広がる絶望
初音視点です
後ろからドタドタと追ってくる足音が聞こえる。怒鳴り声だって。怖い。
恐怖でパニックになった頭を必死に回して、この後どうするべきか考える。
1番は先生に連絡できること。でも、今はそんな余裕ない。近くに逃げ込めるとこ……あんまり無関係な人を巻き込むのは気が引ける。民家はもちろん、お店とかに逃げ込んでもし怪我させちゃったら……。交番……は駅前にあるけど、ちょっと遠い。
「とにかく……逃げなきゃっ……。」
前に何かの役に立てばって貴斗さんと一緒に覚えたここらへんの地図を頭の中に引っ張り出して、必死に足を走らせた。行き止まりに入らないように、危ないところに向かわないように、道を選びながら右へ左へ曲がっていく。その間にも、後ろから追ってくる足音や怒鳴り声がどんどん近づいてきてる気がして、冷や汗が止まらない。
あぁ、誰か警察に通報してくれないかな。女子高生が大人数の大人に追われてるって、そこそこ異様な光景だよね。
あまりの恐怖と非現実感に、こんな他人事みたいな考えまで頭に浮かんでくる。
普段あんまり運動しないのに急に走ることになったからか、もう足がもつれそう。なんとしてでも捕まるわけにはいかないって気力だけでなんとか足を進めてるだけだ。
「はっ……はぁっ……はぁっ……。」
「いたぞ!」
ついにすぐそばまで迫られたみたいだ。後ろを振り返る余裕がないから分からないけど、さっきよりも声が近くなってるような気がする。
でも、悪いことばっかじゃない。がむしゃらに走ってたのに、偶然にも学校が近い。学校に行けば畑本先生がいる。そうでなくても、他の先生だっている。
「学校まで入れれば……っ。」
次の曲がり角を右へ行けば学校まで一直線というところで、前方からも大人の影が見えてきた。向こうも私の姿を見てこちらへ向かってくる。
怖い。貴斗さんや会長、組の色んな人に危ないってことは言われてきたし、自分でもなんとなく想像したりしたけど、こうして追われて絶体絶命な状況になって、お腹の底から恐怖が込み上げてくる。
逃げなきゃ。足を動かして、前に進めないと。
「はぁっ……はぁっ……。」
「撃て!」
後ろから鋭い声が飛んできて、先程も聞こえた破裂音が響いた。
「あっ……。」
焼け付く痛みを感じたのは直後だった。弾がかすめたふくらはぎから血が流れてきている。痛くて熱くて、私は倒れ込んだ。足が熱くてじんじんとした痛みでいっぱいになる。
追ってきた人たちも、私が動けなくなった隙にすぐ近くまで迫ってきていた。
「はっ、はぁっ、はぁ……。……やっと捕まえたな。茶戸若頭が一等大事に扱ってるって話だったが、こうしてこっちの手に入っちまえば後は楽だ。もう1人のガキも、補佐役の相手だろ。これで茶戸家は終わりだな。」
1人が私を見てニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている間に、私は周りを取り囲んでいた人たちに腕を取られ押さえられてしまう。
私の胸の中に、重く辛い絶望感が広がった。こんな形で捕まるなんて。こんな形で貴斗さんたちの足手まといになるなんて。
「こいつは車に積んどけ。兄貴には俺から話しておく。茶戸の女を捕らえたなんて、この上ない成果だ。これを知ったときの奴等の顔が今から楽しみだ。」
手足を縛られ、口もテープで塞がれた私は、ロクに抵抗もできずに車内へと運ばれた。情けなくて悔しくて、涙が溢れてくる。
これから私はどうなっちゃうんだろう。どうか私のせいで貴斗さんたちがひどい目に遭いませんように。
「……さきっ……!待て……っ。」
失意の中、ドアが閉まる直前に頼もしい声が聞こえた。
次話から畑本視点が始まります




