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早く、早く

貴斗視点です

「景介、りゅーちゃんから拉致場所来たよ。……こっから国道方面っていうと、20号だね。西か東かすぐ出せる?」

「もちろんです。黒のバンで拉致の推定時刻が20分前として……30分以内には報告できるかと。」

「頼んだ。」


景介と数人の組員を使って、必死に初音の行方を追う。

念の為と確認した初音のスマホに仕込んであるGPSも、反応はない。早く早くと気が急く一方、まだ足取りを追い始めたばかりでは、遅々として作業も進まない。


「若、西へ向かった黒のバンが1台あります。時間もおおよそ合致しています。」

「OK。西側にあるカメラ確認して。同時にりゅーちゃんに情報共有。とりあえずはそんなとこで。順次指示は出すから、今はまぁよろしくやっといて。」


そう言い残して、俺はひとまず部屋を出た。

親父に報告しないと……。土田のセンセにも確認……。組員の仕事も振り分けし直しを……。

色々考えないといけないことはある。しないといけないこともある。頭に浮かぶあれこれを必死にかき集めてまとめようとして……だめだ。


「くっそ……っ!」


ガシャンっ、と音をたてた棚に、作業をしていた組員が何事かと顔を覗かせた。そして俺の拳の形に凹んだスチール製のそれと俺の顔を見比べ、困惑しているのが分かる。


「わ、若……。」

「……ごめん、気にしないで。後で棚も直しとくし。親父どこ?」

「あ……えと、部屋にいらっしゃるかと……。」

「そ。ありがと。」


声をかけてきた組員に礼を言い、親父がいるという部屋へ向かう。


「親父、入るよ。」

「おぅ、貴斗。さっきの音、お前だろ。ガッシャンガッシャン騒ぎやがって。何があった。」

「……初音が拉致された。駿弥も撃たれて、連絡取れてなみたい。」

「なっ……。龍司がいるだろ!あいつはどうした!」


俺の様子に怪訝そうな目を向けてきてた親父も、初音拉致と駿弥負傷の言葉に、焦りを見せてきた。


「りゅーちゃんは今駿弥についてもらって、土田のセンセに見てもらってる。問題は初音。りゅーちゃんが車に乗せられてるとこ見たって言ってて、それから行き先割り出してるとこ。」

「……そうか。」

「てわけで、俺しばらくこの件に集中したいんだよね。とりあえず明日中までで一区切り。」


俺の要求に、親父が少し考えた後に頷く。幸い、今すぐに対応しないといけないことは他にないしスケジュール上も特段詰まっている時期ではない。

親父が呼び出した景太郎おじさんにも現状を共有し、仕事の再振り分けをしていく。なんとか俺や景介が抜けても問題ないくらいまで都合をつけ、一息。本心としては初音のことに注力したいけど、抗争のスケジュールも無意味に崩したくはないから、あまり影響が出すぎにない範囲にできそうでよかった。


「じゃ、そういうことで。……場合によっては俺、一回帰るから。」

「そうなんねぇようにするのがてめぇの仕事だろ。……キッチリ片つけておけよ。」

「容赦はしないよ、知ってるでしょ。」

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