表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/289

もどかしい

景介視点です

俺の言い分を黙って聞いていた若は、耐えかねたように顔を歪めると、ポツリと静かに呟いた。


「……仕方ない。こうするべきなんだから。」

「若……。」

「ね、景介。これはしょうがないことなんだよ。俺がわがままを通すべきことじゃないんだから。」


俺の言い分を封じるように念を押して言った貴斗に、俺は口を噤んで顔を見つめた。


「……っ。」


そして、その目に溜まった潤みを見つけ、ショックにも似た驚きを感じた。

若の目に涙……?泣いて、おられるのか?まさか……。


「わ、若……。大丈夫ですか?」

「……あは。おかしいねぇ……悲しいなんて、俺が思っちゃいけないのに……。ごめん……。今俺、冷静じゃないみたい。頭冷やしてくる。」


そう言い残して立ち去る若に、俺は今度こそ声を掛けることはできなかった。

若が涙を浮かべていた。若が、貴斗が泣いているところなんて、俺でもこれまで見たことがない。10年以上の付き合いの中で、初めて見た姿だ。

やっぱり傷ついているんじゃないか。嫌だって、思ってるんじゃないか。しょうがないって思えないから、しょうがないって自分に無理やり言い聞かせてるんだろ。


「俺にくらい、本音を言えよ。馬鹿野郎。」


大きくため息をつき、しゃがみ込む。

貴斗の、大事なことほど隠したがる癖はもちろん知ってる。分かってる。でも、俺にすら隠されると、結構クるものがあるな……。

俺が1人で落ち込んでいると、誰かが近づいてくる気配を感じた。若が戻られたのか?こんな情けない姿を見せるわけにはいかない。そう思って、顔を上げた。


「……なんだ、父さんか。」

「なんだとはなんだ、景介。……若は?」

「……ちょっと席を外されてるだけ。若に用?」

「明日からのことで、少し確認をな。いらっしゃらないならいい。後でまた来るから、一言伝えておいてほしい。」

「分かった。」

「……んで?お前は何を悩んでいたんだ。」


そのままどこかに行くと思ったのに、父さんは俺に話しかけてきた。しかも、聞かれた内容に俺の体は少しだけビクリと反応してしまった。

やってしまった。これじゃ、悩みがあると白状しているのも同じ。失敗した。


「……極めて個人的なことだよ。」

「ふむ……。とはいえ、お前が悩むほどに関心があることなんて、相当限られているだろう。組のこと、舞菜ちゃんのこと、……いやまぁ、どうせ若のことだろうがな。」

「うぐ……。どうせって……。」


違わないけど……。

父さんからの指摘に、俺は口を噤んだ。悩みのタネが若に関することなのは間違いないし、他に俺の悩みのタネになりえるものも、その通り。言い返したところで、意味もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ