らしくないこと
駿弥視点です
その後、貴斗から細々とした事務連絡や聞き取りを受け、こちらからも気になっていることを聞いていき、2時間近く話をした。俺が今聞いた話を頭の中でまとめていると、貴斗がそうだ、と声を上げた。
『俺、明後日そっちに戻るから。』
「……は?え、何しに来るんだよ。」
『さすがにそっちも心配だからさ。様子も見たいし、初音とも……話をしたいからね。』
「そっか。そうだよな。……どんなスケジュールなんだ?」
『明後日の夜くらいにそっち着いて、2日目はフリー。3日目の早朝に帰るってとこかな。でも、お前に会いに行ってる暇ないから。ゴメンね。』
軽い調子でそう言う貴斗に、内心がっかりする。何だよ、会えるわけじゃねぇのか。
……いや、別に残念とか、思ってねぇし。会えないとか、関係ねぇし。
「べ、別に……。会えようが会えなかろうが、どーでもいいよ。……じゃ、じゃあ貴斗。お前何しに帰ってくるんだ?」
寂しいなんて思ったことが気恥ずかしく、慌ててそう言い繕うと、貴斗はクスクスと笑いながら俺の問いに答える。
……まぁ、普通にバレてんだろうな、ちょっと落ち込んだの。
『2日目は初音とデートなんだー。1日初音と一緒に出かけてくる予定。いいでしょ。』
「くそ……お前って奴は本当にいい性格してんな!わざわざ言うことないだろ、俺に!」
自慢げにそう言う貴斗に、思わず悪態をつく。嬉しそうな声が余計鼻につく。
俺が宇咲さんのこと好きなの知ってて言ってんだから、タチが悪い。ちょっとは俺に配慮してくれてもいいだろ。
「あーあー、お前ってそういう奴だよな。本当にふざけやがって。」
『あはは。しょーがないよね。今は少なくとも、初音は俺の彼女なんだし。』
「そうだな!もうやめろ!傷口に塩塗るようなことするな!」
『んな怒んないでよ。分かってるって。駿弥が泣いちゃいそうなこと。』
「泣いてねぇよ!」
貴斗に言い返しながら、俺はなんだか安心した心地になった。
良くも悪くも……いや、今回に関しては完全に悪ノリだろうが!いつも通りの会話のテンションに、まだ抗争が終わったわけでもないのに、普通の日常が戻ってきたような気分だ。
『まぁ、冗談はこのくらいにして。これでもお前が戦力から抜けるのはすっごい痛手なんだからね。お前をここで潰すわけにはいかないが故の苦渋の決断だってこと、ちゃんと分かってよ。これで無理して使いもんにならなくなった、なんてことがあったら困るんだからさ。』
「分かってる。ちゃんと大人しくしてるから、心配すんな。」
『うんうん、いい子だね。安心してよ。今後だってお前の役目はずっと続いてくんだからさ。それこそ、初音を守る役目だって、たくさんね。』
「んなこと言って、どうせ隣にはお前もいるんだろ?俺はサブ……のサブくらいだな、戦力的に。」
『あはは。』
貴斗の笑い声に脱力する。
こいつの人を喰ったような態度は、どんな状況であっても変わんないんだな。こうして俺は、ずっとこいつにからかわれ続けるんだろうな。
『とにかく、この先はまだまだ抗争は続いてくんだから。……初音のこと、頼んだよ。』
「あぁ。今の俺にできる形で、守れるようにする。安心して戻ってこい。」
『ん。……駿弥、ありがとね。』
そう言って電話を切った貴斗に、俺は少しおかしく思って笑みを零した。
急になんだ、あいつ。しおらしく礼なんか言って。らしくないことしやがって。
……何かのフラグじゃねぇよな、これ。
次話から景介視点が始まります




