手伝いします。何個も仕事なんて、大変ですもんね。」
「ありがとう。ここのが済めば他のことにも手が回せるようになるし、頼んでもいい?他のは俺にしかできないから、やりたいんだ。必要としてくれる人の期待にも答えたいし。」
そう言う会長は、嬉しそうな顔をしている。よほどその”他の仕事”が大事なんだろう。それでも、会長の仕事も手抜きしないなんて、すごい。
私がそう伝えると、会長は少し照れたように微笑んだ。
「そんな、褒められると照れちゃうな。それに、俺はまだまだだよ。俺以上に頑張ってるすごい奴だっているし。そいつはすごいんだよ。まさに十全十美、才徳兼備って感じ。完全無欠の男なんだ。同い年なのに、人間として完成してるって。」
「会長がそんなべた褒めする人が?どなたなんですか?」
「あいつ?あいつはね……」
会長がその人のこと話そうとしたとき、携帯が鳴った。会長のだ。
「あ……。ごめん、初音ちゃん。ちょっと席外すね。……はい、景介です。……」
会長が電話に応じながらドアで隔たれた給湯室へ行ってしまった。
会長がべた褒めする人、聞きそびれてしまった。どんな人なんだろう。
私が手を動かしながら考え込んでいると、生徒会室のドアが突然開けられた。
「景介ー、いるー?」
「え?」
「……あれ、キミ1人?景介は?どっか行っちゃった?」
入ってきたのは、あの茶戸先輩だ。