帰りたいけど
貴斗視点です
景介たちの待っている部屋に戻り、自分のパソコンの前に座る。軽く進捗を聞いたら、さっそく作業開始だ。
「栗原、この方面の関連施設を組織別に洗い出して。川岡はそのサポート。三条と藤島はそのままカメラ追って。」
「うす。」
「景介、舞菜ちゃんは?連絡取れた?」
「はい。龍司さんからひとまずの指示を受けていたので、そのまま従うように伝え、向こうの組員に保護を依頼しています。」
「じゃあ心置きなくこっちに集中できるね。りゅーちゃんと連絡取り合って、駿弥に関すること処理しといて。」
俺の指示に動き出した周囲から無造作に送られてくる報告を、パソコン上と頭の中で組み上げていく。
今のところ分かっているのは、車が西の方へ国道20号を進んでいること。各所の監視カメラから見るに、車には7人ほど乗っていそうだということ。その中の1人が初音だとして、6人が実行役。
「向こうにいる組員、何人動かそうかなぁ。」
「若、車が駅付近の住宅前に停まりました。こちらです。」
「……これ、江徒申川の組長の家だね。申川が関わってるってことだ。この地域だと、他に卯次と酉宮も拠点を置いてるし、そこも関わってる可能性は高い。規模感を割り出して、動員する数決めてこうか。」
手早く指示のメールを送り、自分のスケジュールを確認する。
今回の件が江徒と無関係とは思っていなかったけど、まさか拉致して組長の宅内にまで連れ込むとは。家の中にまで連れ込まれると、ちょっとめんどくさい。可能なら、俺が同行できればいろんな話が早くまとまるんだけど……。
「さすがにムリかぁ……。」
どう足掻いても、俺が向こうに戻れるだけの余裕がない。
俺が無理して向こうに戻り指示を出すのと、ここに残って指示を出すのと、どちらがメリットが大きいかを考え、ため息をつく。
いや、やろうと思えば今日の夜までに戻ることはできる。直接初音の救出には間に合わなくても、事後処理の指揮はとれるし、初音を慰めることはできる。
でも、時間的余裕もないし、俺には他にやるべき案件が多く残ってる。初音救出に関する情報収集をここが中心となって行う以上、戻るとなると連絡での共有となるし、本来進めないといけないことも進めにくくなる。
どちらも中途半端にするくらいなら、ここに残って万全の状態で指揮をとるのがベスト。……それは分かってるけど。
「帰りたい……。」
「若……。」
「あぁ……初音、怖がってるだろうな……。俺が代われたらいいのに。早くこんな馬鹿らしいこと終結させて、初音が安心できる環境にしないと。」
俺の独り言に、周囲の組員が気を引き締めた表情で頷くのが見えた。
初音が安心できる環境作り。俺が守るなんて大見栄切ったわりに、危ない状況にばっかり遭わせてるんだから、せめてこの抗争を初音の安全に貢献させたい。
「……よし。とりあえず、向こうの組員に指示を出してこう。施設の洗い出しは終わった?」
「はい。申川の関わりが深そうだとのことでしたので、こちらに別でまとめています。」
「ありがと。……うん。ここが動くと、すぐに救援が来るのか。あとは……。……オッケー。大体の指示は決まった。」
 




