一件落着
初音視点です
そう思って私が口を開きかけたとき、お父さんが首を横に振りながらきっぱりと違うと言った。
「君は十分やってくれたと思う。聞くと君は、初音と同級生なんだろう?普通のご家庭でよく育てられた高校生が、こんなことに巻き込まれるなんて、考えられないほどの恐怖を感じたと思う。それでも、君は逃げずに初音を守ってくれた。まずはありがとう。でも、人の親として、そんな身体を張ったマネはしないでほしい。君の親御さんのためにも。」
「あ……、はい。さっき、親にも散々言われましたから。」
気恥ずかしそうに笑みを浮かべると、駿弥くんはお父さんの言葉に頷いた。
「もういいだろ。駿弥、お前は寝とけ。安静にな。宇咲、お前も今日は身体を休めておけ。怪我が多い少ないに関わらず、心はダメージを負ってるもんだ。しっかり回復させてこい。」
駿弥くんとあれこれ確認しながら話を続けていると、とうとう畑本先生からストップがかかった。確かに、思ったよりも時間が経ってる。そろそろ帰らないと。
「じゃあね、駿弥くん。もし何か手伝えたり私にやれることがあったら言って。何でも力になるからね。」
「ありがとう、宇咲さん。何かあれば、遠慮なくお願いするよ。」
笑みを浮かべた駿弥くんに別れを告げ、退室する。
駿弥くんの怪我はすごくひどいものだったけど、もう手術も済んで問題が無さそうだというのなら、私も安心だ。駿弥くん本人も元気だし、そんなにいつまでも騒がず、落ち着いて駿弥くんのためになることを考えていこう。
「宇咲、これでしばらく駿弥がお前につけなくなる。俺も付けるときは極力お前に着いてやりたいが、できないことも多い。不自由を強いるが、むやみに外出はするな。どこか行くなら、必ず事務所の人間を連れて行け。お前の身を守るためだ。分かるな?」
「はい。大丈夫です。元々あんまり外には出ていなかったので。出ないようにしてましたし、いつも誰かと一緒に出かけるようにしてました。今までと変わらないので、気にしないでください。」
「そうか。ならいい。……保護者の方にもお願いします。すでに茶戸家の関係者からお聞きいただいているかと思いますが、現在、非常に危険な状況です。この先、さらに激化することも考えられます。お嬢さんの身は常に危険に晒されていると思っていただいて、警戒を怠らないようにしてください。」
「分かりました。幸い、茶戸の皆さんもとても気を遣ってくれていて、私たちもあんしんしています。」
「であれば、大丈夫そうですね。彼らはまぁ、この手のプロなので、対処は任せていいかと思います。同時に、皆さんの安全にも十分注意してください。何かあれば、悲しむのはお嬢さんですから。」
先生の話に、家族全員で頷きあう。当然だ。分かってるけど、もう1回気を引き締めて安全に注意しないとね。
病院の玄関まで行くと、茶戸家の組員さんが迎えに来てくれているのが見えた。
「お嬢、お迎えに上がりました。ご家族と、……龍司さんも一緒に。」
「俺も?それは上からの指示か。」
「可能なら一緒に、と孝汰坊っちゃんから。」
「……たくしょうがねぇな。一緒には行けん。学校に一連の報告をしてからだ。2時間くらいしたら、自分で事務所まで行くから、先にやることやっといてくれ。」
先生は組員さんと色々と話しをすると、そのまま場を離れていった。学校に報告をすると言っていた。思えば、私も急に休んで友達が心配してるかもしれない。大丈夫だってことは伝えておかないと。
私が友達にメッセージを送ってる間に、車は出発の準備を終えていた。
「初音、行くぞ。」
「うん!」
お兄ちゃんに呼ばれ、私も車に乗り込む。
帰ったらもう1回貴斗さんに連絡しよう。怪我もすぐ治るって、私は大丈夫ですって伝えなきゃ。
次話から景介してんが始まります




